mission お留守番 - 2/2

 

 さわさわと樹が揺れるなかで、異変に気づいたのはウォーリアだった。
「……」
 大きな樹に凭れていたウォーリアは、閉じていた瞼をぱちりと開けた。少し顔を上げ、周囲の様子を窺う。樹々の揺らめきから空気の乱れを察知したウォーリアは、ゆらりと立ち上がる。そのまま光の剣と盾を持って、ゆっくりと歩みを進めていった。
 火の側まで行くと、座り込んでこそこそと話し合っている四人に視線を下ろした。
「あれ、ウォル?」
 ジタンが見上げてウォーリアに声をかけた。ウォーリアはなぜかピリピリとした様子を見せている。これにはフリオニールとスコールもぴくんと反応した。フリオニールは広げていた武器をさっと身につけ、スコールはすぐに武器を出せるように構えていた。
「ここでよいのか?」
「え?」
 突然やってきた暗闇の雲とアルティミシアに、ジタンは驚愕の声をあげている。目を見張るジタンの横で、ウォーリアは四人を庇うように立ち塞がった。
「秩序軍の野営地はここでよいのか? と聞いた」
 暗闇の雲はふよふよと浮いたまま、この場にいる者に問いかけていた。だが、ウォーリアも四人も答えを返さない。この場に敵勢が現れたことに、対応ができているのはウォーリアとフリオニール、そしてスコールだけだった。フリオニールとスコールはすっと立ち上がると、それぞれの武器を手に臨戦態勢に入っている。ジタンは若干遅れ、ティーダに至ってはあたふたとしていた。
 それより、どうして暗闇の雲とアルティミシアがこの秩序の野営地に現れたか……が問題だった。野営地の出入口は一箇所しかなく、そこを通過する際にはなにかしらの異変が起こる。
 それはいつもバッツが察知してクラウドに伝えることで、これまでの敵や魔物の急襲にも対処ができた。しかし、今回は完全に出遅れている。ウォーリアが気づいたのは、暗闇の雲とアルティミシアが野営地の中に侵入してすぐのことだった。
 まだ座り込んでいたジタンとティーダも立ち上がり、武器をそれぞれ構えた。
「なに? どうした……の? えエッ?」
 異変に気づいたほかのメンバーも集まり、どこか間抜けな声があがる。予想していない者の登場に、戸惑うのも無理はないことだった。こうして、暗闇の雲とアルティミシアの前に、年少組全員とウォーリアが揃った。
 年少組全員が武器を手に持って戦う姿勢を見せていても、暗闇の雲もアルティミシアは気にかける様子もない。二人がここに来た理由を、代表してスコールが尋ねた。
「暗闇の雲にアルティミシア。どうしてここに現れた?」
「ふん……。あの金髪の兵士がお前たちを見るようにと、わしらに言ってきたのだ。光の勇者は睡眠不足で動けないからと言っておったが……違うか? 光の勇者よ」
 暗闇の雲はさらりと答える。戦闘目的ではないようなので、年少組はとりあえず武器を下ろした。ウォーリアは剣と盾を持ったまま、踵を返して樹に向かっていく。
「セシルやバッツの言っていた応援とやらがお前たちなら、私はなにも言わない。それに私は睡眠不足ではない」
 暗闇の雲とアルティミシアを振り返ることもなくウォーリアは歩き、いつもの樹の根元に着くと、すとんと腰を下ろした。大樹に背を預け、腕を組む。まるで我関せずといった様子で、ウォーリアは瞼を閉じた。その身の両脇に、それぞれ剣と盾を置いたままで。
「まあ、そこはどうでもよい……。とりあえずこれは我々からだ。遅くなったが受け取れ。義士か少女よ、茶を淹れてもらえぬか?」
「えっ? いいのか⁉ こんなものをもらっても?」
「わぁ。美味しそう。すぐお茶淹れるね。フリオ、なにか珍しくて美味しい紅茶あった?」
「薔薇茶ならあるよ。すぐに用意しよう。ウォル、喧嘩は駄目だぞ」
「私はなにもしていないがっ?」
