***
深夜、バッツの薬が効いてきたのか、ウォーリアの熱は急速に下がり始めた。しばらく経つと、今度は冷えてきたのか、身体をぶるぶると震わせだした。
……寒いのか?
汗のかいたアンダーはまた着替えさせたので、冷えることはないと思っていた。だが、掛布だけでは足りないのか、ウォーリアは全身を小さく丸め込むようにして眠りだした。さすがに見兼ね、ガーランドは鎧を脱ぎだした。
……高熱の次は寒気か。繰り返すならば、旅人にまた調合してもらわねばならぬな。
そう考え、鎧を全て脱ぎアンダー姿になった。鎧はウォーリアの青の鎧の側に纏めて置いておく。
ガーランドはウォーリアの寝具に潜り込んだ。狭いがウォーリアを抱きしめることで、どうにかすることが出来た。ガーランドは貸していた外套でウォーリアを包み、優しく抱きしめた。
「ん……」
ガーランドの体温に気付いたのか、ウォーリア自身がガーランドの巨躯に両腕を伸ばしてきた。互いにぎゅっと抱きしめ合う形になる。
ウォーリアはガーランドの胸に頬を擦り寄せてきた。まるで安心したかのような笑みを浮かべ、スースーと規則正しい寝息を立てだした。
……寝たか。ところで、儂はいつまでこうしておればよい?
今宵は拷問だな。ガーランドはひとり、そう呟いた。
──温かい。
この温もり、この匂い……私は知っている。
心地好い……私はいつも、この温もりに抱かれていたのか……。手離したくない。ずっと傍で感じていたい。
眼を開ければ傍にいるのに……分かっているのに眼が開かない。
眠い……、もう少ししたら起きるから……私が起きるまで傍にいて欲しい……ガーランド──。
◆◇翌日朝食前◇◆
ようやくウォーリアは完全に意識を手放し、ガーランドは離れることが可能になった。寝具より出て、ガーランドは鎧を着込んでいった。着込み終え、ひと息ついたところで、テントの外からバッツの声が聞こえてきた。
「おっさん、今入っても大丈夫か?」
「構わぬ」
ガーランドが答えると、バッツが調合の材料一式を持って中に入ってきた。眠るウォーリアの隣にバッツは腰を下ろし、目視でウォーリアの容態を確認していった。ざっとウォーリアの様子を診て、ガーランドにも確認をとっていく。
「ウォーリアはどうだった? 状態診ないと薬作れないからさ、様子を見に来たんだ」
「熱は下がったが、夜中に寒気があった。先ほどようやく落ち着いたようだが」
「んー、寒気ねー。ならコレとコレをコレを…」
ぶつぶつ呟き、バッツは乳鉢で何やらゴリゴリと擦っていく。ナマで調合を見るのは初めてだなと思い、ガーランドは以前からバッツに対し、持っていた疑問を打ち明けた。
「旅人よ。うしろで暗躍しておったのは……貴様だな」
「……」
バッツは顔を上げた。一瞬だけ驚いた表情をガーランドに見せると、目を細めてニヤリと笑った。
……空気が、変わりよった?
ゾクッと背筋に感じた何かを隠すように、兜越しにバッツを睨む。先ほどまでゴリゴリと調合していた青年とは明らかに気質の違うバッツに、ガーランドは戦慄していた。
「……暗躍って何だよ? オレは少し手助けしただけだぜ?」
「……」
「そんな顔すんなよ? おっさん。タネ明かし……してやろうか? オレはな、一番に闘争を終わらせた。だから、全てを見てたんだ」
何も言わないガーランドにくっと笑い、バッツはタネ明かしを始めた。黒い笑み。暗黒パラディンの放つそれとは異質の黒さを放つ笑みをガーランドに見せた。見せつけられた側のガーランドは思わず息を詰めた。
まず……、お前ら一組がムダに殺し愛ってること。完全出来レースのおかげでウォーリアの死が確定していること。お前に殺されて何度も浄化していくアイツを、何も出来ずに見ているのがイヤになったこと。
ベクトルの向きは同じなのに、輪廻だか何だか……オレにしたら、すげーくだらねーもんで縛り食らってるお前らを、何とかしてやりたくなったこと……だな。
だからオレは前々回のウォーリアに聞いてみたんだ。
『クラウドのように無干渉を決めてしまえば、おっさんと戦うこともなくなるのに?』
