mission お留守番 - 1/2

                 2018.2/24

 調和の女神が加護をもらたす土地のなかで、比較的緑の多いこの土地に、秩序の陣営は拠点として野営地を設けた。秩序勢が過ごすこの場所は、天候が良くなることは少ないが悪くなることも少ない。
 この世界全体の天候がいいとは決して言えなく、それでいて雨の降る様子はあまり見受けられない。遠くで雷鳴が聞こえてくることもあるが、それは遠く遠く……調和の女神の力の及ばない場所からのものだった。
 野営地を設置したこの場所は、女神の力により晴れ間は少なくても樹々は十分に生い茂り、動物たちによる生態系も築かれている。
 瓦礫の多い場所を陣取るかのように、秩序の若い勢は力を合わせて生活の基盤となるものを作りだしていった。自然のなかで全員が寄り添うようにしてこれまでを過ごし、この野営地でなんとか生活を送っている。
 そんな、とある雲の多い日の午前中のことだった。
 朝食を食べ終わったメンバーは、各自思い思いのことをしていた。木陰ではクラウドとセシルとバッツが腰を下ろし、ひそひそとなにかを相談をしている。相談を終えてから三人は頷きあった。
「皆、集まってくれないか」
 それから、クラウドはこの場に全員を呼び寄せた。しかし、ウォーリアオブライト──ウォーリアだけがこの場にいない。だが、そのことに気を留める様子もなく、クラウドは淡々と続けた。
「俺たちはこれから出かける。夕方には戻るから、お前たちは留守を頼む」
 秩序軍の実質的なリーダーであるクラウドから、年少組全員に命令が下された。このことに、年少組は動揺を隠せない。互いを見合わせたり、ひそひそと話し合いをはじめる者もいた。
「僕たちがいないあいだ、仲良くね。喧嘩は駄目だよ」
「なにか問題を起こしたら、お前ら全員でペナルティな」
「え〜〜っ?」
 クラウドのあとに、セシルとバッツも続けた。この三人が年長組と呼ばれ、この秩序の陣営を代表して取り仕切っている。
 年少組全員で同時に発したこの「え~〜っ?」は、バッツの〝ペナルティ〟がとてつもなくえげつないものなので、なるべく、いや絶対に受けたくないと……みんなが思っている。それくらい恐ろしいものだった。
 ひとりだけ離れた場所にある大樹に凭れ、腰を下ろして瞼を閉じて休んでいるウォーリアは、これまでの会話をまるで他人事のように聞き流していた。しかし、そのウォーリアにクラウドは指示を入れる。
「なにかあればウォーリアに指示を仰げ。ウォーリア、任せたぞ」
「……なぜ私が?」
 聞いていないようで、一連の話は聞こえていたらしい。閉じていた瞼を動かし、ウォーリアは瞳を動かす。クラウドを見据え、嫌そうに口を開いた。
 しかし、圧倒的な威圧感を誇るウォーリアのアイスブルーの瞳で睨まれても、クラウドは一切怯むことはない。
「お前は一応、秩序の筆頭だろうが。それに世間一般的には、本来お前がリーダーだ。ここでは俺が公式の最年長設定のために、代行でリーダーをやっているがな。年少の面倒くらい見ろ」
「……見ているだけでいいのか?」
 クラウドに正論を言われ、ウォーリアは言い返せなくなった。その無表情を歪ませ、渋々といった感じで答えている。
 クラウドの言う〝公式の最年長設定〟というものに、ウォーリアは最初から含まれてはいない。その出自の複雑さゆえに、ウォーリアだけが外されて考えられていた。
「だけどウォルだけじゃ心配だね。どうする、クラウド。せっかくだから応援を呼んでおく?」
「おれもセシルに賛成。どうせだし、呼んだほうがいいかもな。クラウド。ウォーリアだけじゃ、ボヤが大火災になるかもしれないぜ」
「……失礼だぞ。バッツ」
〝見ているだけ=ほぼ放置〟の意味を正確に察知したセシルとバッツは、揃ってクラウドに進言した。
〝大火災=任せると不安〟と意味を捉えたウォーリアは、ゆらりと立ち上がった。バッツを睨みながらゆっくりと近づいていく。
「……へぇ、やるか。ウォーリア」
 ウォーリアの鋭いアイスブルーの瞳に見据えられても、バッツは物怖じひとつしない。にやりと笑ったバッツは、バスターソードとガンブレードを瞬時に出現させた。ウォーリアは光の剣を出現させ、剣礼を行う。
「……私は構わない。バッツ、教えよう。無謀と勇敢はち」
「いい加減にしろ、お前たち」