 暗闇の雲から高級そうなチョコケーキとチョコレートの詰め合わせを受け取った二人は、お茶を淹れるためにいそいそと動きだした。なにもしていないのに先に注意されたウォーリアだけが、背を樹に預けたまま、むすっと不満げな表情になっている。
「いただきます‼️‼️‼️」
「たくさん食べよ」
 ちょうどお茶の時間に差しかかる、小腹の空きはじめた時間帯でもあった。年少メンバーは思いもよらない美味しい差し入れに大喜びしている。
 持ってきた二人の美女も年少たちの喜ぶ顔を見て、満更でもない様子を見せていた。甘いものが苦手なスコールは、お茶だけを渋々飲んでいる。
「──で、実際のところ……お前たちはなにをしに来た?クラウドたちから、なにを聞いている?」
「なにって、先に言ったではありませんか。様子見と、場合によっては応援ですよ。後者は必要なさそうですが」
 ウォーリアは年少組に混ざってしっかり着席している二人を睨みつけた。それでも疑問に思っていたのか、二人に問いている。それにアルティミシアが答え、暗闇の雲も続けた。
「光の勇者よ。なにをピリピリしておる? 睡眠不足だけが原因ではなさそうだがのう」
「……なにもない」
 思いあたる節があるのか、暗闇の雲の問いにウォーリアはふいっと顔を逸らした。ウォーリアのこの対応に、暗闇の雲もアルティミシアも小さく笑っている。
「ふん。まあよいわ。じきに連中も帰ってくるであろう。小童ども、暇ならわしらと軽く手合わせでもして待っておるか?」
「やったー‼」
「やったッス‼️」
 ジタンとティーダは拳を握りしめて同時に叫んでいる。あまりの大声に、耳を塞ぐ者、眉を顰める者……ほかの者の反応は様々だった。
「やるやる‼ オレが一番ッスー‼️」
「あ、ズルいぞ‼ ティーダ、オレが先だっ!」
 ジタンとティーダは我先にと、暗闇の雲やアルティミシアの座る席に向かおうとした。
「順番なんてどうでもいいだろ……」
 ガタガタと席を立って押しのけ合う二人に、礼儀がなっていないとフリオニールは諌めた。見かねて思わず注意をしたが、それは客人の前で見せる行動ではない。
 ウォーリアがなにも言わない以上、フリオニールはまとめ役として年少組を見なければならない。その責任感ゆえのものだった。
「お前たち、ちゃんと順番は守れ」
 同様にスコールも口を出した。なにかあれば年長組から言われるのはウォーリアだが、それでもフリオニールにしろスコールにしろ、後味の悪いものになる。スコールとしても、ここでピシッと言い聞かせておきたかった。
「ボクもスコールと同意見。暗闇の雲、アルティミシア、ありがとう。ケーキもチョコレートもとても美味しい」
「本当、美味しいね。ありがとう。暗闇の雲さん、アルティミシアさん。ねぇ、お肌や髪のお手入れってどうしてるの? ここは私しか女の子がいないから、誰にも相談できなくて……」
 オニオンとティナが伝えれば、暗闇の雲は妖艶な笑みに少し穏やかなものを浮かばせていた。紅茶のカップをテーブルに戻した暗闇の雲は、美しい笑みでもってそれぞれに話しだした。
「たまよ、礼ならばいらぬぞ。少女もな……、わしが手入れ法を教えてやろう。光の勇者よ、せっかくだから一緒に聞くか? 持ち得る美しい髪がそのままではもったいない。いざというときに困るのは……わかっておるな?」
「……いや、私は」
 フリオニールから紅茶だけをいただいていたウォーリアは、暗闇の雲から不穏な空気を感じとった。紅茶のカップを戻すと、声をかけてくれた暗闇の雲に丁重な断りを入れようとした。
「ウォル、私と一緒に聞こう!」
「……わかった」
 話は終えたのだから、ウォーリアはそろそろ樹の根元へ休みに行こうと思っていた。だが、ティナに引きとめられては断ることもできない。はぁと小さく嘆息し、ウォーリアは一緒に聞くことにした。
