犯人は誰?

                 2019.1/22

「なあ、言わなきゃわからないんだよ。ちゃんとオレの目を見て言えよ」
「……」
……言えるわけがないだろう。
スコールはバッツと目が合う前にそらした。
「なあ、言えって」

***

「どうしたんだ? いったい……」
「珍しいッスね。二人が喧嘩って」
騒ぎを聞きつけたジタンとティーダが、バッツとスコールの元に来た。一方的にスコールを捲し立てるバッツの様子に、ジタンは、ふむ、と腕を組み、ビシィッと人差し指をバッツに向けた。
「バッツ、何やらかしたんだ? とりあえずスコールに謝っとけ」
「いや、おかしいだろ? そこ」
オレ何もしてねーよ。怒り心頭のバッツを余所に、ジタンとティーダはスコールの方に向き直った。
「冗談はおいといて、実際に何をしたんだ? スコール」
「……」
「だんまりだと益々疑われるッスよ」
黙秘を貫く姿勢のスコールに、ジタンとティーダは肩を竦め合い、嘆息した。この状態のスコールは何を尋ねても絶対に答えないのは重々承知している。ジタンはもう一度嘆息しながら前髪を掻きあげ、ティーダはバッツの方を振り向いた。
「これじゃあラチがあかないな」
「じゃあ、バッツ。スコールに何されたんスか?」
「……」
……これはこれで言いにくいな。
「お前まで何なんだよ。そんなに言いにくいのか?」
当人のひとりでもあるバッツまでもが沈黙し、ジタンは顔に手をあてた。だんだん面倒くさくなってきたジタンは、この場から離れようかと考えだした。
ティーダは手をポン、と叩き、三人にとてもいい笑顔をニカッと見せた。可愛らしい八重歯が見えたが、この場でこれを可愛いと思う者は、残念ながらいなかった。
「分かったッス! スコールはバッツが大好きで、バッツもスコールが好きだから、告ってもらいたいバッツはスコールを捲してるんスね」
「「……は?」」
ティーダのトンデモ発言にバッツとスコールは唖然とし、間抜けな声を仲良くハモらせた。
ジタンは口許に手をあて、笑いを懸命に堪えだした。
「違うなら言えるッスよね。だんまりなら、今ので確定にするっスよ!」
へえ、なかなかの策士だな。ジタンはティーダへの印象を少し変えた。おそらくセシル仕込みだろうけど。そんなことを考えながら、ジタンはこの場をティーダに任せ傍観することに決めた。
「……分かったよ。言うよ」
はー。大きな溜息をつき、バッツは白状した。スコールは渋面のまま、明後日を向いてしまっている。

***

「「はあっ⁉ ブルーベリーフール(ッスか)?」」
「正確に言うと未完成品だな。人数分冷ましてたの全部なくなったんだ。最後に側にいたのはスコールだから、それで聞いてたんだよ」
「いや待てバッツ。スコール甘いのダメだろ。ブルーベリーフールなんて間違っても食べないと思うけど」
「分かってるよ。じゃなくて、何か知ってるかと思ったんだ」

ブルーベリーフールはその名の通り、ブルーベリーを使った簡単かつとても美味しいスイーツだった。
探索の際、ブルーベリーの群生地を発見したのはつい先日のことだった。大量採取してきた新鮮なブルーベリーを一部はジャムに変え、一部は酒に漬け込み、一部はフレッシュな状態で保存していた。
バッツはブルーベリーと生クリームを使い、簡単なスイーツを作りだした。あとは冷まして完成。……そろそろ出来たかな? と様子を見に来たところで、余所余所しい態度のスコールと遭遇した。怪しいと思いながらも、スイーツを保管していた冷蔵箱を開けると、キレイに全てのスイーツ達がいなくなっていた──。

