Happy Halloween ※スコバツ

                2018.10/25

「スコール。いるかぁ?」
「なんだ、オレに用か?」
 まもなく昼休み終了のチャイムが鳴るであろう絶妙なタイミングだった。学年が違うというのに、ソイツはオレの教室にまでやって来た。
「なぁ。今日さ、おれに付き合ってくれないか?」
「……はぁっ?」
 校内では秘密にしている恋人から、思ってもいない意外なことを告げられた。さらっと言われた告白にも聞こえるその内容に、オレは間抜けな声をあげ、情けなくも固まってしまった……。

 ***

「……」
……どうしてこうなった?
「ここのケーキ、すげー美味いんだぜ」
 バッツ──一応、オレの恋人だ──に放課後連れて来られた先は、巷で有名なスイーツバイキングの店の前だった。オレは眩暈をおこして思わず倒れかけた。
「なんだ? 低血糖か? 気をつけろよ」
「……」
……違う。断じて違う。
 無言のオレに臆することなく、バッツはにこっと人のいい笑顔を見せた。惚れた弱みだ、仕方ない。オレは覚悟を決めた。店員に名前を呼ばれ、バッツと二人で店員に案内されるまま付いていった。店内は女子に溢れ、男子二人組のオレたちは周囲からじろじろと好奇の目で見られてしまう結果となった。まるで罰ゲーム……。オレの頭の中はそれでいっぱいになってしまった。
「おれ、先にお前の分も取ってくるな」
「待て! オレは……」
 席に着くとバッツはケーキを取りに、オレの話も聞かず駆け出して行った。オレはやれやれと見送ってから、注文を取りに来た店員に二人分の飲み物を注文した。オレはコーヒーで、バッツはよく分からないが店員のオススメとか言うハーブティにしておいた。