「では、あちらの広い場所で手合わせをしましょうか。望む者はついてきてください」
 アルティミシアに告げられ、フリオニール・スコール・ジタン・ティーダは手合わせのためについて行くことになった。
 暗闇の雲とこの場に残ったのは、お肌と髪のお手入れ法を伝授してもらいたいティナと、ティナから離れたくないオニオン、ティナに引きとめられたウォーリアの三人だった。
 暗闇の雲は三人の髪と肌をチェックしていく。女子のティナはともかく、オニオンとウォーリアは少し……いや、かなり嫌そうに表情を歪めている。それでも暗闇の雲は気にする気配もなく、比べるように触れていった。
「ほう。少女もたまも、髪も肌も手入れは十分できておるぞ。わしが教える必要もないくらいにな……。それに比べ、光の勇者よ、それでは振り向いてももらえぬぞ」
「っ⁉ なにを言いたいのか……私にはわからない」
 暗闇の雲に言われ、ウォーリアは一瞬だが言葉に詰まった。このような場で指摘を受け、ウォーリアはキッと睨みつける。だが、暗闇の雲も怯む様子はない。
「わしたちに嫉妬するくらいなら、さっさと行って伝えて参れ。睡眠不足を理由に苛立って、年少の小童どもをこれ以上怯えさせてどうするのか?」
「なんのこと?」
「さあ……」
 ティナとオニオンは互いを見合わせ、こてんと可愛く首を傾げる。ウォーリアと暗闇の雲しかわからない話の内容が、この二人に理解できるはずもない。
「私は別に……。それに、そちら側にはお前たちのような美しい異性が傍にいる。……それと、私が、ではない」
「伝える前からそれでは……はっ、全く話にもならぬな。まあよい。お主の好きにするがよい。だが、せっかくだ、光の勇者よ。髪と肌は綺麗にしておいてやろう」
「……っ、よせ! 私は別に!」
 カシャーン‼️
 派手な音を立て、ウォーリアの青い角兜が脱げ落ちた。ウォーリアは暗闇の雲の迫力に負けて後ずさろうとする。だが、結局は暗闇の雲と周囲の蛇たちによって、その身をしっかりと囚われてしまった。
 蛇に手脚を絡まれて動きのとれなくなったウォーリアに、暗闇の雲は妖艶な笑みでその頬に触れていく。ぞわぞわと背に伝わる気持ちの悪さに、ウォーリアはぎりりと暗闇の雲を睨むだけだった。
「やめ……っ」
 ウォーリアが抵抗を試みても、暗闇の雲はうっとりとした顔つきで見下ろしてくる。さわさわと頬に触れる手のひらから、ウォーリアの全身に鳥肌が立っていった。
「元はよい。少しの手入れで相当変わるぞ。わしに任せよ、お主を変えてやろうぞ──」
「ウォル、綺麗……」
「ウォーリアさん、すご……っ。セシルさんクラスだね」
「……」
 ティナとオニオンに褒められても、ウォーリアは全く嬉しくもなかった。無理に手入れをされ、休みたい躰はいい加減限界を訴えている。
「隈を取りたくば、今後こうすればよい。小童どもにも必要以上に怯えられずに済むであろう? 髪も定期的に手入れしてやれば、この状態を保てる」
 ウォーリアの艶のないくすんだ白い髪は、一転して光り輝く氷雪色の髪へと変化した。セシルの輝く月光色の髪とは、少し色味の違う美しい髪色をしている。
 眼の下のひどい隈は温かい布と暗闇の雲に施された手入れで、見る影もなく完全に取れている。睡眠不足により目つきの悪かった疲れた三白眼も、隈が取れたことにより気持ち柔らかい印象の瞳になっている。
「……」
 羞恥からかウォーリアは頬をほんのりと朱くし、普段の威圧的なアイスブルーの瞳も少し潤んでいる。ウォーリアはなにも言うことができないまま暗闇の雲を睨むが、迫力は全くない。むしろ変に煽っている。
「随分と丸い印象になったではないか。お主はそのほうがよいぞ」
「ウォル……すごく可愛い。あんな表情もできるんだ」
「……ティナ、成人男性に可愛いって表現は……どうかと思うけど」
