第五章 勇者の困惑

                2018.2/01

 コスモスと別れてから、私は皆のいる野営地に急いだ。
 走りながら、世界が違って見えることに気付いた。それに身体が重い。筋肉量や骨密度が増えたからだろうか。
 気持ち重鎧が窮屈に感じるが、重みは不思議と感じない。今、身に着けている重鎧は慣れてしまっているとはいえ、私には少し重い。隠してはいるが、実は全力疾走がまず出来ない。重くて長距離が走れない。高く跳躍出来ない。致命的だが、戦いが長引くと体力が切れる……などの弊害が出ていた。
……これが男女の差か。
 私は思わず感心してしまっていた。出来るようになった全力疾走をして、皆の元へ戻ったが誰もいない。
……もう皆は水場へ行ってしまったか。
 水場は拠点としているこの野営地から少し離れた場所にある、大きな湖と小さな泉が一緒になった──要は瓢箪型をした大きな湖を指している。
 見つけたのは探索に出ていたジタンとティーダで、その日から水不足が深刻な死活問題となる我々にはありがたい水瓶となった。

 大きな湖の方は淡水魚が泳いでおり、たまに捕まえて皆で美味しくいただく。あとは泳いだり、水遊びや洗濯といった、一部娯楽をして息抜きをしたりする。小さな泉は順番で水浴びをするために使っている。順番制のおかげで、私は安心して重鎧を脱げる。
 あまりに便利な湖なので、そちらに拠点を移そうかと話が出たらしい。だが……。

『オレらが近くにいると、この湖を使う動物達が警戒して近寄らなくなる。水は皆のものだ。オレらだけが使っていいものじゃない』

 バッツは反対し、フリオニールも同意見で賛成した。狩人のジョブマスターを持つバッツと、反乱軍に属し弓の扱いにも長けたフリオニールがそう言うのだから、皆一同に納得した。この水場から少し離れた場所にテントを設置し、今の拠点としての野営地が作られた──。

 これは今から三つくらい前の私のころにあった話らしい。今の私には全く記憶がない。だからジタンやティーダが主になって、以前の私のことも含め、いろいろと教えてくれる。
……急がないとマズイ。このままではペナルティを食らう。
 私は野営地を出て、急いで水場へと向かった。いつからそういう決まりが出来たのか、年少組の誰も覚えていないらしい。
 年長組の取り決めを守れなかった者に対して、厳しい罰則がいつしか作られていた。〝年長組の取り決めに対して〟なので、〝会議制度〟が出来てからではないか……臆測はたてられる。取り決めを破る者はそうそういないので、実はあまり知られていない暗黙のルールでもある。で、罰則とは何か? であるが、〝バッツの調合失敗作の被験者になる〟ことだ。
……絶対にイヤだ。ポーション以上にアレだけは飲みたくない。
 バッツの作り出す調合失敗作──通称〝物体X〟──は、ただマズイだけではない。本当に恐ろしいのはその副作用にある。

『物体Xの発生率は、調合の難易度と成功率によって変動する』

 これはバッツの持論で、どうやら本人の意図するところでは出来ないらしい。そのためにバッツは副作用の臨床データを常に欲しがっている。取り決めを守れなかった者へのペナルティと称して、調合失敗作を誰かに摂らせようとしているのも、狙いとしてはそこにある。
 調合失敗作の副作用は様々で、一番多くて程度の軽いものが嘔吐、もしくは腹を下す、だ。高熱を伴うこともある。
 聞いた話で酷かったものは、スコールが餌食になった調合失敗作で、彼の髪や髭が恐ろしく急成長を遂げたらしい。

『まるでラムウのようだった…』

 当時直接目撃したジタンの感想だ。これは、今でも笑い話として語られている。私も何度か聞かされた。

 次に性別が変化するもので、これはオニオンが被害に遭った。オニオンは女性……いや少女か? に変化してしまった。効果は五日ほど持続したそうで、ティナは大喜びしていたようだ。だが、男→女、女→男に変わるときの骨格や筋肉が作り変わる痛みは、相当のものだったらしい。オニオンはかなり苦しんだそうだ。