こんな場所でなにを考えている……。クラウドの制止の声に、バッツもウォーリアも睨み合ったままピタリと停止した。
「バッツもウォーリアもやめておけ。とにかく来てもらえるかはわからんが、声だけはかけておくから」
 クラウドのもうひと声に、二人は互いの持つ武器を消した。近くまで来ようとしているウォーリアを、バッツはそのヘーゼル色の瞳でもってジロジロと眺めるように観察している。
 ふーんとひと声洩らしてから、バッツはウォーリアの傍まで歩いていった。ポンとウォーリアの肩を軽く叩き、優しい笑顔を向ける。
「冗談だよ、ウォーリア。少しでも休んでいろ。無理はするな……わかったな」
「……すまない、バッツ」
 バッツにすべてを見透かされていることに、ウォーリアは小さく嘆息した。あまりに小さな嘆息だったので、気づいた者はバッツ以外に誰もいないが。
 バッツとウォーリアのやりとりを始終黙って見ていた年少組は、誰も声をかけることができなかった。ぽかんと目を丸くして年長三人とウォーリアを見ている。
 一触即発しそうだったバッツとウォーリアを止めたクラウドにもだが、それよりもそのやりとり自体に年少組は誰も口出しできない。バッツとウォーリアから放たれた威圧感と、それを瞬時に消して一転して和やかにしてしまったことに、圧倒される者が多かった。
「お前たちもそれでいいな」
 ウォーリアにこの場を任せることに、年少組の誰も首を縦に振ってはいなかった。これはバッツとウォーリアが主に原因ではあったのだが。年長三人が留守のあいだはウォーリアに任せることを念押しするように、声ひとつ出していない年少組にクラウドは声をかけた。
「大丈夫……だと思うよ」
「さっさと行ってこい。時間の無駄だ」
 ぽかんとしている年少組が多くいるなかで、苦笑するフリオニールと眉間に皺を寄せたスコールが同時に答えた。とりあえずこの二人から同意を得られたことに、クラウドは大きく頷く。ウォーリアの意思はこの際、後まわしにしてもいい。クラウドは立ち上がった。
「とりあえず行ってくる。バッツ、行くぞ」
「じゃーな、お前ら。いい子にしているんだぞ」
 クラウドはくすくす笑顔のセシルと手を振るバッツを連れ、すぐに野営地を出ていった。残されたのは年少組とウォーリアのみ──。

 ***  **  ***

「私はここにいる。なにかあれば声をかけてほしい」
 ウォーリアはそれだけを年少組全員に伝え、先ほど凭れていた樹に向かっていった。緩慢とした動作で大樹の根元に背をつけて凭れかけ、瞼を閉じて休みはじめる。
 クラウドの言葉をなかったかのようにしているウォーリアの態度に、残された年少組は困惑していた。
「どうしようか」
「……知るか」
 フリオニールとスコールはウォーリアの様子を見てから、互いを見合わせる。困ったようにフリオニールに問われても、スコールも返す言葉が出てこない。
 普段は年長三人の誰かに、年少組はなにかしらの指示をもらって動いていた。年長組がいなければ、年少組はなにもできないわけではない。ただ、この荒れ果てた世界では、統率を執る者が必要だったにすぎない。力の弱まった女神の及ぼす大地で過ごすとなると、それは重要なことであった。
 そのために選ばれたのが、現在のメンバーの中で最年長のクラウドであった。本来ならば筆頭であるウォーリアオブライトが務めるべき役を、クラウドが代わりにと担い、その補佐としてセシルとバッツが名乗りをあげた。
 年長組三人が不在になることはこれまでにも何回かあった。そのたびにクラウドはフリオニールとスコールを指名していたのだが……。
 しかし、今回は指示を出すのがウォーリアとなった。しかもウォーリアがこのように無関心では、年少組はなにもすることができない。
「俺たちでするか」
「そうするしか……なさそうだな」
 年少組の中でも、フリオニールとスコールがまとめ役を担っている。とりあえず……というか、今のところはフリオニールとスコールが中心となり、夕方までは通常どおりに過ごしておこうと二人で結論を出した。
「ところでさ。今日の昼食当番、誰だった?」
 何気なく洩らしたジタンのひと言で、年少組全員が首を傾げた。この場にいるウォーリア以外の全員が、互いの顔を見合わせている。
「オレとティーダだ」
「……」