 ティナとオニオンは先から好き勝手に言っている。ウォーリアが窘めるために睨んでも、それは完全に逆効果となっていた。
「おーい。ティナ、オニオン。アルティミシアがお前たちも手合わせしないか……てっ! うえぇ? ウォル?」
 この場に駆け寄ってきたジタンは、ウォーリアを見て驚いていた。そのジタンの様子を見て、アルティミシアやついて行ったフリオニール・スコール・ティーダも戻ってきた。
「……」
 アルティミシアについて行った四人は、ぽかーんとウォーリアの姿を見つめていた。言葉が出ない……というか、かける言葉が見つからない、が正しいかもしれない。
「……ここまで変わるとは。さすが暗闇の雲です」
 四人から遅れて戻ってきたアルティミシアは、ウォーリアの姿をまじまじと見つめ、手入れを行った暗闇の雲を褒めていた。
「……」
「あの強烈な威圧感がなくなったな」
 顔を赤くして言葉が出ないフリオニールの横にスコールは立ち、ぼそりと告げた。赤い顔のまま、フリオニールは黙って頷いている。
「ウォルとセシルとティナと。美人が三人揃ったっスね」
「いやいや、違うだろ」
 くすくす笑い微妙なことをひとりで呟くティーダは、近くにいたジタンに突っ込まれていた。

「おーい。お前たちィー‼」
 大荷物を持って年長三人が帰ってきた。バッツは手を振り、いち早く年少組たちの元へと駆け寄ってくる。うしろからはクラウドとセシルの姿も見えていた。
「暗闇の雲、アルティミシア。来てくれたんだな、ありがとう。助かった。皆もすまなかったな」
「ごめんね。もっと早く帰る予定だったんだけどね」
「エクスデスのところで時間取っちまった。悪かったな、お前ら」
「礼には及ばぬ」
「たまには……いいものですね」
 クラウド・セシル・バッツは順に告げていった。暗闇の雲もアルティミシアもくすりと笑み、手を出してこれ以上を制した。
「出かけていたのはこれを借りてきたからなんだ。ティナ用だが、アンタたちも女性だ。せっかくだし、一緒に祝おうと思ってな。ちなみに発案者はバッツだ」
 クラウドは大荷物をどかっと下ろし、中身を取りだした。出てきたのは大きな五段雛──コスモスのところで借りてきたもの──だった。
 これには唯一の女子であるティナが喜んだ。手をパンと叩き、躰でも歓喜を表現している。
「わぁ! 可愛い‼ これを私に?」
「雛祭りが終わったら、すぐに返さなきゃいけないんだけどね。ティナ、それまではここに置いておくよ」
 感嘆するティナの横で、クラウドとセシルは素早く雛壇を設置していく。てきぱきと飾られていく雛人形に、ティナは目を輝かせるばかりだった。
「雛祭り用の食料、エクスデスのとこで調達したから今日はごちそうだぜ。暗闇の雲もアルティミシアも食っていけよ。フリオ、おれひとりじゃ無理だ。お前も手伝ってくれよな」
「いいぜ。バッツ、いくらでも手伝うよ」
「サンキュ、フリオ。──って、ウォーリア。お前、ちょっと見ないあいだに……セシルクラスの美人になったな」
 フリオニールから力こぶしで返されたバッツは、にかっといい笑顔を見せていた。しかし、視線がウォーリアに移ると途端に表情を変え、まじまじと見つめていく。印象の大きく変わったウォーリアに、バッツは顎に手をあてて感嘆の声を洩らしていた。
「本当だ。髪ウルウルのツヤツヤ、隈もすっきり取れてるね。ウォル、二人に綺麗にしてもらったんだね」
 雛人形を並べ終えたセシルはウォーリアに近づくと、バッツと同様にウォーリアの全身を眺めていった。いつもの角兜は外され、美しくなった氷雪色の髪は曇天の空の下でも光り輝いている。
「元はよいからな。わしは少し弄っただけじゃ。それより兵士よ。睡眠不足の裏に彼奴が隠したものを、しっかりと聞いてやれ」
「全くです。くだらないことでいちいち睨まれては、我々としても面倒でたまりませんからね」