 全身がタイタンのようなガチムチマッチョになってしまったこともあったそうだ。これはティーダが当たったらしい。

『世紀末救世主のように突然衣服が破れ、メキメキとマッチョボディになったッス』

 これは私も本人から直接聞かされた武勇伝らしい。ティーダなら筋肉質な身体に憧れてもおかしくはない。彼は運動を行うわりに、あまり肉体に変化が見られないようだから。
 あと、可愛いところでケモミミが生えたり、全身が毛玉のようになってしまうのもあるらしい。

……水場に着いた。皆は……いた!
 フリオニールは火の番をしながら何かを作っている。オニオンとティナはその手伝いをしているのが遠目にも窺える。年長組は離れた場所で話をしている。会議だろうか? スコール・ジタン・ティーダは魚釣り……楽しそうだ。
 仲間達の姿を見て安心した私に、座って魚を釣っていたジタンが気付いてくれた。ジタンはニカッと笑いながら手を振って呼んでくれた。
「お~い。ウォル、こっちだ」
「遅れてすまない」
 私も手を振り返し、ジタンの座っている場所まで近付いて行った。皆は私の姿を確認すると、それぞれの続きを始めて始めていた。私は口角を少しだけ上げた。こんなのどかな風景を見れるとは……。
「いいってことよ。今みんなで来たトコだから、ウォル、さっさと水……ぁび……うぅええぇぇ⁉⁉ ウ、ウゥォルぅ⁉」
 ジタンは一瞬ポカーンとしていたが、私の顔を見るなり突然よく分からない驚愕の声を上げてきた。ただならぬジタンの様子に、仲間達皆が私とジタンの元へ集まってくる。年少組は皆ジタン同様にポカンと固まっており、年長組は怪訝そうな顔で私の姿をじっと見ていた。
……何だ? 私の顔に何かついているのか?
 そのようなことを考え、私は動きの止まった仲間達を順に見ていった。たっぷり三分ほど経過して、ティーダはぼそりと私に呟いてきた。
「ウォル、何で身長伸びてんスか?」
「えっ⁉」
 身長? あぁそうか。世界が違って見えたのは背が伸びたからか。なるほど。私は筋力や骨格ばかりを見て、身長まで見ていなかった。しかし、皆にどう説明しよう。コスモスに伸ばしてもらった、でもいいのだが。私は首を捻りながら答えた。
「……成長期?」
「んなワケねーだろ! この数時間に何センチ伸びてんだよ⁉」
 ジタンが噛みついてきた。間違ってはいないと思ったのだが。もしかして違う解答を求められているのだろうか?
「……スコールとティーダの作った美味しい朝食?」
「だったらボク達みんな伸びてるよね⁉」
 今度はオニオンに言われた。身長くらいで何故ここまで気にするのかと思ったが、そうか。この二人は低身長を気にしていたのだったか。
「うわ~、僕と同じくらいだったのにね。今、フリオと同じくらい?」
結構伸びちゃったね。朗らかに言ってきたセシルに対し、隣に怒りの表情を向けてくるバッツと眼が合った。
「どうかしたのだろうか?」
「『どうかしたのだろうか?』じゃねーよ! ウォーリア、お前……何で?」
 バッツは私の肩を掴み、ガクガクと前後に揺らしてくる。勢いで私の頭も一緒に揺れたため、兜がうしろにカランと落ちた。
「今の私は……何かおかしいだろうか?」
「全部だよ、全部。一体コスモスんトコで何やってたんだよ……」
「……?」
……何の話だ?話が全く見えてこない。
 バッツに肩を掴まれた状態で、私はどうしていいのか分からなくなった。とりあえず離れてもらわないと私も行動が出来ない。バッツの腕を取ろうとしたときだった。

