闇に堕ちる瞬間(FF1)

                2022.7/13

 失ってから、その存在に気づかされる。
 世界が闇から光に満ち溢れるようになり、そのひとつの存在はこの世のすべてのものから忘れられた。
 儂も、そのうちのひとりであった。完全に忘却させられておった。それでも心の中に、どこか朧げにその戦士の息づいた存在が残されておるにすぎぬ。
 人々は口々に伝えた。その戦士のことを。儂のように心の中に息づくものを集めに集め、冒険譚や英雄譚として様々に語り継ぐ。戦士の存在はこの世界から忘れられても、こうして風化されることはなく根づいていった。
 しかし、そうであってはならぬ……と。どうして世界を救った者が、このような迫害にも似た処遇を世から受けねばならぬのか。忘れられてしまうことに、抵抗はなかったのであろうか。
 そのようなこと、赦されるはずもない。功績が認められるならまだしも、世界を救う代償がこのような……。

 儂はこの世界を赦せそうになかった。緑の広がる大地に立ち、腸の煮えくり返る思いを胸に、ひとつの決意を宿す。
──それが世界の判断だとするなら、その存在を呼び起こすために儂は再び闇に堕ちようではないか。

                   ──了