『輪廻の鎖に囚われ動けずにいるガーランドを、私は何としてでも救いたい』
ウォーリア言ってたぜ。おっさん、愛されてんだなーって、オレはそのときに思った。……結局、そのウォーリアもやっぱり殺されたけどな。
ふー。ここまで言ってバッツは一度大きく息をはいた。ガーランドは黙ってバッツの解明を聞いていた。
「……だから前回は手を貸した」
時折見せる妖しい笑みにガーランドは息を呑み、バッツはそのまま続けていく。
ウォーリアのヤツ、守護の戦士のくせに結構好戦的だろ? 盾ぶん投げるわ、ぶつけてくるわで、その剣は飾りかって聞きたくなるくらいまず盾でくるだろ? だから、おっさんと対峙しても、いきなり盾飛ばさず何もせずに待て、と。
おっさんが何か仕掛けてきたらシールド張るくらいで、お前からは一切何もするなって言ってやった。おっさん、戦意ないヤツとは戦わない主義だもんな。アイツの聞きたいことに、もしかしたら答えてくれるんじゃないかって、オレは思ったんだ。
前々回のウォーリアで、アイツがおっさんを想ってることが分かってた。だから、前回のウォーリアが自覚しだしたときに『オレじゃなくおっさんに言え』って発破をかけてやったのも、ドウテイだってそうだ。
気になってたようなんでおっさんに聞いて、ついでにヤってもらったら、お前らの関係にも何かしら変わるだろうと思ったんだ。
ああ、言っとくけど、オレはおっさんのこと、一応信じてたぜ。セシルの言う騎士云々は抜きにしてさ。敗者だからって、ウォーリアにそこまでの無体は働かないだろうってな。もしするなら、今までにもう何度だってしてるだろうからな。
ここまで話すと、バッツはガーランドから乳鉢に目を向け、ゴリゴリと続きを擦り始めた。
「……それだけだぜ? あとは本当に何もしていない。でもな、クラウドもセシルも一応全て知ってる。もし裏で糸を引いてるっていうんなら、オレら三人で、だな」
にひひ、笑いながら調合を続けるバッツに、先ほど感じた空気は完全に消えていた。今は何も感じられない。
……今のは、いったい?
ガーランドは呆然と聞き入っていたが、一応納得は出来た。初めて自室にウォーリアを招いたあのとき、あの青年が洩らした、意味の解らなかったあの発言──。
『話を聞いて欲しいだけなのに、聞く耳を持たない相手の元になど、クラウドがわざわざ許可を出すはずがない。クラウドもセシルもバッツも……承知のうえで私を送り出してくれている』
あのときの言葉はこれのことだったのか。分かりにくい。というか、どれだけ話を斜めに飛ばす? あの天然は……。ガーランドは頭を抱えた。
「アイツは天然だけど、頭もムダにいいんだ。話がぶっ飛んでるように聞こえるけど、実際はかなり先のことの答えを言ってる場合も多い。だから、ちゃんと話を聞いてやらないとダメなんだぜ」
ただし、天然のぶっ飛び発言か、先読みかの区別はそのときにならないと分からないけどな。それはオレらでも分からないんだよなー。くすくす笑いながらバッツは言う。
「……気を付けよう」
「おっさん、ウォーリアは嘘を言わない。けど本当のことも隠してなかなか言わない。だいたい分かるよな? 昨日も言ったけど、心に余裕がなくなればアイツは一切隠すことが出来なくなる。もし本心を聞き出したいなら、そのときを狙うしかない」
「……」
……心に余裕か。
ガーランドはちらりと眠るウォーリアを見遣った。方法はないこともなかった。ただ、それを今のウォーリアにして良いか……葛藤があった。
「昨日の熱のある間に、ウォーリアと話が出来てたら早かったんだけどな。あのくらいにならないと本音をぶちまけられないってのも、アイツらしいっちゃあ……らしいんだけどな」
『ならば私も共に連れて行け! もう……私をひとりにするな!』
「……全くだ」
バッツの言葉にガーランドも同意した。兜の中で小さく嘆息する。あれが本心なら、どうしてあのときに己の元から逃げ出した?
「よし、出来た」
ゴリゴリと調合をしていたバッツの薬はようやく完成したようで、嬉しそうな声をバッツはあげた。しかし、その横でガーランドは首を捻り考えていた。では先の旅人の発言は……?
