私を呼ぶ声(DFF)

                2020.1/05

『〝────〟』
「……?」
 誰か私を呼んだだろうか。聞いたことのある声で、誰かが私を呼んでくれる。
 あれはいつのことだっただろう。遠い過去の記憶の中で、私に名をつけて呼んでくれたのは、薄紫色の髪の少女──。
 彼女の名前も覚えていない。彼女と過ごした思い出もすべて。だけど、私には確固たるものがここにある。それは……。
「ウォーリア」
「ガーランド……」
「なにをぼんやりしておるか」
 私は隣にいるガーランドを見上げた。真名はなくとも、皆からいつの間にかつけられた名を呼んでくれる。
「……気になるのか、〝────〟」
「……⁉」
 そう、誰も覚えていない真名を、ガーランドだけは覚えてくれている。私を呼んでくれる。私の心に空いた穴を埋めてくれるような気がして、私は胸に手をあてた。
「ありがとう、ガーランド」
 ガーランドはいつでも欲しい言葉を私にくれる。本当に欲しい言葉はいつまで経ってももらえない。だけど、こうして私を呼んでくれるのだから、今はこれでいいと思う。
 照れたのか、ガーランドはそっぽを向いている。その優しさと仕草に、私は囚われてしまったのだから──。

                    ​──了