宝石ネイル♀

               2019.01/15

「またか?……全く」
「……うるさい」
 カオス神殿に現れたウォーリアを捕まえ、ガーランドは奥の自室へと連れ込んだ。突然の行為に眼を丸くするウォーリアを無視し、ガーランドはウォーリアの黒いグローブを取り外す。両のグローブの中から出てきたのは、粉砕されたネイルの残骸と彩るパーツのいくつか──。
「グローブがあって、どうしてこうなる? 全く意味をなし得ておらぬではないか」
「すまない」
 はあ、ガーランドは溜息をつく。せっかく施した自信作の宝石ネイルは早々に剥がされ、見るも無残な状態になってしまっている。グローブに守られた爪が、どうすればここまでの有り様になるのか。ガーランドは不思議でしかない。
「……ガーランド。いつもこうなってしまうのだから、わざわざ爪を彩る必要などないので」
「黙れ」
 ガーランドはウォーリアの言葉を一蹴すると腕を引き、長椅子に座らせた。茶の用意をしてから向かいにガーランドも座り、黙々と爪の手入れ用品を取りだす。
 ウォーリアの細く白い指の先にある形の良い爪は、普段からガーランドが手入れをしている。素材はいいのに美に無頓着なウォーリアの、装備で隠れる場所に施すこの作業が、ガーランドは好きだった。そのため、手だけではなく足の先までも、繊細で緻密な装飾を施してある。
「爪が割れておるではないか? なにをした、全く……」
「……盾を投げて、剣を振るう。いつもしていることだ」
 ウォーリアに熱い茶を出し、白い手を取る。粉砕された装飾を完全に剥がして爪を磨いていく。大方大雑把な戦い方をしたのだろう。想像に容易い。それが証拠に、ウォーリアの小指などは比較的綺麗に装飾が残っている。
 下地を塗り、本塗りをする。何層にも分けて塗り、立体を作りだしていく。今回は炎をイメージして紅にした。
「……柘榴石の色か。いい色だな」
 くすり、ウォーリアは微笑んでいる。ガーランドは炎のクリスタルをイメージしたのだが、ウォーリアはどうやら宝石を考えたらしい。
「お前の施すこの爪が、どんな宝石をイメージしているのかを考えるのが私は好きだ……」
「……」
……宝石ではなく、四つのクリスタルのいずれかだが。
 ガーランドは基本の色の四色しか使わない。しかし、その日の気分で少し薄い色合いだったり濃い色合い、もしくは混色で色を作りだす。そのため、同じ色になることはなく、ウォーリアにすれば何色も使っているように映るのだろう。
「綺麗だ……。ありがとう、ガーランド」
 すべての爪に色を塗り、装飾を施す。ウォーリアは両の手の甲を広げ、キラキラと立体的に彩られた爪を見ては嬉しそうに綻んでいる。
「まだ乾いてはおらぬ。あまり動かすでない」
「ん。わかっている」
 持ち手のないグラスを選んで茶を淹れるのは、これを見越してなのだが、果たしてウォーリアはわかっているのか。すっかり冷めてしまった茶を、両手で包むようにして持ち、ウォーリアはこくこくと飲んでいく。
 美に無頓着で男のように振舞っていても、鎧を脱いでふたりだけになれば、ウォーリアは本来の性別へと戻る。
 茶を飲むその仕草の愛らしさに、ガーランドはくらり、一瞬ですべてを持っていかれた。
……まだだ、まだ。爪の装飾が完全に乾いてはおらぬ。
 何層にも施した爪の装飾が乾くまでは時間がかかる。必然的にそのあいだは、ガーランドもおあずけを喰らうことになる。
「ウォーリア、乾けば……わかっておるな」
「……っ⁉」
 こくん、顔を朱く染めて頷いたウォーリアを、どう美味しくいただいてやろうか。ガーランドはぺろり、口端を舐めて考えた。

 紅く彩られたその爪で、ガーランドの背中に紅い傷を刻み込むのはもう少し先の話──。

              【宝石ネイル 完】