2020.10/25
「〝きす〟とはなんだ?」
「…………そこからか」
儂は項垂れるしかなかった。無理だろう。これと、など。
蹂躙をしてきたことは確かにある。だが。口づけだけは行っておらぬ。愛のない口づけに意味などないと……ふざけた考えが儂の中にある限り、到底行うことなどできはしない。
となれば、必然的にこの部屋からは出られぬ……ということになる。これもまた宿命か。このような部屋にふたりして入ってしまったことに、諦めるしかない。
「〝きす〟とはなんだ?」
「……」
まだ訊いてくるか。いい加減しつこい。若干の苛立ちもあったのだろう。儂は言い切ってやった。
「唇を寄せ合う行為のことだ」
「唇を……?」
普段は硬質なアイスブルーの虹彩を見開かせ、驚いたような表情をこれは見せてきた。珍しい表情ではあるが、だからって、この現状が打破できるわけではない。強引にこれの唇を奪って出たほうが早いのか……儂はこれの動向を無視して、考えておった。
「ガーランド」
「なんだ……むっ、」
兜の口当ての部分に、これは唇を押しつけてきた。時間としては一瞬のものだが、とても長い時間に感じられる。情けないことに状況が飲み込めず、儂の躰は硬直しておった。
「これでいいのだろう? 早く出よう」
「……」
開いた扉を背に、あれは儂に指図する。
儂が目を丸くして、言葉を失ったまま呆然としておったのは……言うまでもない。
──了