互いの寝顔

2023.5/04

「ん、」
 むくりと躰を起こし、ウォーリアオブライト──ウォーリアはふぁっと大きく伸びをする。窓を見れば日が高い位置にあった。
 ウォーリアオブライトは元来睡眠を必要としない青年であった。だが、ガーランドと生活をするうえで、多少なりと眠る習慣がつくようになった。
 というのも、この青年が眠りに就くまでガーランドは決して寝ようとはしない。ウォーリアオブライトが夜通し起きているなら、ガーランドも一晩中起きていた。
 そうなってくると、睡眠を必要とするガーランドは寝不足になる。しかも騎士団の任務までが毎日のようにあるのだから、ウォーリアオブライトとしても無理はさせられない。必然的に眠れるように努力をし、どうにかある程度は寝ることができるようになった。
 もっとも、無理に眠ろうとしなくてもガーランドと身を重ねてしまえば、ウォーリアオブライトは肉体の疲弊からすぐに寝入って──正確には意識を失って──しまうのだが。
 そうではなく、ウォーリアオブライトは自然に眠りに就けるようにしたかった。ガーランドの助けがなくても、ひとりで入眠ができるように。だが、それはまだ難易度が高く、昨夜もガーランドと身を重ねることで、強引に眠らされていた。
 ガーランドが眠っていた場所はとうに冷たくなっている。もう王城へ出向いたのだろうと、ウォーリアオブライトは判断した。
 ひとりで起きる朝が寂しいと感じたことはない。元々ひとりでいたのだから、元に戻っただけだと……。それでも、冷たくなったガーランドの場所を確かめるように、手のひらですっと撫でていった。敷布の皺が手のひらの動きに合わせて波打つように揺れていく。
 何度か繰り返してから、ウォーリアオブライトは柔らかな掛布を躰に巻いていった。昨夜着ていた衣服が部屋からなくなっている。互いの体液で汚してしまったために、ガーランドによって洗われてしまっているのだと……ウォーリアオブライトは頬を朱く染めながら考えていた。
 ガーランドとの夜の営みは日にもよるが、かなり激しいことが多い。かつてガーランドの宿敵として在ったウォーリアオブライトでさえ、最後まで意識を保つことができないでいる。
 結果として愛し合う行為とは別で、一部分で眠らされる行為としてでも存在するのだが、そうではない。ウォーリアオブライトは緩く頭を振った。
 互いを想い合う心が通じあって今生を過ごしているのだから、ガーランドが傍にいるだけで、ウォーリアオブライトは安心して眠ることができる。ガーランドの心音を肌で感じ、温かい体温に包まれるだけで十分だった。
 それを何度もガーランドに伝えているのに、当人は躍起になってウォーリアオブライトを眠らせにかかってくる。それは仕方のないことだと、青年も思うところはあった。
 ウォーリアオブライトが眠らないことには、ガーランドも眠らない。翌日に影響が出てしまうのだから、多少の無理はしても行ってくる。それでも、ガーランドの心音と体温を感じて、微睡みながらゆっくりと眠りたい。ウォーリアオブライトは願うが、それは互いでもう少し話し合う必要があることも否めなかった。
「……」
 窓の外の眩い陽射しを見ていても、結局はなにも解決しない。ガーランドが不在ならば、そのあいだにできることをしよう……その前に、まず着替えを行おうと、青年は掛布を巻きつけた身で寝台から降りた。着替えるのが先だが、青年は一度隣にある大きな部屋へと移動していった。

「ガーランド……?」
 隣の部屋にある長椅子に寝転がって、ガーランドはすやすやと眠っている。ガーランドの長い脚は長椅子からはみ出ていた。顔の上に書が開いたまま乗せられているのは、読書途中だったのか。
「ガーランド……騎士団のほうはいいのか?」
 ウォーリアオブライトは長椅子に駆け寄り、ガーランドの躰をゆさゆさと揺らした。そのせいで顔の上に置かれていた書がバサリと音を立てて落ちてしまったが、それには気にも留めずウォーリアオブライトはガーランドを何度も揺り動かした。
「寝ているだけか……?」
 とりあえず大事はないことに、ウォーリアオブライトは胸を撫で下ろした。起きないから病気の可能性も考えたが、やはり読書途中で寝入ってしまったようだった。
 ガーランドがこうして眠る姿を見るのは初めてだから、ウォーリアオブライトはどうしていいのかわからない。それでもガーランドの任務のことを考え、もう一度ゆさゆさと躰を揺さぶってみた。しかし一向に起きる気配はない。
「ガーランド」
 まだ起きそうにないガーランドの寝顔を見ているうちに、ウォーリアオブライトは手のひらから温かい体温を感じていた。好きな体温をもっと感じたくなり、ウォーリアオブライトはガーランドの逞しい胸板に頬を近づける。規則正しく動く鼓動を聞いていたくて、耳を押しつけるようにすりすりと擦りよせた。
 騎士団に行ってもらうために、ガーランドを起こさねばならない。だが、今だけ……と言い訳して、ウォーリアオブライトは何度も何度も愛おしそうに、ガーランドの胸にぎゅうぎゅうと頬をくっつけては、手のひらでぬくもりを感じていた。

「……」
 ガーランドはこの現状に、どうしたものかと頭を悩ませていた。少しうたた寝してしまったあいだに、ウォーリアオブライトがしっかりとくっついてしまっている。
 それはガーランドとしても嬉しいのだが、如何せん状況が掴めない。なぜ全裸に掛布を巻きつけた状態──これについては、事情がわからないでもない──の伴侶といえる青年が愛おしげに我が胸に頬を寄せているのか。しかも、どうしてかウォーリアオブライトは眠そうに微睡みかけている。
「ウォーリア……?」
 それは手の動きが緩慢になってきているからわかることだが、そもそもウォーリアオブライトは寝起きの状態ではないのか。ガーランドがうたた寝するまでに、青年が起きてこなかったのは確認できている。それに、着替えることなくこの姿のままでいるのなら、それは確定事項といえた。
 うとうととしている青年を前に、ガーランドはどうやって騎士団に遅刻すると報告しようか……。ウォーリアオブライトの腰に腕をまわしても気づかれていない様子に、ガーランドはそのことだけを考えてしまうのだった。

 Fin