 ぽつり、スコールが呟くと、ティーダ以外の残りの仲間たちが無言になった。皆一様に微妙な顔つきをしている。フリオニールだけは少し眉を寄せる程度だったが、やはり例外ではない。
 というのも、スコールとティーダは文化圏の違いからか、料理ができない。できないというより、これまでにしたことがなかった。これが正しい。
 都会育ちから、突然この世界に召喚されたこの二人は、ともにサバイバルの経験が全くなかった。そのため、この大自然のなかでの狩猟や採取、火をはじめからおこしての調理など、論外もいいところだった。未経験ゆえにどうしていいのかわからず、バッツやフリオニール、ジタンなどに頼ることのほうが多かった。
 料理に関しては素人以下の二人が揃って昼食を作る──ほかの仲間たちが無言になる理由がここにある。なにが作られるか……食べられるものが出てくるのかも不明な状態で、不安に駆られないほうがおかしい。
「スコール、ティーダ。俺も手伝うよ」
「助かる。フリオニール」
 見かねたフリオニールは、くすくす笑ってスコールに声をかけた。残りのメンバーの不安を背に感じると同時に、スコールとティーダの不安も手に取るようにわかってしまう。
 フリオニールは反乱軍に所属していた経験からか、サバイバル経験も豊富なうえに、家事全般なんでもこなすことができる。複数の武器を器用に扱う腕前も特出しており、戦士としての素質も当然ながら素晴らしい。
 ただし、すべてのことを器用に扱うがゆえの、特化したなにかがない器用貧乏人でもあった。そして、どうしてか貧乏クジを引きやすい、若干不憫な青年でもある。
「やった! フリオのメシなら安心だな」
「フリオー‼️ ありがとうッス‼️」
 先に礼を言ったスコールに続き、ジタンとティーダは続けて声をあげた。フリオニールは念のため……と確認を取りに、ウォーリアの休む樹の傍まで近寄った。
「ウォル。俺が手伝っても構わない……よな?」
「構わない。必要なら私も手を貸そうか?」
 ゆっくりと瞼を開けたウォーリアは、心配そうにフリオニールを顔を向けようとした。しかし、フリオニールは苦笑で返した。
「ありがとう。でもウォル、俺ひとりで大丈夫だから、あなたは休んでいて。準備ができたら声をかけるよ!」
「……すまない。任せる」
 素直に謝るウォーリアに、フリオニールはくすりと小さく笑って頷いた。ウォーリアから確認がもらえれば、フリオニールがこれからどう動こうと影響は出ない。
 この二人のやりとりを見守っていた残りの仲間たちは、フリオニールに感心の目を向けていた。
 ウォーリアは基本寡黙で、表情もほとんど出さず、笑みを見ることも少ない。威圧感たっぷりのあのアイスブルーの瞳で見据えられたら、石化してしまいそうな鋭利さまで持ち得ている。そのため、正直声をかけづらい。端的に言えば怖い。
 そういった理由から、年少組のほとんどがウォーリアに話しかけることなど……なかなかできずにいる。だから、ウォーリアと普通に話せる年長組やフリオニールを、ただただ感心するのみだった。
「よし。ウォルの許可ももらった。スコール、ティーダ。昼食になにを作るつもりでいたんだ?」
「逆に訊きたい、フリオニール。この材料だと、いったい……なにができる?」
「なにって……?」
 スコールに質問で返され、フリオニールは食料を備蓄している一角を見つめた。しかし、ここからでは把握は難しい。
 なにがあるかを探るために、フリオニールは備蓄場所まで行く。なにかを考える様子を見せながら、フリオニールはごそごそと食材を選びだした。
「これなら二人にもできるよ。材料切って、煮込んで、最後に味つけするだけで大丈夫だから」
「……わかった」
「わかったッス」
 野菜を数種類フリオニールから受け取り、スコールとティーダは渋々返事をした。どうやら手伝うだけで、フリオニールが作ってくれるわけではないようだった。〝作ってくれる〟と期待していただけに、スコールとティーダの落胆は大きい。
 そもそもフリオニールは『手伝う』と言っただけなので、間違ってはいない。間違っていたのは、スコールとティーダの認識のほう──。
「あれ、どうした? スコールもティーダも変な顔して。心配しなくてもパンは俺が作るよ。胡桃があるから胡桃パンにしよ」
「フリオ愛してるッスー‼️」
「うおわっ⁉ ティーダ、危ない。急に抱きつくな!」