「はァっ?」
 暗闇の雲とアルティミシアに言われ、年長三人は驚愕していた。特にクラウドは変な奇声をあげ、驚愕に目を大きく開いている。年少組はさっぱりわからないといった表情をして、それぞれの顔を見合わせていた。
「アイツはまたなにか隠しているのか……」
「すぐに隠して言わないもんね。ウォルは」
「おれらが気づかずにお前らが気づくって、なんか悔しいな……」
 クラウド・セシル・バッツは溜息とともに、次々と愚痴のように零していく。ウォーリアが隠すのも、それを決して口に出さないことも承知ではある。だけど、バッツの言うように、三人はどこか悔しいものがあった。ずっと傍にいた三人より、今日、初めてここに来た混沌勢の女性たちが気づいたのだから──。
「恋の悩みならば、男より女のほうが察する。旅人よ、気にせずともよい」
 暗闇の雲にさらりと言われ、年長三人も年少六人も一斉に驚愕した。
「はぁ⁉ ウォーリアが?」
「恋の悩み? ウォルが?」
「マジで? コイツ、そんな素振り全然……」
 年少組の驚愕の声は割愛するが、年長組とたいして変わらない。秩序九人のどよめきと混乱の声が、静かな野営地内に大きく響いた。
「ちが……っ、私のことではないッ」
 ここまで暴露され、うまく否定ができないウォーリアは、羞恥により顔を朱く染めていく。それにより、メンバーを動揺の渦に巻き込んでしまった。
「ウォル、顔超真っ朱! 超可愛いッス!」
「アイツでもあんな顔するんだ……」
「今までの怖い印象が完全になくなったな。意外すぎる」
 ティーダとスコール、ジタンは口を揃えて言っている。はぁ、感嘆による嘆息までジタンは出していた。
「ウォル可愛い」
「成人男性でも可愛いと思えることってあるんだ……」
 ティナとオニオンは、暗闇の雲による手入れの始終を見ている。それでも顔を紅潮させて恥じるウォーリアの様子に、やはり感嘆しか出なかった。
「……」
 先より真っ赤な顔で、やはりなにも言えずにいるフリオニールは、無言で顔を上げている。もしかしたら鼻血の心配をしているのかもしれない。
「ウォーリア。今夜は会議だ。洗いざらい教えてもらうぞ」
「今夜が楽しみだな。詳しく聞かせてもらうぜ?」
「……」
 クラウドとバッツに言い寄られ、ウォーリアは言葉をなくしていた。二人に──というよりクラウドに〝会議〟などと言われてしまっては、ウォーリアに逃げ道はない。
「はいはい。ウォルを苛めるのはここまでにして、雛祭りの準備をしないと夜になっちゃうよ? ウォルはまだ休んでいて」
 セシルの言葉に、ウォーリア以外の全員が「そうだった」と思いだし、各自準備をはじめていった。ウォーリアはそっとこの場から離れていく。ようやく休める……と、樹に凭れ、瞼を閉じて休みはじめた。
 ウォーリア以外の全員で準備をしたため、思いのほか早く雛祭りの準備が整った。
 エクスデスのところで調達したコメや他の具材を用いて、ちらし寿司をバッツとフリオニールで作っていった。他にもおすましや様々なごちそうが作られ、場に並べられていく。
「乾杯! いただきまーす!」
 年長組とウォーリア、暗闇の雲とアルティミシアはアルコールで、年少たちはジュースで乾杯した。ごちそうをお腹いっぱいまで詰め込み、各々で楽しんでいく。
 お腹はいっぱい、昼の疲れからか、年少メンバーはそのまま熟睡していった。残ったのは、アルコールを飲んでいた年長三人とウォーリア、混沌の女性のみ……。
「セシル、ウォーリア。コイツらをテントに運ぶから手伝ってくれ」
 夜も更けてくれば冷え込んでくる。寝てしまった仲間たちが風邪など引かないようにと、クラウドは早めに指示を出した。
「わかった」
「了解」
「おれも手伝うぜ」
「暗闇の雲にアルティミシア。今日はありがとう。本当に助かった」
