月に翳した願い(FF1)

                2021.12/19

 その夜、いつものように月の下に佇む青年に声をかけられなかったのは、その後ろ姿があまりにも張り詰めており、そしてひどく美しかったからであった。
 青年が身につけるクリスタルを時おり月に翳すのは、これまでに幾度か見てきたことで、ガーランドとしてもすでに珍しくない光景ではあった。だが、月に翳し終えたあとに、もう一度祈るように月を見上げるような青年の姿は初めてだった。
 コールドムーンに願えば、物事は達成に導かれるのだという。それならば、と。
──これからも、ずっとこの青年とともに在ることができるように。
 そっと願って見上げようとした月とのあいだに、想いを募らせる青年の訝しげな表情が割り込んできた。
「……そういったことは、生涯を心に決めた者に伝えるといい」
月に願うのではなく、直接伝えるべきだと……。青年は最もなことを言ってきた。しかし、心なし青年の頬が薔薇色に染まっていたのを、ガーランドは見逃さなかった。
 どうやら願いは口に出してしまっていたらしい。しかも、『青年とともに』と願ったガーランドの言葉の意味を理解したうえで、この青年は聞かぬふりをしている。自身のことではないと決めつけているのかもしれない。はぁ、難攻不落な様子に、ガーランドは小さな溜息を零す。
 こっそりと用意した指輪をいつか青年に贈ることを、ガーランドはもう一度月に願うのだった。

​                    ──了