心をときめかさないと出られない部屋(DFF)

                 2021.2/06

 ガーランドとウォーリアオブライト──ウォーリアは、なにもない部屋に閉じ込められていた。部屋の壁には【キュンとすると扉が開く】と書かれた紙が一枚だけ貼られている。
「は?」
 ガーランドは唖然とした。よりによって、色気の欠片もない目の前の青年に対し、心をときめかせないと開かないと書かれていることに。ウォーリアの様子をちらりと窺えば、意味がわかっていないのか、考えている素振りだけを見せていた。はぁ、ガーランドは嘆息するしかなかった。
 このような状況で、ウォーリアにときめくはずもない。剣を交えて互いに高揚でもすれば、気が昂って見方も変わるかもしれない。だが、あいにく武防具の類は部屋に入ると同時に消失している。ガーランドの巨剣も、ウォーリアの宝玉の埋め込まれた剣と盾も。
 ガーランドはどうすれば心をときめかせられるのか、頭を悩ませていた。しかし、なにも思いつかず、策尽きたとばかりに苦笑を浮かべた。
「私は……、ふたりで一緒に居られるのなら……別にこのままでもいい」
 これまでなにも発してこなかったウォーリアが、ぼそりと小声で言いだした。ガーランドは思わずぐっと言葉を詰まらせる。
「はっ? なにをきさ……ま」
 ガーランドは動揺していた。まさかこのような場所で、このようなことを言われてしまうとは。ウォーリアからの想定外の言葉に、ガーランドの心臓は早鐘を打つかのように高鳴りだす。ウォーリアは胸の装甲に触れ、ガーランドの心臓のあたりに手をあててきた。
「開いたか」
「む?」
 扉は秒で開いた。ウォーリアはひと言だけ呟くと、ガーランドと眼を合わせる。まっすぐに見つめてくるウォーリアのアイスブルーは、見るものを惹き込むような錯覚に陥られてしまう。ガーランドの胸の高鳴りは、もっと激しいものに変化していった。
「おまえの心の臓がこうやって激しく拍動しているあいだに……早く出よう」
「……」
 ウォーリアはそれだけを言うと、さっとガーランドの胸から手を外す。しかし、ガーランドはその瞬間を見逃さなかった。
 心なしか頬をうっすらと朱く染めているウォーリアの手を黙って掴み、ガーランドはそそくさと部屋をあとにした。

                   ──了