2021.6/12
「こっちだ」
コーネリアの近くにある湖のほとりで、手を振るウォーリアに怒られたのが数刻前のことであった。
怒りの鎮まらぬ様子のウォーリアが湖へ行こうと誘ってきたのは、儂のことを気にかけてくれたからであろう。言いすぎたと思っておるのか、それとも……。
待ち合わせの時間を確認して向かえば、ウォーリアはすでに来ておった。騎士団から向かった儂のほうが遅れたようで、また怒らせる原因を作ったかもしれぬ。
しかし──。宝石を散りばめたような星の輝く夜に、待ち合わせをして逢瀬を重ねる。以前では考えられぬことであった。それが、今は当たり前のように行える。
「すまぬ」
怒らせたことと遅れたことを素直に詫びれば、ウォーリアは無言で頷いてくれた。どうやら、もう怒ってはおらぬらしい。
湖面には星が映し出されておる。風で湖が揺らぐたびにキラキラと輝いて、夜の暗さをかえって幻想的に魅せてくれた。
隣に立つと、ウォーリアはなにも言わずに指を絡めてくる。外ではこういったことをすることのない青年が随分大胆なことを……思っておったら、ウォーリアは絡めた指に力を入れてきた。
「ここなら……」
照れながらこちらに向けてくる普段は見ることのない表情に、悪戯心が芽生えてしまったのは、これまでに蓄積された疲れの所為であろうか。
口当てをさっと外すと、絡められた手を引いて、有無を言わさずその唇を奪う。
「ふたりきり……だから、な」
攫った唇の甘さをしばらく堪能して、ゆっくりと顔を離す。口当てをつけるころにはふるふると震える愛らしい伴侶の姿があった。
こういうこともたまには悪くない……思えるほど、丸くなったのかもしれぬ。互いに……な。ウォーリアに怒られていたことも忘れ、儂らは互いを見つめ合った。この場が幻想的な星の下であることも忘れるくらいに。
──了