 ウォーリア・セシル・バッツが熟睡した子どもたちを次々にテントへ運んでいく横で、クラウドは二人に礼を伝えていた。
 元々はクラウドの言葉足らずが原因だった。野営地を出る際にでもウォーリアやフリオニール、スコールに来客のことを伝えていれば、ここまでの<ruby>大事<rt>おおごと</rt></ruby>にはならなかった。そのために暗闇の雲とアルティミシアは、年少組とウォーリアから武器を向けられている。
 そのことも踏まえて、クラウドは告げようとした。しかし、暗闇の雲とアルティミシアに手のひらで制された。
「気にするでない。わしはたまと少女にも会いたかったからな。むしろ呼んでくれて嬉しかったぞ」
「久々にスコールの顔を見ることができました。礼を言いたいのはこちらも同じことです」
 二人の許しをもらい、クラウドは苦笑で返していた。懐が大きいのか、彼女たちなりに楽しめたのか……おそらく両方であろうが、この場合、クラウドとしても助かるし嬉しかった。
「アンタたちなら、いつでも遊びに来てくれて構わない。むしろ来てくれ。アイツらも喜ぶ。特にティナがな」
「そうだな。暇なときに顔を出そう」
「時間のあるときで構わないのでしたら……」
「……頼む」
 腕を組んだまま、クラウドは瞼を閉じた。混沌の勢とはいえ、比較的協力的な味方が得られたことに、クラウドは安堵する。
「よし。子どもは全員運び終わったぜ。お前らは泊まっていくのか?」
「テントの予備はあるから、貴女たちも泊まれるよ?」
 バッツとセシルは年少メンバーたちを無事テントに運び終えた。クラウドたちが話し込んでいる場に戻り、にこにこと笑顔で暗闇の雲とアルティミシアに問いかけた。
「いや、わしたちはもう帰る。小童どもによろしくな」
「……また会いましょう」
「ああ、またな……」
 暗闇の雲とアルティミシアが二人揃って帰ると言うので、年長三人で野営地の外まで見送った。二人は最後に美しい笑みを三人に向け、ともに帰っていった。

「帰ったか。さて、次はウォーリアだな」
 途中から姿を見せなくなったと思えば、ウォーリアはいつもの樹の根元に腰を下ろしている。ウォーリアを見つけたクラウドは、にやりと笑って声をかけた。目に妖しい魔晄の光を携え、明らかになにかを含んでいる。
「……なに?」
 突然クラウドから話を振られ、ウォーリアはいつになく驚いた。クラウドの様子から嫌な空気を感じとり、重い腰を上げる。
 くすくす笑うバッツとセシルがクラウドに続き、ウォーリアに迫っていった。後ずさろうとするウォーリアの背後から、バッツとセシルはウォーリアの両の肩を同時にガシッと掴んだ。
「教えてもらうぜ? 恋の悩み」
「ウォルはずっと起きてるんだからさ、いろいろと聞かせてもらおうかな。楽しみだね」
「いや、それは……。あの二人が勝手に……」
 前方にクラウド、背後をバッツとセシルに囲まれて、ウォーリアは完全に逃げ場を失っていた。頼りになるのは大きな樹くらいだが、さわさわと葉を落とすだけで役には立ってくれていない。
「問答無用ッ!」
 曇天のなかでも、星はうっすらと見ることができる。クラウドが迫ってくる前であっても、その背後に見える星にウォーリアは願いを込めそうになっていた。
「いい機会だよ、全部話してスッキリしちゃおう」
「相手は誰だ? 場合によっちゃあ協力してやるよ」
 しかし、背後にいるセシルとバッツはウォーリアの肩を掴んだまま、耳元で悪魔のような囁きをしてくる。これにウォーリアは背筋が凍る思いをしていた。味方はいない状況で、ウォーリアに残された手段はひとつだけであった。
「っ、⁉……私は貝になるっ‼️」
 結局、年長三人に捕まったウォーリアが、いろいろと暴露させられたかどうかは……この時点ではまだ不明──。

        【『mission お留守番』 完】