「ただいまー。おっ、飲みモン注文してくれたんだ」
「アンタのは店員のオススメらしい」
「サンキューな」
 店員がオーダーした飲み物を持ってきてしばらくしてから、両手に大量のケーキを乗せた皿を持ってバッツは戻って来た。オレの顔はおそらく引きつっていただろう。見ただけで胸焼けする量が二人分だ。
 オレの向かいの席に座ったバッツは、ポットからティーバッグを取り出して受け皿に乗せる。意外にも優雅でスマートな一連の動作にオレはつい見惚れ、気づけばバッツを凝視していた。
 ポットからカップに紅茶を注ぎ、すべての準備を終えたバッツは律儀に手を合わせた。「いただきます」そう言うと、バッツはパクパクと持ってきたケーキを食べだした。
「スコール? 早く食べねーとなくなるぞ」
「……オレはいい」
 バッツは二人分持ってきたうちのひとつの皿をオレに差し出した。しかしオレは受け取らなかった。ケーキが山盛り積んでいる。そんなもの、別に要らなかった。
 しかし、オレが受け取らないせいで、バッツが眉を顰めた。口を尖らせ、バッツはオレに聞いてくる。
「……なんで?」
「オレは甘いものが苦手なんだ……」
「ふーん」
それじゃー仕方ないな。はー。バッツに盛大な溜息をつかれた。いや、嘆息したいのはむしろオレのほうだ。見ているだけで胸焼けを起こしたオレは、コーヒーを啜りながら目の前にある大量のケーキを半ば呆然と見続けた。
「悪かったな」
「……なんだ?」
 ケーキを食べる手を止めて、バッツがぼそりと呟いた。囁くような呟きは店内の女子達の喋り声にかき消され、オレの耳まではほとんど入って来なかった。
「本当は知ってた。……お前が甘いのダメなこと。お前は一度だって教えてくれなかったけどな」
「……は?」
……やっぱり聞こえない。もう少し大きな声で話してくれないだろうか。
 オレは壁と話す感覚で、つい心の中で話をしてしまっていた。当然バッツに聞こえるはずもなく、バッツの声は依然小さいままだった。
「それなのにさ、こんなトコに無理して誘って。いつもならジタンやヴァンが付き合ってくれるんだけど、今日は二人とも捕まらなかったんだ」
「……なに?」
 店内が少し静かになり、バッツの声がようやく聞こえてきたと思ったら、なぜかオレのクラスメイトの名前が出てきた。……アイツら、オレに内緒でバッツとケーキを食べに行っていたのか。オレは無性に腹が立ち、ポツリポツリと話すバッツを意味もなく睨んでしまった。
「フリオとティーダは部活があるからダメだって断られた。クラウドとセシルはウォーリアを家まで送り届けに行ったしな。ここはさ、二人以上でないと入れない店だから、な」
ハロウィンバイキング、今日までだったんだ……。ようやく聞き取れたバッツからの誘いの全貌に、オレは呆然とした。同時に若干の苛立ちを感じた。要するに消去法で最後にオレが残っただけではないのか?
「そういう理由でオレを……?」
 オレは急速に冷めていく感覚を覚えた。バッツにではない。校内で大っぴらに『付き合ってくれ』と言われ、ウキウキで付いて来た能天気なオレ自身にだ。震える手でなんとかコーヒーを啜った。もはや味も分からない。
「もしかしたら……お前にも少しくらい食べられるものがあるんじゃないか。そう……思ったんだ」
「バッツ、悪いがここには……」
「もとより承知のうえだ。今日、みんなが都合の悪いことも前からわかってた。……ホントはな、お前と二人でハロウィンスイーツを食べに来たかったんだ」
ほら、おれは寮暮らしだからさ。悪かったな……。そう言ってバッツは下を向き、伝票を片手に席を立とうとした。まだケーキをそんなに食べていないし、もうひとつの皿は手すら付けていない。それにバイキングは二時間制だが、まだ三十分も経っていない。それなのに席を立って鞄を掴んだバッツに、オレは慌てた。このままでは……。
「待て!」
どこに行く気だ……? オレは腕を掴み、下を向いたバッツの表情を見てハッとした。今にも泣き出しそうな顔をしている。こんな表情もできるんだと、オレは不謹慎ながらもそう思ってしまった。
「お前が楽しめないんじゃ意味ないだろ? 出て、今日はもう解散しようぜ……」
 いつもは飄々としてオレたちの前では笑顔を見せるバッツの違う一面を見ることができて、オレの心臓は一気に跳ねあがった。この表情が見られただけで、オレはもう満足だった。
 バッツが解散を申し出てきたがオレは無視した。バッツを席に戻してから、オレも座っていた席に座りなおした。
「食べる」
「無理すんなって。別にそこまで期待し」