「旅人よ。なぜ彼奴の〝聞きたいこと〟は毎回ドウテイになる? まさか二度に渡り、同じことを聞かれるとは夢にも思わなんだ。もしや今回も貴様が?」
「あ~、それな」
調合した薬を小分けにしながら、バッツは目を泳がせた。頬をカリカリと掻き、言いにくそうに口を開く。
「フリオがよくそのネタで揶揄われんだ。オレもやるしな。アイツ、横で聞いてて気になったんじゃねーか?」
「……」
……義士も毎回不憫だな。
ガーランドは完全に呆れて何も言えなかった。あの不憫な青年と、まさか同類項にされていたとは。あまりの馬鹿馬鹿しさに、ガーランドはブラックアウトしかけた。しかし、ガーランドを現実に引き戻したのは、紛れもなくここにいる、今はおそらく薬師の青年。
「でもさ。今回はオレ、完全にノータッチだぜ? おっさんとこ行かすの、反対したんだからな。だから、おっさんに聞くようにって、誘導とかも一切してない。ウォーリア自身が、おっさんに直接聞きたいって思ったんだろ?」
まだ自覚どころか意識すらなかったはずなのに、スゲーよな。バッツの言葉に、ガーランドは複雑な心境だった。ウォーリアが自ら逢いに来ようとしてくれたのは、確かに嬉しい。だが、その理由があれ……。
「だからさ。アイツから話聞いたときは、オレ腹抱えて笑っちまったよ」
「……」
ガーランドは兜の中からバッツを睨んだ。元々の仕掛人は貴様だろうが。言ってやりたかったが、ぐっと堪えた。今のこのお節介な青年に、それを言ったところで全くの意味はない。
怒らなければならないとするなら、むしろウォーリアの方……。そして、それ以上に確かめねばならなかった。何故儂にそれを聞いたのか、と。
「ん……」
「お、起きたか? ウォーリア?」
「バッツ……? ここは?」
起き上がろうと身体を動かすウォーリアに、バッツは静止させた。もう一度横になるウォーリアに優しく話しかけてやる。
「まだ起き上がるな。寝てていい」
「ん……」
「熱は……下がってるな。少し薬が効きすぎたか? 夜中寒かったんだってな? 体温下げすぎたな」
ウォーリアのひたいにバッツは手をのせ、体温を計り始めた。まだぽやんとした状態のウォーリアは、バッツの大きなヘーゼルの瞳を見つめた。
「大丈夫だ。温かかった……」
「それならいい。身体の方はどうだ?」
……なるほど。おっさんが温めたか。
知りたくもないことまで知ってしまい、バッツは笑みのまま現実から逃避しかけた。元は解熱薬の効きすぎによる体温低下が原因なわけだから、バッツにも原因はあるのだが。
「……眼と喉が痛い」
「だろうな。あんだけ泣いて叫んだらな。じゃあ起きて薬飲め」
バッツはウォーリアを起こすと、先ほど調合した薬を水に混ぜたものを差し出した。
ウォーリアは心底イヤそうな顔をして受け取ったが、薬を見るだけで一向に飲む気配はない。だんだんとバッツの目から笑みがなくなくってきたことに、ウォーリアは気付いた。このまま薬と睨めっこしていても仕方ないので、渋々薬入りの水を飲み始めた。
「苦い……」
「文句言うな。飲んだら寝ろ。濡らした布は朝食出来たら一緒に持ってきてやるよ」
横になったウォーリアは掛布を頭まですっぽりと被った。恥ずかしいのか、か細い小さな声でバッツに礼を伝える。
「バッツ……ありがとう」
「いい子だ。待ってろ、な」
バッツはウォーリアの掛布の上から頭を撫で、優しく微笑んだ。そして言いたいことを伝え、ガーランドに目配せしてそのままテントを出ていった。
「……」
バッツが行ったのは、まるで子供を安心させるために大人がするような扱いのもの。見ていて微笑ましいものであるはずなのに、横で見ていたガーランドには、チリチリと胸に妬くものがあった。
……旅人に嫉妬? まさか、儂が?
「……っ‼」
掛布を眼の下まで下げ、ウォーリアはぼんやりとバッツの出て行った出入口を見ていた。しかし、視界の端にガーランドを捉えるとガバッと起き上がり、ウォーリアはそのまま眼を見開き固まった。その早業に、ガーランドは少しばかり驚愕した。
二人は気まずそうに黙って、目を離すことも出来ないまま互いの顔を見つめ合っていた。そこまで長い時間もかからず、ウォーリアはガーランドから視線を逸らし、下を向いた。
「ガーランド、何故ここに?」
「儂はずっと此処におった。気付いておらなんだのか?」
「……」
ウォーリアは答えない。答えられない。本当は知っていた。熱に浮かされた自身が、ガーランドを捜して泣き叫んでいたことも。寝ている間に感じた、あの温もりと匂いがガーランドのものであると。ガーランドに抱きしめられて眠ったことも……全て覚えている。
ふと、横を見ると、昨日脱ぎ捨てた自身の青い重鎧とティナにもらった白い花があった。水に生けていたわけではないので、すっかり萎れてしまっている。
……まるで私のこの想いのようだな。悪いことをした。
白い花を手に取り、ぎゅっと握りしめる。花はウォーリアの手の中でくしゃりと潰れてしまった。
……私の想いも、これで終わりだ。
ウォーリアは眼を瞑り、小さく微笑む。バッツだけではなく、おそらく皆を巻き込んで多大な迷惑をかけた。このようなことは、今後絶対にあってはならない。私はもう大丈夫。たくさん泣いた。もう……迷うことはない。
きっとガーランドを睨むように見上げる。突然強いアイスブルーに見据えられ、ガーランドはたじろいだ。
「何だ?」
花を握り潰したかと思えば突如睨まれ、ガーランドとしては思い当たる節がまるでない。ガーランドがぼそりと呟くと、ウォーリアは小さく笑みを浮かべたまま、じっと兜越しに黄金の目を見てくる。
「ガーランド。ありがとう。前の私を愛してくれて」
「……何?」
意味が分からなかった。突然何を言い出すかと思えば、全く関係のないこと。先はガーランドが何故此処にいるのかいないのかで、話をしてはいなかったか?
