2019.4/17
「ほら。目を閉じて」
「……」
……なんだ、この状況。
スコールは困惑していた。いきなり座らされたかと思えば目を閉じろ? いったいなんの為に? それでも目の前の珍しく真面目な顔をしたバッツに言われ、渋々目を閉じた。
視界は瞼により遮られ、完全な闇となる。いったい何が始まる? スコールに緊張が走る。
「……」
……さてどうしよう。
まさかここまで上手くいくとは思わなかった。スコールは渋り、どこかへ行ってしまうものだと。ジタンのように一笑に付す……とまではいかなくても、無表情でこの場から立ち去ると思っていた。
そう、ここは秩序の年長組で使うテントだから、本来スコールが入ることなんてない。クラウドとセシルには入らないように頼んである。ウォーリアは……アイツは頼んでも入ってこない。それくらいの空気は読んでくれる。
問題のクラウドとセシルさえどうにかすれば、このテントは事実上バッツとスコールだけの密室──ちょっと言いすぎだけど──になる。
バッツはこのチャンスを逃したくなかった。きゅっと握った拳に力を入れ、目を閉じているスコールを見下ろした。スコールを座らせたままで立っているのもどうかと思い、バッツはスコールの正面に腰を下ろした。じっとスコールの顔を観察する。綺麗な顔立ちだとは思う。睫毛も長いし。
「……」
バッツは誘われるかのように、スコールの両頬に手を添えた。びくり、スコールは反応し、目を開けようとする。
「開けるな……もう少し、このまま」
「バッツ、アンタは……」
いったい、何を? 言おうとして最後まで言わせてもらえなかった。スコールの唇は塞がれていた。何で? 考えるまでもない。柔らかいそれが何かであるくらい、何度と経験したスコールには重々承知している。
「……」
スコールは黙って様子を見ることにした。触れるだけで何もしてこない。両頬に添えられた両手のひらからバッツの緊張が伝わってくる。じわりと湿り気を感じる手のひらが決して不快というわけでもない。
どのくらいこうしているのだろうか。触れるだけの口付けがとても長く感じられた。
「スコール……」
「アンタは何がしたかった?」
唇が離され、瞼を開いたスコールは問いた。バッツの行動の意味が分からない。バッツは頬を少し赤くしている。
「まだ……分からないのか?」
「は?」
「今夜……オレ、深夜番じゃねーんだ」
「……」
スコールは目を丸くして驚いていた。衝撃が強すぎて声も出ない。
「「……」」
互いに気まずい空気を作り無言になってしまったが、それでもバッツはスコールに添えた両頬にほんの少しだけ力を込めた。むぎゅうと頬は潰れ、スコールの顔が面白く歪む。
くすりと笑うバッツをスコールはその場に押し倒した。バッツの方から勇気を出して誘ってくれたのだから、遠慮なんてする必要なんてこれっぽっちもなかった。
「……え?」
今度はバッツがヘーゼルを大きく見開かせていた。まさかここでスコールに押し倒されるとは思っていなかったのだろう。
「アンタが言ったんだからな」
おそらく主導権はバッツが取りたかったのだろう。だけど、そんなことさせてやるものか。スコールはバッツの唇を塞いだ。普段飄々としているくせに、こういうときだけ奥手になる可愛い恋人がたまらなく愛しかった。
「……スコール」
お手柔らかに。上目遣いで無自覚に煽るバッツに、スコールの喉が鳴る。腹減りの獅子の前でこのような仕草を見せつけつける餌……もといバッツに、獅子は性急に事に及んだ。
「ああ、もうやってられるか! 煽るアンタが悪いんだからな!」
Fin