「なるほどね。スコール、こりゃお前が疑われても仕方ないと思うぜ。さっさと吐いちまいな」
「スコールは何か見て、それで黙ってるんスよね?」
早く言った方が気持ち的にラクッスよ。のほほんと続けたティーダに、スコールは益々渋面を強くした。
「…………」
……いっそオレが食べたことにしておこうか。
「いいよ、スコール。言いたくないなら、もういい……」
「「バッツ?」」
スコールの様子を目を細め、じっと観察していたバッツは、ふ…、口許を緩めた。バッツの言葉に驚いたのはジタンとティーダで、スコールは呆然とバッツに目を向けた。
「大体分かった。スコール、疑って悪かったな。材料あるからもう一回作り直す。ジタン、ティーダ。おやつの時間が遅れると、クラウドにそう伝えといてくれ」
「「分かった(ッス)」」

***

報告のため、場を離れた二人を見送ると、バッツはスコールに向き合った。いい笑顔を向けてきたバッツに、スコールはなんとなく嫌な予感を覚えた。
「お前が食べたことにしなくていいぜ。女の子は好きだからな、こういうの」
材料を取り出し、手際良く生クリームを泡立てだしたバッツに、スコールは瞠目し言葉を失った。
「そういうこと、だろ? スコール」
スコールは目を閉じ嘆息した。どうやらバッツには全てお見通しらしい。何も言わずとも見抜いたバッツに、スコールは素直な称賛しか出なかった。

『何してるんだ、ティナ』
『スコール……』
『それはバッツがあとから皆で食べようと、作ってたやつではないのか?』
『ごめんなさい……。私、自分の分だけ食べようと思って、つい…』
『皆の分まで食べたと』
『ごめんなさい……』
『……っ!バッツが来た。ここはオレに任せて行け』
『でも……』
『いいから。あとはオレがする。早く』
『ごめんなさい……ありがとう』

「アンタには敵わないな」
「オレに勝ちたかったら、そうだな……あと150くらいレベル上げな」
「カンストしてるじゃないか」
「それくらいの意気込みで、てことだ。真に受けるな」
屈託なく笑うバッツに、スコールは何も言えなくなった。だが、このままではのちに良心の苛責に苛まれることは火を見るより明らか。だったらいっそのこと──。
「バッツ、オレがやる。貸してくれ」
「いいのか? 結構キツイぞ、これ泡立てるの」
生クリームの入った器を抱えたバッツに、スコールは貸せ、とばかりに手を出した。スコールからの意外な申し出にバッツは目を丸くした。
「構わない」
「それでスコールの気が済むならやってくれ。ただし、筋肉痛確定事案だからな、それ」
バッツから器を受け取ると、スコールは恐る恐る泡立て器のようなもので混ぜ始めた。
この世界に泡立て器なんて便利なものはなかった。そのために、バッツとフリオニールは丈夫な太い枝に、多量の小枝を巻き付け紐で縛ったものを作り出した。以来それを使用している。
小枝が時々折れて、スイーツに混入することもあるが、それもまた暗黙の了解だった。

『枝が気になるなら食べるな』

これが、秩序の若いメンバーの胃袋を支える、バッツとフリオニールの共通意見である。
「マジか? ハンドミキサーがあれば……」
「ハンド? 何だそれ?」
「オレの世界にあった調理器具だ」
「スコールの世界のものか。便利なんだろーな、きっと」
感心したように言うバッツの横で、スコールは生クリームの泡立てに苦戦しだした。少し掻き混ぜただけで腕が痛い。バッツもフリオニールも平気な顔でシャカシャカしてるが、実際はどれだけキツイ作業なのかスコールは身を持って知ることになった。
「無理しなくていーぜ。料理初心者にはツラい作業だ」
パッとスコールから器を取り戻し、シャカシャカ混ぜだしたバッツをスコールは黙って見ていた。
バッツはそんなスコールを見ながら、同じく黙って泡立て始めた。最後までティナを庇い、罪悪感から手伝おうとした、意外と優しい心を持つこの子をクラウドの雷から守ってやんなきゃな。オレが味見でつい全部食っちまったことにしといてやるか……。バッツは小さく笑みながら作業を進めた。

Fin

 

お題:『言わなきゃわからない』
『目が合う前にそらした』
『騒ぎを聞きつけた』