2020.9/22
「オニオン」
「どうしたの? ウォーリアさん」
びっくりした。だって、突然あの人が話しかけてくれたから。
少し翳りのある瞳で、この人はボクを見下ろしてくる。どうしたのだろう? ボクが首を傾げていると、あの人はすっと両の腕を出してきた。
「────っ、」
とても、ひどい怪我をしていた。ボクは震える手で怪我をした腕を診ていった。火傷、裂傷……どうしてここまでの怪我をしてきたのだろう。それより、この人は誰と戦っ──!
ボクは言葉を失った。この人が戦う相手なんて、ひとりしかいない。この人をここまで怪我をさせる相手なんて……宿敵のあの男しか知らない。
「──オニオン、このことは黙ってていてほしい」
「どうして……ッ」
これほどの怪我、ボクひとりで隠し通すことなんて絶対にできない。包帯で巻けば、それだけで勘のいい仲間たちにはバレてしまうだろう。だって、この腕では……剣も、盾も、持つことはできない。
「大丈夫だ。私はまだ戦える。君にだけだ……」
「え?」
瞼を閉じたあの人は、言葉少なく語ってくれる。それは、ボクを安心させようとしてくれる、とても……下手な嘘。
この人のこの腕も、この躰も……この人を構築するすべてのものが、ボクたちを守る盾になるんだと──大切なボクたちの光。
ここまでの怪我をしてまで、守ろうとしてくれる。戦ってくれる。宿命という言葉では片づけられない運命に導かれ、傷が癒えたらこの人は、またあの男と戦うのだろう。決着がつく、その瞬間まで。何度でも……たとえ、浄化を受けようとも。
守りたい。はじめて……そう、思えた。この人からしたら、ボクはまだ頼りないかもしれない。だけど、こうして頼ってくれたのなら。手を差し出してくれたのなら。ボクはできる範囲で、できることをしてあげたい。
「……わかったよ。ウォーリアさん」
「君にだから頼める。……頼っても、いいだろうか」
「まっかせて!」
ボクは懐からポーションを取り出すと、腕のひどい怪我に振りかけていった。これだけで癒しの光が傷口から立ちこめる。光が落ちつくと、次は薬草を塗布する。最後に包帯を巻いていく。
膨らんだ腕では防具を装備することができない。これでは誤魔化すことができないだろう。ボクが思っていると、あの人はほんの少しだけ表情を緩めてくれた。
「戻ろう。オニオン」
「──……ッ」
ボクは数秒ほど見蕩れていたのかもしれない。ハッと我に返ると、慌ててあの人の背中を追いかけた。そうして、二人で秩序の皆の元へ戻る。
隠し通すことのできない二人だけの秘密を、今の時間だけでも共有したままで──。
了──