「ウォル、少し屈んで。顔の位置を私にあわせてくれる?」
 皆の困惑や怒りを含んだこの空気のなかで、バッツを押し退けてティナは私の前に立った。にっこりと可愛く微笑みながら私に言ってくる。私はティナの言う通りに頭を下げ、彼女に目線を合わせた。
「あのね、ウォル。前まで女の子って私だけだったの。でもね、今回は私ひとりじゃないって分かって、とても嬉しかったわ。兜や鎧を外さないのは何か理由があるんだって思ったから、だから何も言わなかったの。でも、いつかウォルの髪を触らせてもらったり、一緒に水浴びしたり、同じテントで眠れたらいいな、ってずっと思っていたのに……それがどうして?」
これを……。ティナは私に小さな白い花を見せてくれた。どうやらそのあたりに生えている花らしい。とても愛らしいその花をどうするのか? 私はティナの様子を窺っていた。
 ティナは私の左耳の少し上あたりの髪に、その白い花を差してくれた。
「可愛い。やっとこういうことが出来た……」
「ティナ……今の私は男だ。花なん、て?」
 私の髪を見ながら、ティナは嬉しそうに手を叩いてくれた。私は呆然としながら、ティナの話を脳内で反芻させた。唇が震える。眼が大きく見開いていくのが分かる……。
「ティナ、今のは何の話だ? 今のティナの話では、まるで……」
「みんな知ってるよ」
 セシルのおだやかな声が背後から聞こえた。私は振り返り、セシルを見た。先のティーダから始まった身長の話はもしかして……?
「あのね。僕達はみんな、何回も浄化されていくあなたを見てきたんだよ? 今までのあなたは全て男性だった。そして今回は女性。いい? いくら隠しても、男女でどう変わったか……みんな違いに気付くよ」
あなたが頑なに隠そうとしてたから……だからみんな黙ってたんだよ。続けられたセシルの告白に、 私は愕然とした。改めて皆を見まわした。皆は呆れを含んでいたり、苦笑の色を表情に浮かべている。
「そん、な……そのようなこと、どうして」
「だいたいテント決めたときに、おかしいと思わなかったのか? ティナはともかく年少組の男陣は鮨詰め、でもウォーリアはひとりとか、さ」
 バッツは頭を左右に振り、呆れたように言う。そういえば……そこまで考えていなかった。私は基本的に年長組の三人と生活を共にするから、年少組がどのようにテントを使っているか……など、深く考えたこともない。
 誰も何も言わないから、ずっとそうであったのかと、勝手に思い込んでいた部分もあるのかもしれないが。
「水浴びもそうだよ? ひとりでなんて危険でしかないのに、しかも順番とか」
全て、隠そうとするあなたのために決めたんだよ? セシルに追い打ちをかけられ、私は衝撃を隠せなかった。全て私のために皆がしてくれていたのか……?
「……すまない。私は自身に都合のいい取り決めが出来てラッキー。くらいにしか思ってなかった」
「やっぱりそうかよぉぉ……」
 バッツが蹲り、項垂れながら地面を叩きだした。年少組の皆は黙って私達のやりとりを見守ってくれていた。というより、唖然として誰ひとり入ってこれないのかもしれない。そのくらい、私達は緊迫していた。あまり緊張感が伝わらないのは……この場合、仕方がない。

