第七章 白い花の恋の行方 - 7/7

***

 昼食の支度を年少組に任せ、年長三人とガーランドは少し離れた草むらに座った。遠くで年少組の賑やかな話声が時折聞こえてくる。
「何とか終わりそうだね……」
 セシルは微笑む。横にいたバッツも笑っている。
「いや、まだだぜ。ウォーリアのヤツ、まだ分かってない。セシルにガーランドの子供をいつでも作れるって言われても、アイツ無反応だった。分かってたんなら、もう少し喜んでもいいはずなのにな」
「だったらガーランドが教えてあげればいいんだよ。これからなんだから。ね、ガーランド」
「……儂がか?」
「アンタ以外で誰が教えるんだ……?」
「む……」
 クラウドの突っ込みにガーランドは口籠った。確かに他の男に手解きを受けようものなら、絶対にぶっ潰す。それ以前に即殺している。ガーランドの内心は変な嫉妬心でいっぱいになった。

「バッツー。ちょっとこっち来てくれー」
「おー。今行く。ジタンが呼んでるからオレ抜けるわな」 
 バッツは年少組の方へ向かっていった。どうも何かトラブルが発生したらしい。残された三人で会話は進んでいたが、ガーランドはどうしてもバッツで気になっていたことがあった。本人のいない間にとクラウドに問いかける。
「旅人の気配や場の空気が突然変わる、あの事象はいったい……?」
「ああ、あれか。あれはアナザー、オレ達は黒バッツと呼んでる」
「アナザー? 黒?」
「ガーランド。あれ見たの? すごいね。あれ出て無事でいたの初めてじゃない?」
「は?」
どういうことだ……? ガーランドは首を傾げた。確かに空気は変わり、全身を総毛立つ何かが支配する空気にはなる。だが、無事とは……?
「バッツは自身に大量のジョブの性質を内包させている。穏やかなのや賑やかなの、物騒なのいろいろ、な。それをすっぴんのまま、ジョブチェンジしてるんだ。だから外見上は分かりにくい、というか全く分からん」
「アナザーはそのひとつ。性格がかなり黒いから気を付けておかないと、浄化まではされなくてもエクスデスみたいにはされるかもね?」
 朗らかに笑うセシルに、ガーランドは無言になっていた。思い当たる節があるため、言葉が見つからない。
……儂が感じた旅人の黒はそれか。
「アナザーは長い時間出ていない。バッツ自身がすぐに抑え込むからな」
「気を付けよう」
 己の感じたものが気のせいではなかったことに安堵する。だが、そのような危険なものまで、まさか内包させていたとは。ガーランドは苗木にされたエクスデスを考え、兜の中で別の汗を流した。
「たっだいま~。調味料切らしたみたいだから作ってきたぜ。あれ、どした? おっさん、オレの顔に何か付いてる?」
「……」
……今の話は聞かなかったことにしよう。
 バッツがいい笑顔を見せ戻ってきた。黙って自分の顔をみてくるガーランドが気になった。それで問いてみても、ガーランドは無言だった。バッツはじっとガーランドの兜面を睨みつけるように見ていたが、隣に座るクラウドから声がかかり、そちらに振り向いた。
「ガーランド。バッツも戻ってきたし話を戻そう。ここから先はアンタとウォーリアの二人の問題だ。オレ達はもう関与をしない。ただし、週に一回はウォーリアを返してくれ。そちらに行きっぱなしではティナが悲しむ」
「連れて行ってよいのか?」
「神殿は復旧出来てなくても、アンタの生活スペースがあるだろ? そこで子作りなり、なんなりすればいい。オレに言わすな」
「クラウドー! セシルー! バッツー!」
「ティナが帰ってきたようだね」
「ッ‼ ウォーリア⁉」
「正解。おっさん。あれをもらいに、クラウドとセシルはコスモスのとこに行ってたんだぜ。白はアイツに良く似合うな」
 ティナに手を引かれてウォーリアはやってきた。ウォーリアは白の清楚なドレスに身を包み、氷雪色の髪はティナに結わえてもらったのか、綺麗に纏められている。
 髪飾りのように至る箇所にあの白い花が着けられ、ジタン的に言えば超ヤバいクラス、ティーダ的に言えばマジ反則クラスの美女がここにいた。
