甘いもの♀

                 2019.5/02

「……なんだ、これ……は」
「見てのとおりだが?」
お前には何に見える? テーブルを凝視していたわたしはガーランドに言われ、視線をガーランドに移した。ガーランドは優雅に茶を淹れてくれている。
 テーブルの上にはマカロンや柑橘を使ったゼリー、クリームをふんだんに使ったケーキ、いろんな型の焼き菓子など、甘そうなスイーツが並べられていた。
 柑橘のゼリーはもしかしなくても、甘味の苦手なガーランドのためだろうか……? とにかく、わたしは唖然としていた。これだけの量をどうするのだろうか。というより、これらのスイーツはいったいどこで調達してきたのだろうか……?
「ああ、材料があったのでな……儂が適当に作った」
「は?」
 わたしは言葉を失った。適当で……この仕上がりか? ぽかんと佇むわたしに、ガーランドはぽん、と肩を叩いてくれた。わたしが見上げると、ガーランドは顎で椅子を差してくれた。
「何をしておる。茶は入った。座って食え」
「……」
 わたしは黙って着席した。この男はどこまで器用なのだろうか。いつも作ってくれる食事といい、わたしが何かする必要など、ないような気がする……。
「美味しい……」
 手元にあったマカロンをわたしは頬張った。もう、それしか言えなかった。本当に美味しいものを前にして、つらつら感想など……わたしに出るはずもない。分かっているからこそ、ガーランドも何も言わない。顔を綻ばせて食べ進めるわたしに満足しているのか、ガーランドの顔も少し緩んでいる。
「ガーランド。わたしだけではなく、お前もどうだ?」
 作ったのはガーランドなのに、わたしはまるで自身で作ったかのように、ひとつのマカロンを摘んでガーランドに差しだした。
 ピシィッ、ガーランドの硬直する妙な音が聞こえた気がする。なんだろう? わたしが首を傾げる間もなく、ガーランドはわたしの顎を掴んできた。
「なに……っ? ぅうん、は……ぁん」
 わたしは唇を塞がれていた。何に? 問うまでもない。この小屋にはわたしとガーランドしかいない。わたしは驚愕し、眼を見開いてしまっていたが、口付け犯の正体が分かるとそっと眼を閉じた。
「んぅ……んッ」
 唇が離されると、私の身体は力が入らない状態だった。椅子の背凭れに身体を預け、荒い呼吸を何度も繰り返していた。ガーランドはわたしの口端を指で拭うと、ぺろりと舐めとっていた。
「ふむ、少し甘いな……」
「……っ⁉」
 ガーランドの言葉の中に含む意味を私は汲み取った。私の頬に熱が籠るのが解る……。私はガーランドを見ることが出来なかった。下を向き、わたしは自身の腰布をきゅっと握りしめていた。恥ずかしくて、顔を上げることも出来ない。
「なんだ? もう食わぬのか?」
「……」
 ちろり、わたしはガーランドを座ったままで見つめた。立ったままのガーランドに、わたしがどのように映ったのだろう。何となくガーランドの目の色が変わったように……見える?
「お前は? 食べないのか?」
 わたしはもう一度マカロンをガーランドに差しだした。ガーランドは何故か苦笑している。わたしは何かおかしなことをしたのだろうか?
「……そうだな」
 そう言うと、ガーランドはわたしの手より、マカロンを奪ってしまった。「何を……」言いかけたわたしに、ずいっとガーランドはマカロンを差しだしてきた。
「食わぬのか?」
「……」
 わたしはガーランドに何も言えなかった。ガーランドが何をしようとしたのか……わたしはようやく理解した。わたしは口を開けた。少し恥ずかしい。そう思っていると、口内にマカロンが……。
「んんぅ、……ンっ」
 マカロンではなく、ガーランドの大きな舌が入ってきた。わたしは吃驚し、うしろに下がろうとした。だけど、無理だった。わたしの頭はガーランドの大きな手にしっかり抑えられている。わたしはガーランドの好きなように口内を蹂躙された。
 ぷはぁ、ようやく離された唇に、わたしは大きな吐息をはきだした。ガーランドはじっとわたしを見つめてくる。
「お代わりは?」
「……お前が欲しいだけなのではないのか?」
「そうだな……」
 ひょいとわたしはガーランドに抱きかかえられた。私はガーランドの意図に気付いた。ガーランドを見ると、鋭い黄金の虹彩に艷めく色を含んでいる。わたしは胸が早鐘のように打ち鳴らすのを感じていた。
 きゅっ、わたしはガーランドの逞しい首に腕をまわした。密着しているので、高鳴る鼓動に気付かれているかもしれない。
「まだ……昼間だが?」
「次は儂がお前を喰らう番であろう?」
たらふく喰わせてもらおう。くくっと嗤うガーランドに、わたしは頬を染め、首にまわした腕に力を入れることしか出来なかった。
「お腹いっぱいになるまで……食べてくれ」
「仰せのままに」

 Fin