「種明かしは後まわしだ。ウォーリア。何故男になっている? 混沌勢にやられたのか? コスモスか? もし、混沌勢なら殺りに行かんとな」
 今まで腕を組んだまま、クラウドは私達のやり取りを黙って聞いていた。しかし、埒が明かないと感じたのだろう。バスターソードに手をかけ、私を見据えてくる……怒りを含んだその魔晄の虹彩が変に輝いていて、とても怖い。
「……コスモスに私から頼んだ」
「何のために⁉ やっぱりあのおっさんに何かされたからか?」
「バッツ、違う。私自らが望んだことだ。ガーランドは何も関係ない!」
 そうだ。ガーランドはもう、関係ない。ガーランドは男性、今の私も男性。胸がちくりと痛む。だが、この胸の痛みも、いつかきっと癒える。
「そう、本当にいいんだね? あなたがそれを望むなら……僕達は今後、手助けをしてあげたくても出来なくなってしまうよ?」
「セシル……」
 私は何を望むのか? そのように言われても、私には分からない。もっと教えてもらえれば分かるかと思う。だが、皆は知っていて私だけが知らないことなので、そのあたりの説明は全て飛ばされてしまっている。私は首を傾げ、セシルを見つめた。
「ウォル。あなたにも、もういい加減自覚が出始めてるんでしょ?」
「少しは出始めてる……と思うぜ。てか、そうでないと、そうはならんだろ」
「話を無駄にややこしくしやがって……」
「何を……言っ、て」
……何のことだ? 彼らはいったい何が言いたい? 
 年長三人に詰め寄られ、意味の分からないことを次々に言われても、脳は理解を拒否してしまう。いや、拒否ではなく、私は混乱しているのかもしれない。

「も~。ホント、ウォルってニブイッスねー」
 後頭部に両手を乗せたティーダは、太陽のように眩しい微笑みを浮かべていた。私の前に来て、私に右人差し指をビシィッと指してくる。私はティーダに言われた意味が理解出来ず、伸ばされた指先を眼を丸くして見つめていた。
「ガーランドのことッスよ。ウォル好きなんでしょ? 男だの女だの、秩序だの混沌だのウジウジウジウジ言ってないで、好きなら好きって……さっさと告ってくるッス!」
「お前、直球だなー」
「いや、ティーダの言う通りだ」
 ティーダを呆れたような目で見つめ、ジタンはぽろりと洩らした。それを肯定するかのように、バッツが私の両肩にもう一度手をおいてきた。少しは落ち着いたのか、バッツは私を諭すように強い視線を向けてくる。
「大方おっさんへの想いを絶つために、お前は男になったんだろうけどな。けど、だ。あのおっさん、好きならティーダの言う通り、性別は一切問わないはずだぜ。今からでもさっさと行って、お前の想いをおっさんにぶちまけて来い! まあ……その前にオレ達がおっさんとしなきゃならない話があるけどな」
「……!」
 何だ? 何故そうなる? というか、何故私の想いを皆が知っている? 私は今し方コスモスに教えてもらったばかりなのに。しかし、皆には悪いが、私はこの想いに蓋をしようと決めたのだから。それにバッツ達の話とは……?

ガサガサ、ガサガサ……

 それらを伝えようと私が口を開きかけた。すると、突然水場の側の茂みから、樹々を掻き分けるような音が聞こえてきた。
「熊か? 大蛇か? 猪か? 何であれ、今日の夕食確定!」
 皆考えることは同じらしい。全員武器を構え、年長三人が前に出る。私はフリオニールとスコールに庇われながら少し下がった。今の私なら戦えるのだが……。

ガサガサ……

 少しだけ時間を必要とした。というのも、移動速度に問題が生じていたようだった。ようやく茂みのなかからぬぉっと出てきた黒い大きな物体に、私を含めた全員が唖然とした。
「探したぞ。光の戦士よ」

**

 黒い大きな物体──ガーランド──は、私の前に立つ殺気立った三人にたじろいでいた。
 年長三人はガーランドの姿を確認して、急に臨戦態勢に入った。あまりの切り替えの早さに、年少組は付いていけていなかった。年少組の中でも纏め役に位置するフリオニールとスコールに私は庇われ、後方へと少し下がった。
「待て! 儂はウォーリアと話をしに来ただけだ」
 ガーランドにその名前で呼ばれ、私の胸は急に高鳴り始めた。これも名前とは言い難いが、皆からはそう呼ばれている。いつしか私の中で、大切な名前と化していた。

 ガーランドだけは私を〝光の戦士〟と呼ぶ。その呼び方も間違ってはいないのだと思う。宿敵であるガーランドの方が、おそらく私より私を知ってくれている。そのガーランドが私を〝ウォーリア〟と……。皆が呼ぶ名で私を呼んでくれた──。