「っ⁉」
 年少組は遠くから口をあんぐりと開け、固まっている。フリオニールに至っては顔を真っ赤にして、鼻血を噴きそうな勢いになっている。
 ウォーリアは同じように固まるガーランドの傍に近寄った。羞恥からか頬を朱に染め、アイスブルーの瞳を揺らしてガーランドを見つめる。
「……ガーランド。ティナにしてもらったのだが、おかしくはないだろうか?」
「ここまでとはな。魔導の少女に感謝せねば……」
 それだけを言うとウォーリアの腕を引き、ガーランドは胸の中に閉じ込めた。ウォーリアは大人しくガーランドの胸の中に収まり、鎧に頬を寄せた。
「ウォーリア。愛しておる」
「わたしもだ、ガーランド」
 胸の中にいるウォーリアにしか聞こえないほど小さな声で囁くと、ウォーリアからもか細い小さな声で返されてきた。
「はい。爆発させるのはあとな。ウォーリア、これはお前用の新しい鎧だ。そのドレス含めて、クラウドとセシルに礼を言っとけよ」
 二人の甘くなりかけた空気をぶった切り、バッツがまだ大袋に入ったままのウォーリアの新しい鎧を見せた。あの重鎧とデザインはそのままで、少し軽量化された新しい軽鎧に、ウォーリアはガーランドの胸の中から擦り抜け、釘付けになった。
「これを装備すれば、またお前の良き闘争相手になれるわけか」
 ドレスを脱ぎ捨て、新しい鎧を装備しそうな勢いでウォーリアは笑む。その不穏な言葉を、ここにいた男性陣は一度は聞き違いと捉えた。しかし……。
「ガーランド。この身の傷が癒えたら、また戦ってくれると言っていたのはお前だろう? 違うか?」
「そのドレス姿で、この甘くなりかけた雰囲気の中で、何故、今闘争とか言う⁉」
 バッツの突っ込みが静かなこの場によく響く。しかし、ウォーリアは眼を輝かせ、新しい鎧に魅入っている。おそらく突っ込みは耳に入っていない。
 ガーランドは兜の中で嘆息していた。確かにあのときにガーランドは言っていた。言ったが……。
「兵士よ。今すぐウォーリアをもらい受けても構わぬか?」
「構わん。鎧ごと連れて行ってくれ。しばらく帰って来なくていいぞ、ウォーリア」
「クラウド? どういうこ、と……? こら、ガーランド下ろせ!」
 ガーランドはクラウドの許可を得ると、ウォーリアの言葉を無視して担ぎあげた。新しい鎧の入った大袋も持ち、三人に向かって挨拶をした。
「すまぬな。世話になった。年少の小童どもにも上手く言っておいてくれぬか」
稽古をつけてやれなくなったと。ガーランドが心底申し訳なさそうに洩らすから、クラウドは首を左右に振った。
「大丈夫だ。行ってこい。ウォーリア、もう泣くなよ。お前は笑っていろ」
「ウォル。ガーランドならきっと優しくしてくれると思うから、辛かったらちゃんと声に出すんだよ?」
「おっさん。ウォーリアにおっさんの分の香と薬茶渡してあるんだ。薬茶の方は前後にウォーリアに飲ませてくれ。精神安定と鎮痛効果がある。香はただの癒しの効果だから、状況に合わせて上手く使ってくれ」
「え? 鎮……痛? わたしは何か、痛いことをされるのか? ガーランド?」
「ちゃんとお前を溶かしてやるから安心しろ。これからの闘争場所は儂の寝所でだ。お前の願いも叶えてやれるし丁度良い。自分から言ってきよったのだから、儂はもう逃がさぬぞ」
「何? え、寝所?」
「お前は黙って儂に身を委ねておればよい。加減などしてやれぬから覚悟はしけおけ」
「……覚悟? それは?」
「何から何まですまなかったな。ウォーリア動くぞ」
 最後に三人にもう一度礼を伝え、大袋とウォーリアを担いだガーランドは神殿へと帰って行った。

「行ったか」
「やれやれだよね」
「ようやく大団円だな。長かったな」
「ご飯出来たッスよ~。って、あれ、ウォルとガーランドどこ行ったッスか?」
 年長組とウォーリアとガーランドを呼びにきたティーダは、二人がいないことに気付いた。居場所を聞きながら、周辺をキョロキョロと見まわすティーダに、三人は人の悪い笑顔を向けた。
「あの二人なら、今頃蜜月だ」

                  Fin──