「寝ている間に、いろいろと私の頭の中に流れ込んできた……」
お前の温かい胸や腕に抱かれて眠る私。
お前に愛された私。
お前の闇の中で見つけた光──。
「全て前の私……お前は前の私に縛られて、今の私を見てくれはしないのだと……やっと分かった」
「……は?」
……待て。何を言ってる?
決意を込めた美しい笑みで紡がれていく言葉に、ガーランドは訝しむも一応は最後まで聞くことにした。ウォーリアの紡ぎだす言葉は、すでにおかしな方向へと流れていっている。ガーランドは天を仰ぎたい気持ちでいっぱいだった。
「お前に愛されていた……私にはこの事実だけで充分だ。だから、お前への想いはこの胸の中に封じ込め、お前の良き闘争相手でいようと思う」
「……」
……どうしてそうなる?
はー、ガーランドは盛大な溜息をついた。どうしてこのような話が出てくるのか、それすら思い浮かばない。
『ガーランド、アイツにまわりくどいことを言っても、変に解釈して斜め上に行くだけだ。ひと言でいい。そのままの言葉をアイツにやってくれ。好きだと、愛してると』
ガーランドはテントに入る前に交わしたクラウドの言葉を思い出した。
……あの兵士の言う通りだったか。
というより、儂があの話をする前に彼奴に伝えておけば良かったのか……。後悔しても、もう遅かった。完全に拗れ、手の付けられないところまできてしまっている。
「悪いのは……儂か」
溜息をつき、独り言を呟く。その呟いたひと言を拾ったのは目の前にいる、まだ青褪めた顔色の青年だった。何かを考えるような仕草を見せ、ウォーリアは思いがけない言葉を洩らし始めた。
「……? ガーランドは何も悪くないだろう?」
「何?」
「ガーランドが想いを寄せている相手が誰か分からなかった私に問題があったことで、決してお前が悪いということではない」
「お前は一度黙れ‼」
……また話をややこしくするつもりか。
前回のウォーリアでも思ったことだが、〝ウォーリアオブライト〟という青年は毎回ここまで酷いものなのだろうか? ガーランドはかなり酷いことを考えていた。斜め上も此処までくれば、普通は戻ってきてもいいだろうに。今まで屠りすぎてきたからであろうか……?
ガーランドに一喝され、ウォーリアは途端にムッとした表情を見せた。
「少し待っておれ」
ガーランドはそれだけを伝え、テントの端へ行きパチンと兜の金具を外した。兜、鎧と全て脱ぎ、アンダー姿になったガーランドは、ウォーリアの横にどかっと座りなおした。ウォーリアの腕をとるとグッと引き寄せ、細い身体をその胸の中に収める。
「ガーランド? 何を……?」
ウォーリアが逃げるように、身を捩りだした。ガーランドは腰に手をまわし、自身の太腿の上に座らせる。昨日と同様、横抱きにされたウォーリアは、逃げようとますます身を捩らせる。だが、ガーランドも今度は逃がさないとばかりに拘束する。
互いの虹彩が互いを映しだすほど距離が近くなり、ウォーリアはいたたまれなくなって下を向こうとした。しかし、ガーランドはそれを赦さず、顎を掴み上を向かせた。ウォーリアのアイスブルーの瞳は不安げに揺れ動いている。
「ウォーリア、愛しておる」
互いにとって、これ以上ない真摯な言葉だった。だが、そのひと言にウォーリアはピシッと固まった。しばらくして、ようやくガーランドに返した。
「……ガーランド。気持ちは嬉しいが、その言葉を私に言うのは間違っている」
「……は?」
……間違っておる? どういうことだ?
