第一幕 運命の輪廻 - 3/5

                 2022.7/31

第三章 伝説のもの

 

「これ、は……?」
「昔に使っていたものなんだけどね。今のあたしにゃ使えないものだから、あんたにやるよ!」
町で宿を営む恰幅のいい女性からマントをぐぐいっと押しつけられ、ウォーリアは驚愕を通り越して若干引いていた。
コーネリアという町はとにかく気風が良い。ウォーリアが戦士然としているのに関係なく、普段なら装備のできないものまで町の者はくれようとする。
「……」
しかし、ここで断るのも気が引けてしまい、ウォーリアは宿屋の女性からマントを受け取った。外で装備するわけではなく、家で防寒用に羽織る程度に使用すればいい。それに、見た目も愛らしいマントは、購入するとすればウォーリアなら絶対に選ばない類のものだった。
たまにはこういうのもよいと、ありがたく受け取ってからは、気に入ったかのように装備をして日々を過ごすようになった。頭まで覆うマントは暖かく、冬を過ごすうえでも重要なものとして、ウォーリアは大切に扱った。

 

「光の戦士よ。此処に居るか?」
ある日の朝のことだった。まだまだ吐息が白くなるほどの凍える時間帯に、ガーランドがウォーリアを訪ねて家までやってきた。
マントを愛用していたウォーリアは外すことも忘れ、そのまま扉を開けて出迎えた。
「どうした? ガーランド、こんな早朝から」
このような早朝からガーランドが来ること自体珍しい。なにかあったのではないか。そう思って訊いたのだが、ウォーリアの眼に映るガーランドは、厳つい兜を被っていてもわかるほど驚愕していた。
「どうした?」
二回、ウォーリアは同じことを尋ねていた。ガーランドのこの驚き具合から、王城からの依頼要請が入ったのか、なにかの討伐命令でも出されたのか……どちらかだとウォーリアは考えていたのだが。ガーランドの態度を見ていると、そうでもないことに気づいた。
「ぐぬぅ……」
ガーランドは呆気にとられていた。光の戦士ことウォーリアが朝に弱いことを知っての訪問であったのだが、起きていたこと以上に、その姿に声も出ないほど吃驚していた。
いわゆる白魔道士の上級職である導師のみが装備できるという、猫耳ケープを頭からすっぽり被っているウォーリアの姿を目に捉えてしまったのだから……。これは、いくらなんでも想定外だった。そもそもどうしてウォーリアが導師のケープを装備できるのか。どこで手に入れたものなのか。ガーランドはどこから突っ込んでいいのか、それすらわからなくなっていた。
「町の者にもらったもの……だが、どこかおかしかっただろうか?」
「……」
おかしい、おかしくない以前のものだった。突っ込みの着地点が見つけられない。不時着すらできない状況に、ガーランドは頭を抱えることになった。コーネリアの町でかつて導師となった者がいたことも、ガーランドにとって初耳であったし、その伝説級のケープを気風良くウォーリアに渡したことも意外であった。
「私には似合わない、だろうか……?」
「……」
どこか自信なく説明をするウォーリアに、ガーランドの内心は早馬が跳ねるようにドキドキと鼓動を繰り返していた。なんなら、今すぐこの場で押し倒したいくらいだった。しかし、ここはどうにか押し留まった。
それよりも、このような愛らしい姿をして無防備でいるウォーリアに、悪い虫がつかないように見張る必要が生じるのではないか。ここへ来た用事すら忘れ、ガーランドはウォーリアの愛らしい姿を目に入れては、兜の下ではだらしない表情を浮かべているのであった。