ふたりの白い花嫁(FF1) - 6/6


第六章 導き

 

皆が眩い光となって消えていったあの草原に、十人は再び揃っていた。
『やっとだな、ウォーリア』
『バッツ……』
突然バッツにタックルという名の抱擁を、ウォーリアは食らった。それでも体勢が崩れないあたりさすがといえる。横でその様子を見ていたクラウドは組んでいた腕を崩し、肩を竦めた。
『オレのピアスでも良かったのにな』
『ダメだよ、クラウド。こればっかりはバッツの造ったあの耳飾りでないと』
嘆息したクラウドをやんわりとセシルが制する。その優しい微笑をウォーリアはじっと見つめ、やがて首を傾げた。
『バッツの造った?』
『知ってるか? あの石、見つけたのスコールなんだぜ』
ウォーリアから離れたバッツはスコールを指さした。スコールは照れた顔を逸らし、ちっ、と舌打ちした。
『青の中に煌めく光が、アンタに似てると思ったんだ……。アンタに翳りは似合わない。いつまでもオレ達を指し示す光でいて欲しかった。だから……バッツに渡した』
『あれを砕いたのはオレだ。悪いな、いびつになって』
『凄かったぜ、クラウドの力業。見せてやりたかったよ。あのあとの加工が大変だったんだからなぁ』
悪びれる様子のないクラウドに、バッツは苦笑する。ほぼ粉砕された青い石の使えるものだけを集め、研磨し、耳飾りに加工したのはガーランドの推測通りバッツだった。
にわかに信じがたい暴露話を、呆然とウォーリアが聞いていると、金糸雀色のマントがくい、と引かれた。ウォーリアがそちらに眼をやれば、小柄なティナがにこり、笑って見上げていた。
『ねえ、ウォル。笑って。笑うと幸せがたくさん来るのよ』
『ティナ……』
ウォーリアがティナの言葉の意味を理解する間に、側で年少組達が勝手に話を進めていた。
『ウォル、今度はオレ達がウォルのその世界に来てもいいっスか?』
『それいいな。みんなで押しかけようぜ』
『ちょっと、ウォーリアさんの迷惑になることは『大丈夫だオニオン。オレがついてる』
『フリオニール……でも、ウォーリアさんにまず許可を得ないと』
『ウォルの迷惑にならないように、オレがみんなの面倒みるよ。反乱軍所属を舐めるなよ』
『オレもいるぜ。大丈夫だ、オニオン』
『突然みんなで押しかけたら、そのときはよろしくね』
『ガーランドにも伝えておいてくれ』
『……』
最後は年長組に押しきられ、ウォーリアは一瞬言葉に詰まった。言葉の出ないその間に、皆は光となってまた消えていった。
皆はそれを伝えたいがために、ここに集まってくれたのだと理解すると、ウォーリアの瞳から涙が溢れ出てきた。
『皆、ありがとう……』

******

「……ん」
「……」
……こうして見ているのも良いものだな。
相当疲弊しているのか、起きない様子のウォーリアを、ガーランドは隣で寝転びながら観察していた。
ずっと寝かしてやりたいが、これから謁見がある。そろそろ起こさねば、とガーランドは眠るウォーリアの顔を覗きこんだ。
「「……」」
……二度目はさすがにないか。
……いつから見られていた?
目が合った瞬間、飛び起きるということはなかったものの、掛布を頭まで被ってしまったウォーリアに、ガーランドはくっと嗤った。
掛布から少しだけ顔を出したウォーリアが何か言いたげにしているのに気付いたガーランドは、掛布ごとウォーリアの身体を包むように抱きしめた。
「どうした。何を見た?」
「皆の夢を見た……。今度は皆がここへ来る、と」
「そうか。ならば連中には礼を言わねばな」
「そうだな」
ウォーリアがほんの少しの笑みを見せたので、ガーランドは寝台から下りた。悪夢を見たわけではなさそうなので大丈夫だろう、という判断をガーランドは出した。
「ウォーリア。謁見の時間が来ておる。いつまでもそうやっておらずにさっさと出て来い」
来ないなら置いて行くぞ。ガーランドのその言葉に、ウォーリアは慌てて飛び起きた。
コンコン
ガチャ
「おはよう、ガーランド。ウォーリア、ここにいたのですね」
「姫……伴も連れず、朝からどうされました?」
ガーランドが鎧を装備しているときに、セーラ姫はやって来た。ガーランドのうんざりしたような口調からして常習犯の予感をウォーリアは感じ、複雑な心境で二人の様子を見ていた。
「ウォーリア、誤解しないでください。先にあなたの部屋へ行きましたよ」
「私の部屋?」
ウォーリアの様子から何かを察知したのだろう、姫は慌てて否定をした。姫の口振りから、ガーランドではなく、自身に用があるのだと分かり、ウォーリアは益々困惑気な表情を見せた。姫に協力するのはあの式だけのはずだが……。
「まず、あなたの鎧はあの部屋に戻しておきました。それからあなた達のことですが、約束通り城内への出入りを許可します」
これはあの三人にも伝えておきましたよ。姫はにっこりと優雅な笑みを見せた。
ウォーリアは瞠目して姫を見つめた。今の話が本当なら、これからは自由にガーランドの元を訪ねることが可能になる。
「そしてウォーリア、改めてあなたにお願いあります。この城に滞在して、わたくしを助けていただきたいの」
「助ける……とは?」
嫌な予感。ウォーリアは直感で思った。ガーランドも鎧を装備する手を止め、心配そうにウォーリアに目を向けている。この姫がこのような口振りをするときは、大概良いことはない。
「そのときが来れば言います」
「「……」」
含みのある姫の言葉に、ウォーリアもガーランドも返す言葉が出なかった。嫌な予感は絶対的中する。ウォーリアは逃げ出したい気持ちに駆られた。
ウォーリアの顔色が変わったのを見て、姫は笑んだ。確信犯か。ガーランドは気の毒な目をウォーリアに向けた。
「ではわたくしは伝えましたので……そうでした。ガーランド、先方より縁談はご破算との連絡が来ました。良かったですわね」
爆弾を点火し、姫は戻って行った。ウォーリアは頬を染め、ガーランドは漠然と姫の出ていった扉を見た。
おそらく謁見嫌いのウォーリアを気遣い、姫自ら直接伝えに来てくれたのだろうことは容易に理解ができ、二人は姫に一応の感謝をした。

******

「「「ウォーリア‼」」」
「……君達」
ウォーリアはガーランドの部屋を出て、鎧装備のために部屋へ戻ると、部屋の前に三人が立っていた。ウォーリアは黒魔術士にタックルをかまされ、モンクには背中をバシバシ叩かれた。痛い。
「ウォーリアのおかげで私達、ここで修行が出来ます」
「ウォーリア、ありがとう」
宮廷魔道士の元に無事弟子入りを果たした白と黒の魔術士は、嬉しそうに報告してくれた。
「オレもスーパーモンクの元で修行だぜ。これから忙しくなりそうだ」
どうやら、この三人も当面この城に滞在する予定のようだ。ウォーリアは三人と顔を合わせ、にこり、微笑んだ。

 Fin