ウォーリアのまるで訂正を正すかのような発言に、今度はガーランドの方が固まった。顎を掴んでいた腕が思わずずり落ちた。
「……? ガーランド。お前が好きなのは、前の私なのだろう? 今の私に伝える言葉ではないはずだが?」
「今のお前だ! 儂が好きなのは‼」
……合点がいった。何処まで斜め上だ? この天然。
ガーランドはやっと理解した。昨日の過去話により、己はまだ前のウォーリアを愛していると妙な誤解を受けていることに。普通では辿り着かない思考回路に、ガーランドは目眩を一瞬おこしかけた。
だが、目眩など悠長におこしている場合ではない。さっさと誤解を解かねば、さらにややこしいことになる。
「儂が愛しておるのはウォーリアオブライト‼ 光の戦士だ‼ お前だ‼ 前も今も関係ないわ‼」
「今の私? 嘘だ。だって……」
「儂は何も嘘を言っておらぬが? 昨日、お前が勝手に変な解釈をして、儂の話を最後まで聞かなんだからであろう?」
「う……」
思い当たる節があるのか、ウォーリアは眼を逸らし黙り込んでしまった。何も言わなくなってしまったウォーリアのこめかみ付近に、ガーランドは唇をつけようとした。すると、ウォーリアはハッとした顔でガーランドを見つめてきた。
「ガーランド……ダメだ」
「何がだ?」
「私は昨日水浴びをしていない。そんな髪に唇などつけたら不衛生にしか……ぅんっ」
「ならば、ここなら良いか?」
ガーランドは片手をウォーリアの後頭部にまわし、逃がさないように押さえつけた。顔をよせ、触れるだけの口付けをする。
ウォーリアはガーランドの胸を両腕で押し、抵抗を見せる。だが、ガーランドは空いたもう片手を腰にまわし、さらに密着させていった。
「嫌か?」
「嫌ではない。だが、私は……ぅんッ」
「嫌でないのならもう黙れ。今は儂のことだけを考えておれ」
「ん……、ガーラぁ」
「まだだ。まだ足りぬ、ウォーリア。儂のことだけを考えろ」
軽く舌を絡める口付けを、呼吸と会話の間に角度を変えて何度も行い続けた。
「んっ……あっ」
何度も絡められる舌にウォーリアの思考回路がトロトロに溶かされていき、何も考えられなくなる。
「やっ、ガー……」
『心に余裕がなくなれば、アイツは一切隠すことが出来なくなる。もし本心を聞き出したいなら、そのときを狙うしかない』
バッツの言葉がガーランドの脳内で反芻する。このまま溶かせば、本心どころかもしかして……?
「ぅん……っ」
「ウォーリア、言え。お前は儂をどう思っておる?」
「あ……」
……ガーランド、のこと……?
「言え。ウォーリア。お前は儂とどうしたい?」
「お前、と……? んっ……ぁ」
……私はお前の傍に在りたい。お前と共に……いたい。
軽く舌を絡めていた口付けは徐々に深いものへと変わっていく。唇が解放されるのはガーランドが紡ぐときのみとなり、ウォーリアの告白は唇を塞がれままならない。口付けにより、身体の力が少しずつ失われていく。
「今の、お前は儂にどうして欲しい? ウォーリア」
「今、の……ぅん」
……私、私だけを見ていて欲しい。私だけを愛して欲しい。
「ならば、ウォーリア。お前は儂をどう思っておる? 言え!」
「んっ、私は……私はお前が好きだ、ガーランド。この想いを封じるのはもうイヤ、……だぁぅん……ゃっ」
少しだけ離された唇により、ウォーリアはようやく紡ぐことが可能になった。だが、最後まで伝えることはさせてもらえず、舌を絡まれより深い口付けへと変化する。その途端、ウォーリアの身体から強烈な光が発せられた。
「っ⁉」
……これか。
ガーランドは咄嗟に目を閉じ、発光からの直撃を避けた。視界は遮断されているため、唇を離してウォーリアが逃げることのないように抱きしめておく。
『ウォーリアが戻るときに、かなり強烈な発光があるらしい。目には気を付けろ』
……兵士が教えてくれなければ目をやられていたところだな。感謝せねば。
発光が落ち着いてから、ゆっくりガーランドは目を開けた。瞼を瞑って直撃を躱しても、まだ黄金の双眸はチカチカしていた。至近距離で強い発光を浴びたのだから、それは仕方のないことなのだが。ガーランドは何度も瞬きをしてどうにか視力を取り戻そうと試みた。
そのチカチカしたガーランドの視界の先には、元の女性の姿に戻ったウォーリアが横抱きにされたまま、脱力した状態で座っているのが映っていた。
光すら射貫くようなアイスブルーの強く厳しい虹彩は、長い氷銀の睫毛に縁取られた、少し柔らかく潤んだ大きな瞳に変わっていた。口付けのせいか艶めいて光るさくらんぼのような唇、朱を帯びた頬……。浅い呼吸を繰り返し、ほどよくしっかり主張する女性特有の胸の膨らみが上下に動く……あり得ないほどの美女がここにいた。
「……これほどとは」
……儂は何故コレを女ではないと、決めつけてしまったのであろうな。