 先ほどの心配が杞憂だと判明し、スコールとティーダはホッとしていた。ティーダに至っては話途中のフリオニールにタックルまでして抱きついている。もちろん残りの仲間たちも同様で、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「フリオニール、ボクとティナも手伝うよ。ボクたちになにかできることある?」
「ね、たくさんいたほうが早くできるわ」
「じゃあ、オレはスコールとティーダの手伝いをしようかな。なにをしでかすか、わかんないもんな。あいつら」
 オニオンと、頷きながらティナが、そのあとにジタンがそれぞれフリオニールに声をかけてきた。これにはフリオニールもくすくす笑うしかできなかった。
「それじゃあ、────」
 手伝いを申し出た仲間たちの意思を無下にするわけにはいかない。抱きついてきたティーダを離すと、フリオニールはこの三人にもてきぱきと指示を出していった。
 こうして結局、年少組全員で昼食準備に取りかかることとなった。誰も嫌がることなく、わいわいと準備は進められていく。時おりびっくりするような声や、突っ込みの声が野営地内に響き渡る。その声と光景はどこか微笑ましいものがあった。
「……」
……私は必要なさそうだな。
 その様子を見ていないようで、ずっと見ていたウォーリアはひとりで思っていた。

「パン焼けたよ」
「スープもできたぜ」
 オニオンとジタンから完成の声があがった。年少組全員で次々と皿に盛りつけていき、比較的短時間で昼食は完成した。もとよりフリオニールが手伝うと言いだした時点で、完成は約束されている。失敗などあり得ない。
「ウォル、昼食ができた。あなたもこちらで食べよう」
「私は別に……」
 みんなが皿に盛りつけをしているころ、フリオニールは場から離れてウォーリアの傍に行っていた。フリオニールは瞼を閉じたままのウォーリアに、何度も声をかけている。だがウォーリアは樹に凭れたまま、皆のいる火の側へは行こうとはしない。
 にこりと笑みを浮かべたまま、フリオニールはウォーリアの隣へと近づいた。笑みを浮かべて身を屈ませてくるフリオニールになにかを感じたのか、ウォーリアはその柳眉を顰めている。
 フーッ、溜め込んだ息を大きく、そしてゆっくり唇から吹きだすと、フリオニールはウォーリアの腕を思いっきり掴んだ。その腕一本でグイッと引っ張り、多少強引にウォーリアをその場に立たせた。
「えっ?」
 ウォーリアを含めたフリオニール以外の年少組全員が、驚愕に目を見開いた。それもそうだった。ウォーリアは青の重鎧を装備し、左手には盾も持っている。身長はウォーリアもフリオニールもさほど変わらない。
 だが、重装備のウォーリアと、そこまでの重装備ではないフリオニールでは、総重量が変わってくる。秩序の陣営中最重量級であるはずのウォーリアを、フリオニールは腕一本で引っ張りあげた。ウォーリアも現状把握ができず、突っ立ったままで呆然としている。
「フリオって、意外と馬鹿力なんスね……」
「あんだけの武器を背負ってたら、さすがに力もつくんじゃないか?」
 ティーダとジタンはあんぐりと口を開けていた。普段フリオニールを揶揄うだけに、意外な一面を見てしまった気にさせられている。
「すごい。あのウォーリアさんが固まってる……」
「ウォルのあんな顔……初めて見た。可愛い」
 オニオンとティナは固まるウォーリアを見ていた。近寄り難い雰囲気を常に全開で出しているウォーリアが、呆然としたままでフリオニールを見つめている。オニオンとティナには、とても珍しい光景に感じられていた。
「……フリオニールには絶対に逆らわないでおこう」
 同じ年少組のまとめ役を行なうスコールは、改めて知ることになったフリオニールの実力に、ぶるりと小さく身を震わせていた。
「…………。クラウド以外で、このようなことをされたのは初めてだ」
 ここにいるメンバーの中で、一番驚愕していたのはウォーリアだった。口元に手をあて、アイスブルーの瞳を揺らしている。
「ウォル。男性にこんなことを言うのはどうかと思うけど、あなたは軽いんだよ。ちゃんと食べていないだろ? 重鎧で見た目は誤魔化せているかもしれないけど、腕周りや腰周り、太腿とか……見えている場所から見たら、細いのがわかるよ。もっと肉をつけないと」