「ウォーリアに何の話だ?」
 クラウドはバスターソードを構え、怒りを全面に出してガーランドに対峙する。憤怒の覇気を纏うクラウドは般若のように恐ろしい。ガーランドの厳つい兜面と張り合うレベルで怖い。これを言えばさらに怖いことになるから、絶対に言わないが。
「伝えたいことがあってな。……? ウォーリア、何だ、その姿は? 昨日とはまるで姿が違うではないか」
「そうだ、おっさん! アンタ、昨日ウォーリアに何をした⁉」
 バッツはガーランドの前に出て、叫びながら詰め寄っていった。何故だろう? クラウドもバッツも、何をあんなに怒っている?
「ガーランド! っく、通してくれ! フリオニール! スコール!」
 ガーランドの近くへ行きたいのに、フリオニールとスコールが壁となり行かせてもらえない。私は歯痒くて唇を噛みしめた。
「あなたは近付いてはダメだ。あの状態の三人に近付けば、あなただって危なくなる」
「あの連中が落ち着くまで、アンタはここにいろ。混沌勢の挟み撃ちかもしれん、後ろは頼むぞ。オレ達はウォーリアを護る」
「まっかせとけって!」
「心置きなく殺るッスよー」
「後ろはボク達が見てるから」
「大丈夫! 任せて」
「皆、ありがとう……」
 前にフリオニールとスコール、背後に他の年少組に私は護られ、諦めて様子を見ることにした。もし戦局がひっくり返り、ガーランドに危険が及ぶようなら私が……。
「何もしておらぬわ‼」
 クラウドとバッツの怒気に少し怯むが、ガーランドは怒声でもって怒鳴りつけた。だが、年長三人には全く通じていない。
「ふーん。だったら何故、ウォーリアの装備が乱れ、泣いた形跡があったんだよ? おっさん! ウォーリアに何して泣かせた? マジでR指定に引っ掛かることか?」
「ねぇ? ガーランド。僕の見たてでは未遂……なんだけど、あくまでも未遂……なんだよね。未遂だったら、何しても赦されると思ってるのかなぁ?」
 セシルは恐ろしいまでの美しい黒い微笑みを浮かべ、ガーランドに問いかける。これには年少組一同、顔を青褪めさせていた。セシルがここまで怒るのは珍しいことでもある。
「だから! 儂は何もしておらぬわ‼ 少し指を挿れ……あっ」

ぷつり

 今の音は何だろう? 何かがキレたような音が聞こえた。私は周囲を見まわした。
「指を……何だって?」
 クラウドの青い目が殺意の色を含んだ魔晄の色に変わり、セシルは暗黒オーラを纏って暗黒騎士へと変貌する。バッツの頭上に三ツ星が出て、バスターソードとガンブレードを出現させてから、目許を歪ませニヤリと笑う。
「……殺る」
「ウォル、ちょっと凹っちゃうね。殺っちゃったら……ごめんね?」
「ちょ~っと、バーサーカー入っちゃってもい~いかなぁ?」
 私は背後の空気が動いたような気がしたので、そっとうしろを振り返った。オニオンの耳をティナが塞ぎ、ティナの耳を「え? え?」と洩らしながら顔を赤くしたティーダが塞いでいた。空気が動いたのは、彼らが光速で動いたからなのだと推測する。
 周りを見てみるとフリオニールは真っ赤になって固まっていた。ジタンはティーダ同様赤くなり「うわ~」と洩らしている。スコールは苦虫を噛み潰したような渋面を作り「やっぱり……」と呟き顔に手をあて、小さく左右に振っている。
「皆……どうした?」
 何故クラウド達がガーランドに対して、あそこまで怒っているのか? それ以前にR指定とは何だろうか? そこからすでに私は分からず、首を傾げて皆の様子を窺っていた。