思い込みと青の重装備の作り出したウォーリアは、ガーランドの目には紛れもなく男性に映っていた。兜が外れなければ、神殿が崩落しなければ、もしかしたらガーランドは最後まで気付かなかったかもしれない。
ウォーリアは隠し通すつもりでいたのだから──。
「すまなかった……」
まだ呼吸の整わない様子で見上げてくるウォーリアを、ガーランドはぎゅっと抱きしめた。とろりと蕩けたアイスブルーに誘われるかのように瞼に口付け、ガーランドは謝罪した。
何故謝罪を受けたのか分からないウォーリアは柳眉を寄せ、震える唇でガーランドに問いかけた。
「何に……謝る? ガーランド、お前は……わたしに何かしたのか?」
「神殿でお前に無体をしたことだ」
「あ……れは、そうだ。ガーランド! 気になっていたことがある。わたしが女性だと分かったあのとき、お前は何故『いつから』と聞いた? コスモスも言っていたが、それはおかしくないか?」
「何……?」
……儂の謝罪は完全に無視か。いつから? ああ、あれか。
神殿での強引な行為に対する謝罪は完全にスルーされ、しかも話題を全く別のものにすり替えられた。ガーランドとしては拍子抜けするしかない。
『オニオンが一服盛られたらしく、バッツの調合失敗薬を食べて女性にされてしまった』
「旅人の女になるとかいう物体Xを飲んだのかと思ってな。あれは期限付きだと聞いておったからな」
……二つ目の可能性、〝期間限定の女〟かと思った。
ガーランドはウォーリアの頬に手を添えた。手の温もりを感じるのか、ウォーリアは頬を擦り寄せてくる。愛らしいウォーリアの仕草に、ガーランドは目を細めていた。
「だから『いつからいつまで』の意味で聞いた……すまぬ」
「そういうこと、んぅ……っ」
ガーランドは頬をさらりと撫で、ちゅっ、軽く触れるだけの口付けをした。とろりと蕩ける潤んだアイスブルーに先から目を離すことも出来ず、胸は早鐘のように打ち鳴らしていた。
「ウォーリア、腕はここだ」
「何を……? ぁん……」
先ほどから頑張ってガーランドの胸を押していたウォーリアの腕はガーランドに捕られ、首にまわるように持っていかれた。ウォーリアの身体がふわっと浮いて、優しく寝具に横たえさせられる。
ガーランドは身体全体で体重をかけ、ウォーリアが逃げないように押さえると、唇を重ね合わせた。何度も角度を変え、舌を絡め合わせていく。
ウォーリアの口の端からは、飲み込みきれなかった透明な液体が溢れ出る。満足したガーランドが唇を離すと、二人の唇の間に出来た銀糸がプツリと切れた。ウォーリアの口の端を指の腹で拭ってやり、ガーランドは白い首筋にも唇を寄せていった。
「ひぁん、やぁ……っ」
ガーランドの唇は首筋から鎖骨へと動いていき、朱い華をいくつも散らせていく。いやいやと頭を左右に振るウォーリアが目に留まった。これ以上無理をさせて負担になるといけないと思い、ここで止めておくことにする。
「まだ足りぬが……あまり苛めてやると、また熱を出しそうだな」
ガーランドは身を起こした。力の入らなくなったウォーリアの身体を抱き起こし、横抱きにして抱えてやる。
ウォーリアははぁはぁと荒い吐息をはきだし、とろりと潤んだアイスブルーの瞳でガーランドを見つめてきた。
「がーらんど……」
「どうした?」
ガーランドと眼が合うとウォーリアは顔を逸らし、ガーランドの鎖骨付近にちゅっ、小さく唇を落とした。
「好き……」
ガーランドの耳に届くかどうか分からないくらい小さな声で囁き、厚く逞しい胸に頬を擦り寄せた。力が入らないのか、身体をガーランドに預けてくる。
「……」
……なるほど。完全に溶かしてやると、ここまで可愛い仕草を見せてくれるわけか。
ウォーリアが何をしてくるのか? ガーランドは始終を黙って観察していた。あまりの愛らしい行動に、ガーランドは目許を緩ませていた。
「あまり煽ってくれるな、ウォーリア。儂はまだお前に飢えておる。ところで、お前は此処から先に何があるのかを理解しておるのか?」
……ボフン
ガーランドの胸の中で、ウォーリアは心地好い鼓動を感じていた。だが、ガーランドの放った言葉の意味を理解した途端、茹でたタコのように首筋までを朱く染めあげた。
「……」
こくりと頷いたウォーリアに、ガーランドは緩ませていた目許を細めた。ぺろり、口端を舐め、朱くなったウォーリアのひたいに唇を押しつける。分かっておるようだな。くっ、ウォーリアに分からないように小さく口許まで歪ませていた。
「安心しろ、ウォーリア。これ以上は此処ではせぬ。此処では、な」
「ん……」
ガーランドは外套を掴み、ウォーリアの身体に巻きつけた。きょとんとするウォーリアを後目に、苦笑を浮かべた。
「ここは筒抜けになっておるし、出歯亀もおるからな。R指定が入るようなことを奴等にわざわざ見せつけるような真似はせぬ」
「……え?」
……R、指定? 筒抜……け?