「比較的甘くないのはどれだ?」
 バッツにそこまで言わせて、さすがにオレもなにも食べないというわけにはいかない。慌てて止めようとするバッツを遮り、オレは皿の中でどうにか食べられそうなケーキを探した。
「……だったら、そこのパンプキンパイじゃねーかな。カボチャも甘さ控えめだし、なによりシナモンが多く使われてる」
「それでいい、あとコーヒーと」
 すでにコーヒーは飲んでしまっていたので、オレは追加を注文した。しかし、メニューを見て少し憤慨してしまった。
「…………」
……別注文だと? おかわりって、普通はバイキング料金に含まれるだろうが。ふざけるなっ。
 オレがギッと店員を睨んでしまったものだから、店員は申し訳なさそうな顔をしていた。店員に罪は全くないのだが、……悪い。やり場のない怒りを、ここは店員にぶつけさせてもらった。
「はい、スコール。絶対無理はするなよ」
「悪いな……」
 オレはバッツからパンプキンパイがどーんと鎮座する皿を受け取った。受け取ってから、オレは眉をひくひくと動かした。
「く、……っ」
……こうして見ると、かなり威圧感があるな。
 ホールを六等分に切り分けられたパンプキンパイは、バイキングのケーキにしては大きすぎる気さえしてくる。受け取ったものの、なかなか口に運ぼうとしないオレに見兼ねたのか、バッツが身を乗り出してきた。ひとくちサイズに切り分けると、先ほどまでバッツ自身が使っていたフォークでそれをぶっ刺している。オレはバッツの突然の行動に目を丸くした。
「はい。食わず嫌いしてねーで、ひと口食ってみな」
「……」
 オレは言葉も出なかった。バッツはぶっ刺したパイをオレの口元にずいっと持ってきた。いわゆる『はい、あ~ん』だ。嬉しい。嬉しいが、ここではマズイ。ここでは……⁉ って、店内の客や店員……すべてに見られている──?
「バッツ、ま……」
……待てっ! なんなんだ、この注目は?
「ふがっ⁉」
 店内に目を向けていて、情けない声を出してしまったのは失態もいいところだった。オレの視線がバッツを飛び越え、さらにうしろへと向けられて、店内の様子に愕然としたその瞬間だった。バッツはオレの口の中にパイを押し込んできた。危険すぎるだろ! 喉に詰めたらどうするんだ! そう言ってやりたかったが、甘さ控えめらしいがオレには十分甘いパイを咀嚼するのが精一杯で、もうそれどころではなかった。
「美味いだろ?」
 すごくいい笑みを浮かべてバッツは言ってくる。バッツはいい。背中を向けている。だがオレは……正面からしっかりと見られている。
 店内の周囲の視線がオレたちに集中している。オレはさすがに恥ずかしくなった。いたたまれなくなり、下を向く。どうにか無事に嚥下でき、空になった口内にオレはコーヒーを流し込んだ。
「周囲の視線なんか気にすんな。おれたちはおれたちだ、楽しくやろーぜ」
「……」
……そうきたか。
 周囲の視線に気づいていながら、バッツはわざとやらかしたのか。先ほどの泣きそうな顔から一転して、バッツはイタズラが成功した子どものように屈託なく笑いだした。
 そんなバッツを見て、オレの中でなにかが弾けていた。なるほど、それならオレだって……。オレは口元が歪んでしまうのを片手で隠し、自分のフォークを掴んだ。先ほどバッツが切り分けたパイに刺し、それを差し出した。
「Trick so Treat(お菓子をくれたので悪戯するぞ)」
「……えっ?」
 オレの慌てる様を見て笑っていたバッツが、急に凍りついたように固まった。どうやらこの返しは想定していなかったらしい。あたふたと慌てだしたかと思えば、オレの差し出したパイをパクっと口にした。
「……いいよ、お前になら。どんなイタズラをされても」
「……っ⁉」
 小声で呟き、頬を赤く染めたバッツに顔をぷいと背かれた。しかしその言葉はオレの耳にしっかりと届いている。「キャーッ‼︎」と黄色い声をあげて、ざわめく店内の周囲のギャラリーなんかどうでもいい。オレは伝票を取ると、バッツの腕を掴んで慌てて会計に向かった。
「ちょっ、と……スコール?」
「オレの家に行くぞ」
「……」
 黙ってこくりとだけ頷いたバッツを横目に、オレはさっと会計を済ませた。バッツはしきりに「割り勘で!」と言ってきたが、無視だ無視。恋人に支払わせるなんて、オレにはできない。
「お前の家……今日、家族は?」
「父は晩餐に呼ばれてるから、今晩はオレひとりだけだ。朝までいても問題はない」
「ん……」
 赤い顔でこくりともう一度頷いたバッツの腕を引き、走る勢いでオレたちは帰宅した。

