互いの瞳

                 2023.01/23

 ガーランドの双眸は獲物を狩る肉食獣のようで、それでいていつも真摯なまなざしで私を射抜いてくる。それが気恥ずかしく感じてしまったり、また私に闘争を求めていることなど……多々あるが、いずれもガーランドは瞳から如実に語らせてくれる。
 ガーランドがなにも語らずとも、虹彩を見るだけでわかるようになってしまったのだから、私も相当なものなのだろう。小さくふふと笑いながら、私は目の前にいるガーランドの鋭い黄金色の双眸に見入っていた。

 儂がこれのまなざしに惹かれるようになったのは……いつであろうか。神殿に降ろされたばかりの、まだ命が吹き込まれた状態のころとは比べものにならぬほど、今は強いまなざしで射貫いてくるようになった。
 あのころの虚ろな蒼氷色の瞳を思い出し、儂はくっと口角を上げる。幾度となく闘争を繰り広げ、浄化に耐えうる肉体に相応しいだけの強いアイスブルーの瞳は、見るものを惹き込んでしまうほどの魅力を持っておる。儂とてそれは例外ではない。
 あれの瞳が恍惚に揺れるさまも、涙で濡らすのも、あれだけとの時間を共有できる儂だけが知る特権……そう考えると、儂の中で疼くものがある。
 儂をじっと見つめてくる目の前の青年をどうしてやろうかと、儂は自らの双眸を細めて見つめ返してやった。さながら小動物──これを小動物に例えるのも妙だが──を狙う肉食獣のように、な。

 ゾクリ。青年は背に感じる嫌な予感に、目の前で自身を見つめてくるガーランドから視線を逸らした。どれくらい見つめ合っていたのか、それすらわからない。だが、かなり長時間見つめ合っていたことに青年は気づいた。というのも、見つめ合うまでは窓の外から見えていた陽光が、今は見えなくなってしまっている。
 日はとうに暮れ、夜に向かう時間帯に差しかかっていることを理解した青年は、熱くなった頬を誤魔化すようにガーランドに告げた。
「そろそろ……夕食の支度をしない、と」
 青年はガーランドから離れようとしたが、それはできなかった。ガーランドによって青年は腕を引かれ、そのまま胸の中に収められている。
「ガーラン、ド……?」
「かつてのお前を思い出しておった」
「……」
 かつて……。そう言われ、青年は黙り込んだ。ガーランドの言いたいことが手にとるようにわかる。今とは違い、ふたりは剣を交えて戦ってきた。死をもって敗北を繰り返してきたのは青年のほうだが、今はそのようなことをしない。手合わせ程度に剣を交え、互いを高めている。
「この世界に浄化というものは存在せぬ。なくした命はそれで終わる。だからこそ……儂は一生をかけてお前を大切に」
「ガーランド」
 青年はガーランドの唇を指の先で押さえつけた。かつてのことは、今の生活に関係ない。互いの瞳を見つめ合うだけで、どうしてこのような話になってしまうのか。
「わかっている。私も、命のある限りおまえの傍に……んっ、」
 青年が告げようとすると、今度はガーランドに唇を塞がれた。押さえていたはずの指は外され、抵抗できないように逆にガーランドに手首からしっかりと掴まれている。
 唇を唇で塞がれ、それは徐々に愛しい者同士で行う口づけに変化していく。観念した青年は大人しく瞼を閉じた。こうなるとガーランドが止めてくれないのは、もう……何度も経験して青年も知っている。
「夕食はお前だ……よいな?」
 唇が離されたあとに言われ、青年は顔を熱くしたままこくんと頷いた。青年は空腹を感じることはない。ガーランドが作ってくれることが多いから一緒に食べているだけで、青年自身は食を必要とはしていなかった。そのことも含めていると思ったのだが……。
「お前の夕食は儂がしっかりと食ってからな。食わぬことは赦さぬ」
「……」
 どうやら、青年の食生活はガーランドによって管理されてしまっているらしい。ひょいとガーランドに抱きかかえられた青年は、熱くなった顔をさらに熱くしていた。顔だけではなく、それは全身にまで及んでいく。しかし同時に、ガーランドのそれとない優しさに触れて、青年はまた小さく笑むのだった。
 問題は……ガーランドに貪られるように食べられて、青年が意識を途切れさせることなく起きていられるか、なのだが。これはまた別の話で──。

 Fin