ぽやんと蕩けた頭脳では、ガーランドが何を伝えようとしているのか理解は難しかった。分からない単語に、脳内で疑問符を飛ばす。
「ようやくお前の本心も聞けた。ゆっくりで構わぬ。時間はあるのだから、いちいち焦る必要はない。……で、いつまで其処に居るつもりだ貴様等?」
たつまきを盛大に食らいたいか? ガーランドの怒気を含む声に、わらわらとバッツ・スコール・ジタン・ティーダがテント内に入ってきた。
ただでさえ小さなテント内はきゅうきゅう状態になり、ガーランドとウォーリア以外の侵入者は腰を下ろすことも出来ず、立ったままの状態になった。
「おっさん、とりあえずやったな! すっっっげー丸聞こえだったぜ?」
「……っ⁉ え、みん……な? 何故……? え?」
「ウォルの声、ちょー色っぽかったッス」
「っ⁉ な……っ、え? いろっ?」
バッツとティーダからの報告に、ウォーリアの朱い顔がさらに朱くなる。瞳に水膜が張りだしたのを確認したガーランドは、少し混乱し始めたウォーリアを胸の中に隠すように抱きしめた。
「オニオンとティナがいないときでよかっ、あれ? えぇ? ガーラン、ド……?」
くすくす笑っていたジタンだったが、ウォーリアを抱きしめる大男の正体に気付き、驚愕の声をあげた。このテントにはウォーリアとガーランドしかいなかったのだから、重装備を外した大男など元来ひとりしか該当しない。
「へぇー。おっさんそんな顔してたんだ」
「……意外だ」
「美女と野獣かと思ったら、美女とそこそこイケオヤジなんスね」
バッツ・スコール・ティーダも初めて見るガーランドの素顔に、好き勝手に感想を述べる。
……イケオヤジ? 変な言葉を作るでないわ。
ガーランドはこめかみに青筋を立て、ひくりと引き攣った表情を浮かべていた。
「ッ‼ ダメだ! あまりガーランドを見るな。ガーランドは……わたしだけが知っていればいい!」
ウォーリアはガーランドの腕の中からすり抜け、皆の前にガーランドを隠すように立った。身体に巻きつけた外套がパラリと落ち、その全身が突入してきた四人に晒された。
背はすらりと高く、黒いアンダーから主張する膨れた両胸、くびれた細い腰、腰布で一部隠された細く長い両脚。スタイルは超抜群なうえに、首筋や鎖骨の至る箇所に朱の華を散らせた氷雪色の髪の美女──。
羞恥からか目許までを朱に染め、潤んだ大きなアイスブルーの瞳で皆を睨みつける。その睨みつける瞳は男性のころに比べ、強烈な威圧感も迫力もまるでない。むしろ真逆の印象を与えている。
「うっそー⁉ ウォル? これ、マジでヤバいレベルじゃね? 声、すっっげー可愛いし!」
「鎧脱いだウォル、ちょー可愛いッス! 鎧着ててあんだけ可愛いのに、これはマジ反則ッスよ」
「……あの重鎧の中身がコレとはな」
「コレで何で雲やミシアに嫉妬すんだろーな。……で? おっさん……ちょっと、これはやりすぎじゃねーか?」
一瞬唖然として、年少三人は口々に捲し立てた。自身の首を指でトントンと叩き、遠まわしにガーランドに批難を入れるバッツに、ガーランドはふんと鼻を鳴らした。
「全くだ、旅人よ。……このくらいならば問題ないであろう? こら、盗賊に夢想に獅子、あまり見るでないわ」
今度はガーランドがその胸の中にもう一度ウォーリアを隠した。朱い顔のウォーリアは厚い胸に頬を寄せ、心地好さそうに擦り寄せている。
「なんなの。この初々しいバカップルは?」
突入してきた四人は、さすがに突っ込まざるを得なかった。代表してバッツが零す。昨夜はあれだけ泣き叫んでいたウォーリアが、ベタベタとガーランドに引っついて離れようとしないとは……。
「結局、貴様らは其処でいったい何を出歯亀しておった? 儂等に何か用があったのではないのか?」
「そうなんだよ~。よく聞いてくれた」
ガーランドのまだ怒気を含む物言いに、バッツはいい笑顔を見せた。後ろ手に隠し持っていた朝食と濡れた布をさっと出した。
「オレらなりにさ、タイミングを見計らってたんだぜ? このまま最後まで致しちゃうことになったら、誰が突入してストップかけさせるか……とか考えてたんだ」
「っ! バッツ! もしかして出て行ってから、ずっとそこに……?」
ガーランドの腕の中でウォーリアは驚愕していた。ということは、ガーランドの言う通り、全ての会話が筒抜けであったことはもう明白のもの。ガーランドとの会話も、告白も、そのあとにされた行為のときの声も全て……? ウォーリアの朱かった顔色が、さらに湯気を噴きそうなほど朱く染まった。ガーランドの胸で顔を隠すようにして、きゅっとアンダーを握りしめた。
「ピンポ~ン。ウォーリア、珍しく察しがいいな。あのときすでに朝食出来てて、みんなで待機してたんだぜ。フリオとオニオンとティナを外に出したのはクラウドのファインプレーだな」
『グループを三つに分けるぞ』
朝食完成後、バッツが調合一式をウォーリアのテントに持って行く前に、クラウドは全員を集合させた。ガーランドの耳に届くことのないように、この場にいる全員静かに告げる。
『クラウド、どういうこと?』
セシルにとっても予想外の発言だったようで、驚愕したままクラウドに顔を向けた。
『まずフリオニール・オニオン・ティナはウォーリアの兜を探してきてくれ。水場近くに転がってるはずだ』
『分かった』
フリオニール・オニオン・ティナは三人で顔を見合わせ、フリオニールが代表してクラウドに大きく頷いた。
『バッツ・ジタン・ティーダ・スコールはウォーリアのテント近くで待機だ。指定が入るようなことがあれば、その前にとめてくれ』
『うえぇぇ、了解』
クラウドから指示を受けた四人は、それぞれ嫌そうな表情を作りだした。声を発したのはバッツだったが、同じような奇声をジタンやティーダも出していた。
……指定が入る前って
……誰がとめるんだよ?
