2020.10/26
「……」
どちらかが、泣く……か。ガーランドは腕を組み逡巡した。顔を動かすことなく、隣に佇む青年の様子を窺う。
元から整った美しい顔立ち、多少傷んではいるが、手入れさえすれば撫で心地の良さそうな眩い銀にも光る氷雪色の髪、己を見上げるアイスブルーの瞳は氷銀の長い睫毛に縁取られ、白すぎてはいるが肌には確かに血が通っている。この美しい青年──ウォーリアオブライトを泣かせることなど。ガーランドは眉を寄せて瞼を閉じた。
これまで、幾度となくこの青年と戦ってきた。だが。揺るぎない強い光を持つこの青年が涙する姿など、闘争の場において一度たりとて見たことはない。では、ガーランド自身が涙を流せるのか……と問われれば、これもまた難問であった。詰んだ。ガーランドは率直に思った。
「ウォーリ……」
「泣けばいいのだろう? 簡単だな」
「は?」
動かない青年に声をかけようと試みれば、いとも簡単に解決策たるものを示唆されてガーランドは首を傾げる。
「次の闘争で使おうと思っていたのだが……お前にやろう」
「……くっ⁉」
強烈な刺激臭が重厚な兜を通り抜けて鼻に入ってくる。鼻だけではなく、目にまでツンとくる刺激にガーランドは思わず顔を逸らした。しかし、一度兜の中に侵入してきた匂いは、早々とれるものではない。
兜を外したい。だが、このような不様な姿を青年に曝したくもない。ガーランドは葛藤した。兜を手で押さえ、片膝をつく。呼吸が苦しくとも、兜を外すわけには……ガーランドは気合いで乗りきろうとした。
「開いたな。バッツの作った〝すりおろしタマネギ〟というアイテムの効果は絶大だったと……伝えておく」
「ぐぅっ、」
開かない扉が開いたということは、条件を満たしたということ。しかし、ウォーリアオブライトはそのことに触れることなく、さっと出て行った。
残されたガーランドは誰もいないことを確認すると兜を外し、風を送って刺激臭を兜から取り除いた。痛みすら感じる目と鼻を擦り、落ち着くまで待つ。
「儂が情けをかけられるとは……旅人の小僧め、次はあれと一緒に浄化してやるわ」
メラメラと滾る炎を背後に背負い、兜を装着してからガーランドも追いかけるように外への脱出を果たした。
──了