DFF学園──四人のこと

                 2018.8/24

──私立ディシディア学園

都内でも有名な進学校のひとつとして、小中高校と大学がひとつになった巨大な学園が存在していた。そんな学園の高等部では、トップ四と呼ばれるずば抜けた生徒たちが在籍していた。
その内のひとりに君臨するのは、女性であるにも関わらず男子学生服に身を包む、ウォーリアオブライト──ウォーリアと呼ばれる女子学生だった。学年随一の頭脳を誇り、氷の女神と思えるような冷徹な無表情と美しい容姿から、学園内には密かにファンも多い。
そしてもうひとりは、男性ながらウォーリアにひけを取らない美貌を持つ優雅な物腰のセシル。ウォーリアと美しさで違うところは、セシルには柔らかい笑みを常に振り撒いている。まるで太陽神と月の女神のような対をなすかのような二人だった。
二人は同級生でもあり、並べば誰しもが二度見、三度見する美男美女コンビでもある。そのため、二人の教室には休み時間になると出入口扉や窓には人だかりが生じ、同級生たちにまで支障が出てしまうほどであった。ただ、慣れてしまっているのか、その程度で同級生たちも動じることはないのだが……。

***

「セシル~、ウォーリア。どっちか数学の教科書貸してくれよ」
教室で談義する二人のところに、隣のクラスのバッツがやって来た。バッツは平然としながら教室に入り、二人の前でパンと手を合わせてきた。
「今日さ、忘れて来たんだ」
バッツは悪怯れることなく、ヘラヘラと笑っている。このバッツもトップに君臨するメンバーのひとりで、よくセシルやウォーリアと行動をともにしている。
「次は僕たち現国だから大丈夫だよ。はい」
「バッツ、クラウドはどうした?」
「アイツはバイトが忙しいって今日も休みだぜ。またダブらなきゃいいけどな」
教科書を受け取ったバッツに、ウォーリアは口を開く。バッツと同じクラスで、出席日数不足により昨年留年して同級生となったクラウドの姿を朝から見かけない。クラウドはトップに君臨するも、普段はおちゃらけることの多いバッツのストッパー役として行動していることが多い。
この四人が学園で知らぬ者はいないとされるほどの有名人で、先述どおり学園トップの成績に加え容姿にも恵まれた、まさに天に二物も三物も与えられた者たちであった。

★★

「ガーランド先生、そこは間違っていないか?」
カツカツと黒板に解答を書き込む国語教師のガーランドに、ウォーリアが手を挙げて黒板の設問に指を差した。
「何処がだ? ウォーリアオブライト」
「その問二の問題だ」
「ああ、貴様はこうだと言いたいのか? そうではない。今回はこの解釈でいくから、これで合っておる」
数学のようにひとつの答えを求める科目ではなく、国語は考え方次第でいくらでも解答は変化する。今回はウォーリアの解釈よりガーランドの解釈が適用されることとなった。挙手してまで答えたウォーリアとしては不満だった。手を下ろし、じっとガーランドを睨むように見つめている。
「……」
「納得できたか? では続けるぞ」
納得などできていない表情のウォーリアを気にすることなく、ガーランドは授業を続けようとした。授業日数は十分にあるとはいえど、もし行程が遅れると後々が大変なことになる。教科書を手にしたガーランドは、記載された内容を読みあげようとした。

キーンコーンカーンコーン

時間は十分にあると思われたが、ウォーリアとの問答で少しのズレが生じていたらしい。ふむと頷いたガーランドは教科書をパタンと閉じると、教壇に手をついてから全員に向けて軽く礼をした。
「チャイムが鳴ったな。では授業を終える」
簡潔にだけ伝えたガーランドが教室を出たと同時に、バッツが数学の教科書を持って入って来た。ウォーリアの渋面を見たバッツは、先の現国でなにかあったな……と、即座に察した。
「どうした? ウォーリア。授業でなにか納得できないことでもあったのか?」
「納得はできている。だが……」
「あのね、バッツ……かくかくしかじか」
事の顛末をセシルから詳細に聞き出したバッツは、ウォーリアの美しい氷雪色の髪をさらっと撫でた。セシルの柔らかい月光色とは違う、硬質なイメージのあるウォーリアの髪は思いの外柔らかく、それでいて少し癖があった。
「真面目だなぁ、ウォーリアは。だけどな、国語は頭を柔らかくしないと解けない教科なんだぜ」
「…………」
バッツの言葉にも耳を傾けることなく、不満げな表情をさっきから見せているウォーリアに、セシルとバッツは「やれやれ」と肩を竦めた。
というのも、ウォーリアと国語科を担当するガーランドは仲が悪いことで有名であった。考え方が真逆なのか、授業中でもよく衝突している。ガーランドの解釈にウォーリアは考え方が合わず、挙手しては言い合いに勃発することもしばしばあった。今回のようにウォーリアが折れて授業に速く戻れたことなど、かなり珍しいことだったのだが……。
そして、そのことがあまりにも日常茶飯事すぎて気づいていないのはウォーリアだけという、妙なことが起きている。クラスの全員、そしてこの学年では知らない者はいないくらい有名であるというのに。
そう、〝ウォーリアとガーランドが決して相入れることのない生徒と先生〟という間柄であることなど──。