2022.10/21
常に感じることがある。これが、ちゃんと儂の隣で眠ってくれておるのか、と──。
朝になり、目が覚める。儂はまず真っ先に、これを見るところからはじめる。毎夜、疲れ果てさせてからこれを寝かせるわけだが……そうでもしなければ、これは一切眠ろうとせぬ。
出自の所以でこれに睡眠は不要であると、儂とて知らぬわけではない。だが、それでも睡眠の大切さを教えてやりたくて、画策した結果のことであった。
無論、それが眠らせるためだけの行為ではないことを、これにも徹底して教えておる。でなくば、変に誤解されても困るゆえにな。
そうして一度眠らせれば、あとは朝まで眠っててくれる。儂も安心して眠りにつくことができた。ただ、問題なのは、この世界のことであった。
世界は光と平和を取り戻し、これはとうに役目を終えておる。いつ、元の状態に戻されてしまうのか、もしくはずっとこのままでおるのか……それは誰にもわからぬことであった。
これはそのことを知らぬ。出自はもしかしたら知っておるかもしれぬ。しかし、それを儂が教えたところで、なにかが起こったり、変わるわけではない。したがって教えることもなく、これまでを過ごしてきた。
それゆえの不安が、今は儂に降りかかる。毎朝、目が覚めて起きたときに、儂は隣ですやすやと眠っておるこれを見る。これがクリスタル鉱石に戻ってはおらぬこと、ちゃんと儂の隣で眠ってくれていることに安堵して、ようやく胸を撫で下ろすのだった。
ふわりとした氷雪色の髪を撫で、あどけなく眠るこれの頬にそっと触れてみた。艶よくすべすべとした肌は少し冷たくて、まるでこれの元の素材を彷彿とさせる。言いようのない不安に駆られた儂は、触れていた頬から手を離して、まだ眠るこれの全身を強く抱きしめた。
「っ、? ⁉⁉⁉」
慌てたように飛び起きたこれの無防備な唇が批難を訴える前に、儂は自らの唇で塞いでやった。この儂を……毎朝不安にさせておるのだから、な。このような目覚めの口づけも悪くはないであろう? 自らの心をも誤魔化しながら、朝の挨拶をこうして行うのであった。
──了