……てか、それをずっと聞いとかなきゃダメなんスか?
……イヤすぎるだろ。
バッツ・ジタン・ティーダ・スコールはそれぞれ心の中で叫んでいた。綺麗に繋がっているのは、おそらく偶然の産物……。
『オレはコスモスの元に行く。セシルはどうする? フリオニール達と行くか?』
『僕もクラウドと行くよ』
セシルはにこりと微笑んだ。クラウドの意図にいち早く気付いた。なるほどね。クラウドの采配が今回の役割にぴったりだったことに感心し、同時に自身がバッツのグループに入らなかったことにも安堵をしていた。
『そうか。では、朝食を食べたグループから行動開始だ、頼んだ』
『了解‼』
クラウドの号令に皆で叫び、それぞれ解散していった──。
「というわけだ。これ、濡れた布な。眼にあてとけ。おっさんも朝メシ食っていけよ。これは昨日フリオが漬け込んだ魚の南蛮漬け風な。骨まで食えるってさ。『ストレスにはカルシウムだ!』だろ?」
説明しながら、バッツは朝食の乗ったトレーと冷たく冷やした布をウォーリアに渡そうとした。ウォーリアは先に布を受け取り、眼にあてる。冷たさが心地好かった。
「フリオニールが作ってくれていたのか?」
「そうだ。昨日お前がコスモスの元に行ってた間に、みんなで魚を釣ったんだ。それをフリオが漬けてくれたんだぜ。たくさんあるから食えよ」
「だから、皆……水場にいたのか。ありがとう……」
「どうした?」
朝食メニューを見て、礼を言うもなかなか朝食トレーを受け取ろうとしないウォーリアに、バッツは優しい笑みを見せた。
眼に布をつけたり外したりしていたウォーリアは少し口籠っていたが、やがて諦めたようにバッツに答えた。
「この魚、美味しいのだが小骨が多くて食べにくいから、わたしが嫌いなのは知っているだろう……」
「今、オレ骨まで食えるって言ったよな?」
お前、何聞いてた? 笑顔のくせに目が笑っていないバッツの迫力に負け、ウォーリアは渋々トレーを受け取った。
ウォーリアは普段表情を変えることが少ない。そんなウォーリアの表情が、みるみる渋面に変わっていく。珍しいウォーリアの感情変化を、ここにいた全員が目撃した。
「……」
……っ‼ そうか。ガーランドに!
ウォーリアはトレーの上の皿に盛られた小魚と睨めっこしていた。渋面をしていたが名案を思いつき、抱きしめてくれているガーランドの方をじっと見上げた。
「ガーランド。この魚の身を解してくれたら、あとは自分で食べられる!」
「骨まで食えると、旅人は言っておったであろうが!」
「ガーランドの馬鹿……」
……骨まで食べられると分かっていても、わたしはイヤなのだが。
ガーランドは味方してくれるだろうと思っていただけに、ウォーリアの落胆は分かりやすいものだった。もう一度盛られた小魚を嫌そうに見つめる。
「わたしは魚の小骨を取るのが嫌いなのに!」
「骨まで食えるとさっきから何回言わせる‼」
「いい加減にせぬか、骨まで食えると旅人は申しておろうが!」
「……」
……すごい! 同じことを言っている。仲が良いのか? この二人……。でも、わたしの方がガーランドのことを……!
「どうした?」
朝食トレーを持ち、ウォーリアはきっとバッツを睨みだした。バッツは目の笑っていない笑顔から、すっと真顔に戻した。
「……バッツ。ガーランドはわたしのだ。バッツにはやらんぞ」
「……どうしてそうなる」
「何故そのような考えに至る……?」
バッツは天を仰ぎ、ガーランドは大きな溜息をつきだした。無垢なアイスブルーで見つめられ、バッツもガーランドも返す言葉が見つからない。
「……天然、怖いッスね」
「魚の骨の話だったよな……」
「どうすればガーランドをバッツにやる話に変わるんだ?」
側で一連の会話を聞いていたティーダ・ジタン・スコールは、それぞれぼそりと洩らしていた。