「……」
「あとね、ウォル。嫌いなものがあるからって、最初から食べないのはいけない。嫌いなものはひと口だけ食べて、あとは俺の器に入れてくれていいから。ちゃんと一緒に、みんなと食べよう、な」
「……」
「文句は一切受けつけない。ウォルは俺の隣に座る、わかった?」
「お母さんか?」
 ウォーリアとフリオニールを除く仲間たちの中で、ジタンが代表して突っ込みを入れた。おそらく、皆が思ったことだろう。
 ぐうの音のひとつも返せずに固まったまま、ウォーリアはフリオニールの説教を聞いていた。ウォーリアより年下であるはずのフリオニールが諭している。ほかの仲間たちもこの光景に唖然としたまま見守っていた。
 結局、ウォーリアはフリオニールに手を引かれて、ほかのメンバーのいる火の側まで連れてこられた。
「ウォル、こっちだ」
 ジタンは手を振って空いた場所を示した。そこにフリオニールはウォーリアを案内する。手を握られたまま、座る場所を指されて、ウォーリアは皆の隣に腰を下ろした。ウォーリアの両横には、フリオニールとジタンがそれぞれ着席している。
 全員が着席して、ようやく昼食となる。年長三人がいないなか、号令をかけたのはフリオニールだった。
「いただきます‼️‼️‼️」
 大きないただきますの挨拶のあとに、賑やかな昼食がはじまった。フリオニール・オニオン・ティナで作った胡桃パンが、皿の上に大量に積まれている。形がすべていびつなのが手作りならではのものだった。それに、スコールとティーダ、それにジタンが手伝ってできたスープは、根菜と干した魚の入った素朴なものだった。味つけも塩のみで、根菜と魚の旨味がたっぷり出ている。
「で、ウォルが嫌いなのはどれだ?」
「この魚だ。小骨が多いから、私は苦手だ……」
「なんだ。それくらいなら俺が取ってあげるよ。スープの器を貸して」
 ウォーリアはスープの器をフリオニールに渡した。フリオニールはウォーリアの器に入った魚の骨を、一本一本丁寧に外していく。すっかり骨のなくなった、完全に切り身の状態の魚が入ったスープにされたものを、フリオニールはウォーリアに返した。
「はい。これで大丈夫」
「……ありがとう。フリオニール」
 ウォーリアはそれだけを言い、具だくさんのスープを食べはじめた。フリオニールはうんうん……と頷いて、満足そうにウォーリアが食べるところを見守っていた。
「お母さんと好き嫌いの多い子どもの食事風景を見ているようだな……」
「フリオすごいッス。オレ、ウォルにあんなことできないッスよ」
「ティーダ安心しろ。オレだって絶対にできねーよ」
 ウォーリアとフリオニールのやりとりに、唖然としながらもジタンとティーダは好きに言い合っていた。二人の唖然のなかには、感嘆めいたものも一部含まれている。
「ウォーリアさん、あんな表情するんだ。ずっと無表情だと思っていたよ」
「ウォル可愛い。いいな、フリオだけ……」
 意外なものを見たような気分に、オニオンはさせられていた。というのも、ウォーリアをあのように圧せるのは年長組くらいのものだった。フリオニールを含めた年少組の前で、ウォーリアが表情を変えたところを一度も見せたことはない。
 そのためにオニオンの隣では、ティナが羨ましそうな視線をフリオニールに向けていた。
「……見なかったことにしよう。視覚の暴力だ」
 スコールはひとりで呟いていた。しかし、その呟きは全く間違ってはいない。年少組からすれば、強烈な衝撃を与えかねないものだった。
「ところで……」
 食べながら、ウォーリアがぽつりと切りだしてきた。年少組にとって、ウォーリアから話しかけられることは結構珍しい。そのため、年少組全員で一斉にウォーリアのほうに注目した。
「君たちは午後からなにかするのか?」
「……え?」
 これには年少組全員が愕然とした声を出した。皆、困惑した表情を浮かべている。賑やかだった場の空気を一変させてくれたウォーリアに、年少組全員の戸惑う視線が集まった。
「えっ……と。ウォル、どういうこと?」
 ジタンが代表して口を開いた。その表情は完全に強ばっている。年少組全員はまだ愕然としており、声をほかに出せる者はいなかった。
「……? 言葉どおりの意味だが?」
 まるで意味がわからないといった表情を浮かべ、ウォーリアはこてんと首を傾げた。
……ウォルの指示待ちだよ!