 ***

「待、て……こんな、ところ…で」
「待てない」
 オレは家に着くとバッツを玄関で押し倒した。もちろん鍵はかけた。邪魔なんて入られたらたまらない。
「スコール……」
 大きなヘーゼルの瞳を潤ませてバッツが訴えてきた。先ほどの羞恥プレイの礼をその躰に返してやろうかと考えていたが、オレのほうもあまり保たなくなってきた。若いんだ、仕方ないだろう。
「スコール、ここは……せめてベッ、」
 バッツが頭をふるふると左右に振り、オレの与える刺激に堪えているのが見える。
 オレに機会がなかなか作れないせいか、こうやって身を繋げるのは意外にも少なかった。寮住まいのバッツの部屋ではできるはずもなく、この行為は決まってオレの家のオレの部屋となる。
 いつもは父関係の人間が家中をうろつくため、バッツを呼んでもなにもできずに帰すことのほうが多い。それが、今回は誰も居ないことがわかると、バッツもすんなりと首を縦に振ってくれた。
「スコール……」
 オレはバッツの腕を掴み首のうしろで絡ませると、荒い吐息を洩らす小さな口にそっと唇を重ね合わせた──。

 ***

 汚れた二人分の制服を洗濯機に投入してスイッチを押す。乾燥付き全自動だから、しばらくは放置していても大丈夫だった。オレがリビングに戻ると、オレのパジャマを着て絨毯の上で毛布に包まるバッツが見えた。
「……悪かったな、玄関で」
「いいよ、それよりサンキュな」
 喉が渇いているだろうと、オレはバッツに冷たい水の入ったグラスを渡した。バッツはやはり喉が渇いていたのかゴクゴクと飲み干すとオレにグラスを返してくれた。オレはグラスをテーブルに置くと、バッツの隣に腰を下ろした。
「……スコール、ありがとな」
「……?」
「制服もだけど、今日……ここに呼んでくれて」
「……」
……そういうことか。
 なんとなくたが、オレにもわかった気がした。あんな父でも、一応は要人だ。家には常にSPだったり補佐官だったりが出入りする。なかなか二人きりになれないこの家より、いっそのこと外で遊ぶほうがよほど楽しくやれる。
「オレから聞いていいか?」
「……なんだよ?」
「オレが甘いの苦手だと知っていて、なぜあの店を選んだ?」
 外で十分と考えるなら、オレの中でわからないもうひとつが頭をよぎった。この際、バッツとケーキを食べに行くとかいうクラスメイトは横に置いておこう。
「お前が食べられなかったら、そこでイタズラができるだろ? 食べられたなら、それはそれで良かったし」
「……は⁉」
「ケーキが食べられないお前に、『Trick yet Treat(お菓子はいいから悪戯させろ)』って言ってやろうと思ってたんだよ」
「…………………」
……そんな理由で、オレはあの店で羞恥プレイをさせられたのか。
もうあの店、二度と行けないな。オレは目の前を真っ暗にしながら、脳裏でそんなことを考えた。
「結局……おれがイタズラされたけどな」
 複雑な微苦笑を浮かべるバッツに、オレはまた溜息をついた。しつこいが惚れた弱みだ。この際、とことんまで付き合ってやろうじゃないか。こんな機会、次はいつ訪れるかわからない。
 オレはバッツから毛布を奪い取ると、もう一度絨毯の上に押し倒した。先と同じ状況に、バッツの微苦笑が焦りを含んだものに変わっていく。
「……うぇ?」
「もっとイタズラ……してやろうか?」
 バッツの両手を片手でまとめて頭上で押さえつける。力の差を感じたのか、バッツは本格的に暴れだした。
「待て……っ、さっきした、あっ……」
 だが、先まで苛めていたわけだから、少し触れるだけでバッツはびくんと大きく身を揺らした。まだまだ物足りなさそうにしているようなので、こちらとしても申し分ない。この家でゆっくりできないことを憂いての先の発言なのだから、一晩中続けたとしても……満足できるかわからないくらいだ。
 オレは頭の中で予備がいくつあったのか考えた。バッツとこうなることなど予測していなかったから、新しく購入していない。もしかしたら足りなくなるかもしれない。なにが……? 訊くな、野暮だろ。
「今日のオレの夕食はアンタで決定、だな」
「勝手にきめるなあぁぁぁッ」
 バッツの叫びは防音設備の整ったこの家からは、一切外に漏れ出すことなくかき消されてしまった──。

 ***

「おはよー、スコール」
「……ヴァン」
 翌朝、教室に入るとヴァンが眩いばかりの笑顔で挨拶をしてくれた。昨日の件があったから、どうにも嘘くさい笑顔に見えてしまう。オレは訝しげにヴァンの横を素通りした。
「どうした? 暗い顔して」
「……なんでもない」
バッツとどうしてケーキを食べに行っている? このことを突き詰めて訊きたいのだが、ここは教室だ。それに性別の異なる人間に詰め寄れば、周囲から余計な誤解を招きかねない。もし詳細に聞きだすのなら、ヴァンではなくジタンかティーダだ。オレはどちらか先に現れた奴に訊いてやろうと待ち構えた。
「おはよう。ヴァン、聞いたか? あのケーキ屋さん、昨日すごいことが起こったらしいぜ」
「おはよー。ジタン、どういうことだ?」
 ジタンが元気よく教室に入ってきた。しかし、ジタンの嫌な予感しかしない発言に、オレはこっそりと聞き耳を立てた。聴いていることがバレないように、素知らぬふりをして席に着席をする。教科書を鞄から出していると、話がさらに聞こえてきた。
「昨日さ。あのケーキ屋さんの店内で、男子の二人組がかなりいちゃこいていたらしいぜ。片方は涙を浮かべていたとか」
「なにそれ、修羅場? ジタン、もっと詳しく聞か」
「チャイムが鳴ったぞ。いつまで話しているつもりだ」
 話に夢中で、いつ始業のチャイムが鳴ったのかもわからなかった。それはジタンやヴァンも同じだったらしい。特にヴァンは入ってきた教員に対し、大きな目を丸くして口元に手をあてている。
「バル……フレア先生」
「さっさと席に着け。授業をはじめるぞ」
 頬を赤く染めて席に座る、わかりやすい態度のヴァンを見ながら、オレは教科書を開いた。ジタンの言っていた男子二人組……間違いなくオレたちのことじゃないか。オレは嫌な予感が的中したことに、はぁと溜息をついた。だが、まぁ……。噂になっていても、オレたちのことだと特定がされていないなら構わない。

