毎年の贈り物

                2022.12/18

 いつも思うことがある。この時期になると、毎年ガーランドからなにかしらを贈られる。それらにどういった意味があるのだろう……と。
 最初は私も喜んだ。あの男が選びに選んだものなのだから、どういったものであろうと大切にしようと、心に決めて受け取ったものだ。
 だが、それは一度きりではなかった。先も告げたが、贈り物は〝毎年〟だった。私のためにあつらえてくれた高価な外套だったり、ふたりで使う揃いの食器だったり……、そのほかにもいろいろとあった。
 贈り物がこの時期所以のものだとしても、毎年毎年だと贈られた喜びは薄れ、困惑が生じてしまう。贈られたものが増えてしまったことに、思い切って私はガーランドに面向かって伝えることにした。
「ガーランド。贈り物は嬉しい。だが、もう十分だから……」
本当に欲しいものがひとつあれば、私はそれだけで満たされる。そのことを告げるつもりだった私に、ガーランドはふむと頷くだけだった。
「儂が忘れてしまっても、これらがあればお前は寂しくなかろう」
「──……っ、」
 私は言葉を失った。贈られることばかりを考え、ガーランドの真意までを見てはいなかったからだ。これは私の失態だった。
 ガーランドは、いずれすべて忘れてしまうと……これまでの私との戦いや、その先に見たものをいつかは忘却してしまうことを仄めかしている。
「それはっ! そのようなこと……私が許さない!」
 ここまで激昂したのは、いつ以来だろうか。セフィロスがフリオニールの赤い薔薇を奪い去ったとき以来かもしれない。そのくらい、私の腸は煮えくり返っていた。
「そのような意味合いで贈ってくれていたのなら、……私は初めから受け取らなかった!」
 一番最初に贈られたもの……それは、私の左手の薬指に嵌められている。青い装飾石のついた指輪は、鈍い銀に輝くものだった。もし、ガーランドが私のことを忘却してしまったのなら、この指輪はどうなる? それに、ほかの贈り物たちも──。
「記憶をなくしたおまえはっ! 私の指に嵌ったこの指輪を見て、なにも思わないのかッ⁉」
 記憶をなくしてしまったら、指輪を見たところでなにも思わないだろう。わかっていて、私はガーランドに意地悪なことを言い放った。
 聞きたくもない答えがガーランドから返されることを予測し、私は両の耳を手のひらで塞ぐ。この場に居るのもつらくなり、耳を塞いだまま部屋を出ようとした。
 しかし、それはガーランドに止められてしまった。ガーランドは私の腕を掴み、首を緩く左右に振っている。
 私の手はガーランドに下ろされ、塞いでいた耳はあらわにされた。首を振っていたガーランドは、はあと呆れたような溜息をついて私に告げてきた。
「思うわけがないと……どうして言いきれる? それを見て、儂はその指輪の贈り主に嫉妬するに決まっておるであろう?」
「〜〜〜〜っ、」
 私の頬が熱くなっていくのがわかる。きっと朱く染まっているのだろうと、私は手で熱くなった頬を隠そうとした。だけど、ガーランドに掴まれたままの手は動くことがない。私の頬の変化を気にすることなく、ガーランドは続けた。
「そうなれば、……そうだな。新たに、お前にまた指輪を贈るであろうな。輪廻の続く限り、何度でも……な」
「記憶をなくす前提でいるおまえに、そのようなことが……」
できるはずはない。そう言おうと思ったのだが、ガーランドの真摯なまなざしに圧倒され、私は口を噤んだ。ガーランドがそう言うのなら、きっとそうなるのだと……ありもしない未来を想定してしまう。これは、期待してもいいのか。……ガーランドを信じるべきなのか。私は心の中で葛藤した。
「信じろ。これまでも、ずっとお前は自らの意志を貫いてきたではないか」
「それは……そうだが」
 少し有耶無耶にされている感はあるが、今はガーランドの言葉を信じてもいいのだろうか。ガーランドは記憶をなくした先までのことを見てくれていると。
「おまえは……自分で贈ったものにも嫉妬をするのか?」
「お前が、指輪の贈り主をすぐに教えてくれるのなら、そのようなことにならずには済むだろうがな」
「無理だな。私は絶対に言わない」
 ガーランドが忘れてしまうというのなら、私は出方を探るかもしれない。ガーランドの未来を望み、消えてしまうかもしれない。そのことを暗に示すと、ガーランドは私の身を大きな躰で閉じ込めてきた。
「ならば、わからせねばならぬか」
「わかっていないのは、おまえのほうだろう」
「ほう?」
 ガーランドが私を覚えていてくれる限り、傍にいるのだと……。何度伝えても、この朴念仁には伝わらないらしい。それでも、記憶を失っても私を想ってくれると遠まわしに告げてきたことに、ガーランドの不器用さがすごく伝わってくる。
 ガーランドの胸の中に閉じ込められた私は、腕をまわしてぎゅっと抱きしめた。ガーランドの想いは私の心に伝わってくる。

 贈り物は最初の指輪を除いては、あとは日用品が多かった。これは指輪を強調させているのだと……ガーランドからの告白を受けて、私がやっと気づいたものだった。ふたりで使う揃いの食器は、受け取ってからまだ一度も使ってはいない。外套だってそうだった。困惑が勝り、使うことを忘れていた。
「ガーランド。おまえからの贈り物……私が使ってもいいのか?」
「…………使ってもらうために贈ったのだが? 使われぬままであったから、気に入らなかったのかと思っておったが」
 顔に手をあてたガーランドをじっと見つめ、私はふふと小さく微笑んだ。ガーランドが私を想い、選んでくれたのなら、遠慮なく使わせてもらおう。だけど、まずは……。
「ガーランド。おまえが忘れない限り、私は──」
 35年、ずっと寄り添ってきたのだから、これからも一緒に──。

 Fin