雨音

                 2019.4/14

「……おやすみなさい」
 私は傍に付いていてくれていた男に囁いた。コホ……、小さな咳が出る。その度に男は私の顔色を窺い、ひたいに手をあててくれる。体温を計ってくれているのだろう。私は頬を染め、不器用なこの男の優しさに小さく口角を上げていた。
 私が早く眠らないと、この男も身体を休ませることは出来ない。私は瞼を閉じ、何とか眠ろうと試みた。しかし、眠気は一向に訪れることはなかった。
 というのも、外は朝からずっと雨が降り続いていた。結構強く降る雨の音は耳障りで、そのために私は寝付けずにいる。
 日中に私はその降り続く雨に打たれ、情けなくも熱を出している。夕方過ぎから寝込む私は、男に説教をもらい、また心配され、今……こうして温かな寝具に包まっていた。
「私はいい。お前も早く休め……ガーランド」
「……それだけの熱を出しておいて、何をほざくか」
眠るまで付いていてやる。男──ガーランド──は呆れ顔で私を見下ろしてきた。私は何も言い返せなかった。申し訳なさと嬉しさで。
 こういったときでないと……私はガーランドに我儘を言うこともままならない。逆に言えば、こういうときにこそ、好きに甘えることが出来る。
「ガーランド、私の熱を冷ましてくれないか……」
 私は腕を伸ばし、火照った身体をガーランドに差し出した。これが何を意味するか……言い出した私だって理解している。だが……。
「熱が下がればな。その時は──」
いくらでも、な。耳許で熱い吐息と共に囁かれ、私の身体は一気に熱を帯びた。この男はズルい……。普段は私の意志に関係なく私を貪るのに、私から誘えば……私の身体を心配してくれているのは解る。それでも、私は──。
「ガーランド、私を……」
助けて……。私は熱を帯びた身体をガーランドに見せつけた。とろりと蜜を溢すそれを見せれば、ガーランドの喉を鳴らす音が部屋に響いた。
「お前は……知らぬぞ」
「お前の手で殺されるなら、私も本望……」
 私は自ら衣類を脱ぎ捨て、ガーランドに抱きついた。部屋には私達の互いを貪る息遣いだけが響いていた。

「ガーランド、ありがとう……」
「無理をさせた……早く寝ろ」
早く治せ。無骨な手で私のひたいに触れてくる。私はこの男の不器用な優しさが、本当に大好きなのだと自覚している。
 行為が終わっても、ガーランドは私を気遣い、こうして包み込むような優しさを与えてくれる。私はガーランドの腕の中で微睡んでいた。
「雨は止んだようだな」
 ぼそりとガーランドは呟いた。そういえば……私は耳を傾けた。行為が始まったときには確かに雨音はしていたはず……いつの間にか雨は止んでいた。

 Fin