 しかしだ、しかしッ。そのすぐあとに、バッツによる大暴露が行われた。オレたち一年四人を含め、全く関係もないフリオニールや生徒会組、理事長の娘──なぜ男子の制服を着用してるのかは不明だが──にまで、オレとバッツの秘密の恋愛は知られることになってしまった。
 オレは頭を抱えたが、周囲からはなぜか祝福をもらった。食べきられないほどの、ほぼ嫌がらせと思えてしまうようなお菓子をオレは受け取った。ひくひくと顔を引きつらせてしまったのは、申し訳ないが仕方のないことだ。
 どうしてか祝福を受けているあいだ、理事長の娘──ウォーリアがこちらを羨ましそうに見ていたのが、オレとしては気になってしまうのだが。だが、オレはそのことに触れないようにした。理事長の娘なんてややこしい奴と関わり合いになりたくはない。ただでさえ、女子が男子学生服を着て、変な色気を振りまいていることに気づいていないような奴だからな。
「なあなぁ、これ……食べていいか?」
「ああ。すべて食べてくれていい」
 目を輝かせたヴァンに聞かれ、オレは大きく頷いた。むしろ残されるほうが困る。そのことを伝えると、近くにいたジタンも目をキラキラさせてオレに声をかけてきた。
「本当か?」
「本当だ。そのかわり、教えてほしい。バッツとアンタらは……どういう関係なんだ?」
 ずっと訊きたかったことをようやく伝えることができ、オレは安堵していた。あとは望む結末か、望まないものか……。変な緊張をしてジタンの言葉を待っていると、ヴァンのほうが教えてくれた。
「バッツとはスイーツ仲間なんだよ。美味しいスイーツのお店巡りをたまにするんだ」
「スイーツ仲間……?」
「おお。元々はヴァンが美味しいケーキ屋を見つけて、バッツとオレらで行ったことがはじめなんだけどな。そこからかな。情報を得たら放課後に行くんだ」
 甘いものが大好きで、バッツとはスイーツ仲間ということをジタンとヴァンから説明を受け、スコールはすとんと腑に落ちた。けれど、それではスコールだけが外されていることになる。それは腑に落ちない。
「そうなのか。それなら、オレも──」
「スコールは甘いの、ダメじゃん? それ、バッツも知ってる。だからだよ……」
「……」
 そのように言われてしまっては、スコールも納得せざるを得ない。無理にケーキ屋へついて行っても昨日のようなことになれば、楽しんで美味しくケーキなど食べられるはずもない。
「あんな、知ってるか? バッツがオレらとスイーツ巡りする日って、スコールに予定が入っているときなんだぜ」
「そうそう。だから、オレたちがバッツを連れ出しても問題はないってわけ」
「……」
……すべて、お見通しってことか。
 いつの間にここまで筒抜けになってしまっているのか不明だが、きっとバッツが不安をこの二人に話してしまったのだろう。だからこの二人はスイーツ仲間と銘打って、バッツを連れ出して──。
 バッツの心の中に潜むものを、甘いもので一時的にでも撃退してくれていたのだという事実に気づいたオレは、まだ残っているお菓子を二人に差し出した。
「これはお前たちが食べてこそのものだ。……すまない」
「いいってことよ! オレらは美味しいスイーツだって食べられるんだからな」
 ジタンが何事もなかったかのようにぐっと親指を立て、いい笑顔で返してくれた。それからヴァンと一緒にものすごい速さでお菓子を平らげてくれたので、この場はなんとか事なきを得た──。

 

 Fin