 他の混沌勢が来ていないことを確認し、ガーランドと年長三人の戦闘を私を含む他の仲間全員で見守っていた。
……ガーランドは確か……私に話があると言っていた。
 ガーランドがここへ現れた目的を思い出し、私はフリオニールとスコールの間をすり抜けた。四人で戦う場に出て、私は巨大な光の盾を出現させる。三人をガーランドから護るのではなく、三人からガーランドを護るために。
「……また厄介なものを」
「ウォル?」
「ちぃっ。ウォーリアのシールド、か」
「む? 何をする、ウォーリア! 余計なことをするでないわ!」

キィン‼

「ウォーリア! 邪魔をするな!」
 ガーランドの重い反撃の一撃をバスターソードで受け、クラウドは私に叱責してきた。この状況下で余所見が出来るクラウドの戦闘能力はすごいと思う。ガーランドに全く引けを取っていない。それでも……私は拳を握りしめ、三人を見据えた。
「三人ともすまない。ガーランドは私に話があると言って来てくれた……。私はガーランドと話がしたい……それはいけないことなのだろうか?」
「……」
 三人は私の言葉に沈黙し、目配せを取り合っていた。意思の疎通が図れたのか、三人は了解とばかりに剣を下ろしてくれた。

「話って何だ? ここで出来る話か?」
 バスターソードを背中に貼り付けたクラウドは、同様に巨剣を地面に突き立てたガーランドに睨みつけた。
「いや、ウォーリアと二人だけで話がしたい」
「どうする? クラウド、バッツ。ガーランドがウォルにしたことはひとまず保留にしておくとして。とりあえず……さっきのことがあるから、都合がいいと言えばいいんだけど」
 セシルもパラディンに戻り、話を始めたクラウドとガーランドの側へ近寄っていった。
「話が何かによるよな? おっさん?」
 頭上の星を消したバッツも、バスターソードとガンブレードを消し去った。セシル同様クラウドとガーランドに近付き、セシルの隣に立った。
「……前の話をしてやりたいだけだ」
「……ッ⁉」
 ガーランドのこのひと言で、三人とも目を見開いたまま固まってしまった。前の話? いったい何だろう? 私がうしろを振り返ると、年少組の皆も同様の表情をしていた。どうやら私だけが知らない話のようだった。それなら……私は知りたかった。
「クラウド。私はガーランドのその話とやらを聞いてみたい。よいだろうか?」
「…………」
 両腕を組み、クラウドは呻きながら数分は熟考していた。結論を出したのだろう。私を見て、大きく息をはきながら腕を下ろした。
「分かった。ウォーリアが納得するまで話を聞いて来い……お前には辛い話になるかもしれんがな」
「辛い話? それって?」
「ウォル、辛くなったら話を中断させるのも手だからね? 無理してまで聞いちゃダメだよ」
「クラウドが許可出したんなら、オレには反対出来ないな。おっさん、ウォーリアに何かしたら……今度は命ないぜ? エクスデスのようにしてやる……なあ、おっさん?」
「何もしない。約束しよう」
「もう一度聞く。話はここでするのか? 場所を変えるのか?」
「別の場所に移動する」
「ウォーリア、行って来い。ガーランド、さっきバッツも言ってたが……分かってるな?」
「約束は違えぬ……ウォーリア、此方だ」
 三人との話が終わると、ガーランドは私の腕を掴んできた。急に腕を掴まれ、私の胸はまた高鳴った。男の姿になったのに、どうして……?
 ガーランドは私の腕を掴んだままで、ズンズンともと来た道を戻り出した。ガーランドに引き摺られるように連れて行かれたため、私は仲間達のやりとりを聞くことが出来なかった。

「ジタン、ティーダ。あの二人の後をこっそり尾行してくれ。くれぐれも見つからないようにな。場所が分かれば指笛で教えてくれ」
「了解! 尾行なら任せとけって」
「行って来るッス~」
「クラウド、僕達はどうする?」
「決まっているだろう。残り全員で──」
コスモスの元へ行く。クラウドの決定に、ジタンとティーダ以外のメンバーが大きく頷いていた──。