2021.4/29
荒れた大地の広がる旧世界に取り残されたふたりは、目を合わせるたびに剣を交わしていた。そこに言葉はない。全力で戦うことに意義があり、言葉を挟むのは死に直結する。
キィン
ウォーリアオブライト──ウォーリアの手に持つ光の剣が弧を描いて宙に舞う。宿敵ガーランドの巨剣によって弾かれた光の剣は少し離れた地に突き刺さった。
ウォーリアは飛ばされた剣の場所を確認した。しかし、その一瞬をガーランドは逃さなかった。
「くっ、」
ゴツゴツとした地面に押し倒されたウォーリアは、見下ろしてくるガーランドを睨みつけた。ガーランドの持つ巨剣が振り下ろされれば、この命は……。死ぬことは怖くない。怖いのは、目の前にいる闘争に囚われたこの男を救ってやれないこと──。また、記憶を失ってしまうこと。長い輪廻の果てに見つけたものを失うのかと思うと、それは後悔が残る。だが、勝負はつけられたのだから。覚悟を決めたウォーリアは、そっと瞼を閉じた。
しかし、ガーランドの巨剣はウォーリアの命を奪うことはなかった。いつまで経っても振り下ろされない巨剣に、ウォーリアの緊張は高まっていく。
「……どうして、私の息の根を止めない?」
瞼を開けたウォーリアは、ガーランドを見上げて低い口調で語る。情けをかけられたのかと……それが悔しくて、自身の力不足を感じてしまう。
「すぐに終わっても面白くなかろう? 興ははじまったばかりだ。楽しもうではないか」
「……」
この闘争を〝興〟と言いきるガーランドに思うことはあるが、ウォーリアは口にしなかった。この男になにを伝えようと、届くことはないと知っている。
張り詰めた空気のなかで互いに睨み合っていたが、ガーランドはウォーリアから引くと巨剣を手に空を見上げた。
地に背をつけていたウォーリアは起き上がり、ガーランドの意図を探る。ひたいや頬に張りついた髪を手で払っていると、ガーランドは空を指さした。
「星の数……」
「え?」
「競い合ってみぬか」
それが、ガーランドとの闘争以外で交わしたはじめての言葉だった。
あまねく星を数え尽くすのは無理だろう。ガーランドの申し出は無謀に近い。ウォーリアは困惑した表情で、首を何度も左右に振る。ガーランドの伝えたいことの意味がわからなくて、視線だけを空に向ける。
「先は長いからな」
ウォーリアの視線を受けて、ガーランドはくっと嗤っている。ここで勝負をつけるより、先延ばしにしてさらに楽しもうと。
「ふざけるな! 私は……」
それでも、ウォーリアは口を閉ざし、星を眺めながらこの闘争のことを考えてしまった。この旧世界での戦いはいつか終わってしまうのだろうか。終えてしまえば私たちはどうなってしまうのか。願わくばこのままでいたい、そう……思うのはいけないことなのだろうか。──と。
けれど、それは口に出してはいけないことだった。言霊の──意志の力が働いてしまうから。心の中だけに留め、ウォーリアは黙って星を数えた。思いも意志の力となるのだが、それでも思わずにはいられなかった──。
Fin