……あなたの指示待ちなんだけど。
……オレたちはアンタを待ってるんだ!
……ウォーリアさんの指示待ちなんだけどッ!
……ウォル、マジで言ってんスか?
……こてんとしてるウォル、可愛い。
 声をかけたジタン、ウォーリアの隣にいたフリオニール、黙って様子を窺っていたスコール、同じく静観していたオニオン、場に入ることができなかったティーダ、同様にティナ……年少組全員で、心の中から盛大に突っ込んでいた。若干数は違うことを考えていたようだが。
「……オレたちはアンタの指示がないと動けない。クラウドもそう言っていたはずだ」
 ジタンの肩に手をおき、割り込みするように今度はスコールがウォーリアに伝えた。眉間に皺をすごく寄せ、片手を顔にあてている。しかし、ウォーリアはまるで今、聞いたかのように、平然と口を開いた。
「そうなのか? ならば……クラウドたちが帰ってくるまで、各自、自由行動をすればいい」
──言うと思った‼️‼️‼️
 口元に手をあてて考え、そうしてさらっと伝えたウォーリアに対し、年少組はやはり……と、全員心の中で思いっきり突っ込んだ。
「ボクたちはいいとして、ウォーリアさんはなにをするつもりでいるの?」
「私か? 先と同じだが?」
「……あ、そう」
 おそるおそるといった感じでオニオンが口にすれば、スープを啜っていたウォーリアは、なんでもないように返した。これにはオニオンも次の言葉が出せない。会話を継続させることもできないで、オニオンははぁと溜息をつくと、パンをちぎってぱくりと口の中に入れた。
「まあまあ、オニオン。ウォル、俺たちは好きにしてていいってことだな?」
「そうだな……」
 呆れてしまったオニオンに声をかけ、フリオニールはウォーリアに確認をとった。フリオニールの表情には多少の呆れと諦め……それから心配が含まれている。ウォーリアはちらりとだけ視線を動かした。
「じゃあ、俺たちは適当にやっておくからさ。あなたは躰を休めていて」
「……ありがとう。フリオニール」
 フリオニールにも気づかれていることに、ウォーリアは少し戸惑った。しかし、ここは甘えることにして、ウォーリアは軽く礼を伝えるだけであった。

 ***  **  ***

 昼食後、ウォーリア以外の年少組は、数人が集まって手合わせをしたり、個人で武器の手入れをしたり、談笑をしたりと、思い思いのことをして過ごしていた。
 火の側ではフリオニールがどかっと腰を下ろして、各種武器を並べている。ひとつひとつ丁寧に調子を見ては、確認をしていった。弓の弦がしっかり張られているか確かめている最中に、フリオニールは声をかけられた。
「フリオー。ウォルの躰を休めるってなんスか? てか、フリオはなんでそういうの、知ってんスか?」
「オレも思った。フリオ、説明頼む」
「オレも一応知っておきたい」
 ティーダ・ジタン・スコールに詰め寄られ、弓の手入れ中だったフリオニールは「えっと……」と、思わず腰だけで後ずさっていた。
 フリオニールは持っていた弓を置き、ふー、ひと息ついてから詰め寄ってきた三人に向かい合った。三人もフリオニールの前に陣取るように腰を下ろす。パチパチと火が燃える隣で、四人の話は進められた。
「俺もあまり知らないんだけど、ウォルは夜寝ていないらしい。だから、ああやって昼間に眼を閉じて、眠れない躰を休めている」
「夜、寝ていない?」
「セシルに聞いたから間違いはない。理由までは教えてくれなかったけどな」
 ジタンに問われ、フリオニールはこくりと頷いた。三人は互いに顔を見合わせている。ジタンもスコールもティーダも、意味がまだ理解できていない様子を見せていた。