闇夜の抱擁

                2018.06/22

 暫く降り続いた五月雨が漸く止みあがり、雲の切れ間から大きな月が見え隠れする静寂な夜のこと。

 月を眺める青い鎧に身を包んだウォーリアの傍に、黒の厳つい重鎧に身を包むガーランドが近付いた。青年の手を取ると、ガーランドはぎゅっと握った。
 驚き、ガーランドを見上げるウォーリアに構わず、ガーランドはウォーリアを引き寄せた。その重厚な鎧の胸の中へウォーリアを閉じ込める。
「あ……」
 ガーランドはウォーリアの特徴的な角兜を外した。自身も厳つい兜を取り去り、お互いに素顔を晒す。言葉なく見つめ合う二人は、やがてどちらからともなく顔を寄せ合い、ゆっくりと唇を触れ合わせた。
「ん……」
 季節は温かくなり始めたとはいえ、夜間はさすがに冷え込む。ガーランドのフルフェイスの兜で外気から遮断された唇には、ウォーリアの冷えた唇が心地好かった。
 ウォーリアはガーランドの唇から伝わる熱を感じながら少し口を開き、ガーランドの舌を招き入れた。口付けが徐々に深いものへと変わり、離れる時には銀糸も共に切れた。
 はあ。ウォーリアから淫靡な吐息が洩れ、ガーランドの胸に体重を預けた。ガーランドは力の抜けたウォーリアの身体をそっと抱きしめる。とろりと惚けた表情のウォーリアを、ガーランドは目を細め見つめた。
ガーランドの視線に気付いたウォーリアは、恥ずかしそうに眼を反らした。何かを伝えようと、口許に手をあて、ぼそりと囁いた。
「ガーランド……私はお前を愛「愛しておる、ウォーリア」
 ガーランドの重なる声は優しく、ウォーリアの告白を覆い被せた。ウォーリアは眼を丸くして驚き、ガーランドを呆然と見つめた。
「……なっ!?」
「……二度は言わぬぞ」
 少し照れた様子のガーランドに、ウォーリアは言葉を失った。互いに何も言えぬまま、暫く仲良く固まっていた。
 ようやく言葉の内容を理解し、先に動いたのはウォーリアだった。嬉しそうにガーランドの厚い胸に腕をまわした。

ガシャン‼︎

 抱擁の際に、鎧同士がぶつかる予想外の大音量が周囲に響き渡った。
 就寝していたセシルとノクティスは、慌ててテントから飛び出してきた。
「何? 今の音? 敵?」
「…………もしかしなくてもアンタ達か?」
「セシル……ノクティス……すまない」
 いち早く状況を察知したノクティスが、抱きしめ合う二人を見て呆れた様子で言い放った。どことなくうんざりした気配に、ウォーリアは素直に謝った。
「ちょっとガーランド、僕達がいることも忘れないでよね」
「何故儂に言うか? それ以前に理解したなら、儂らの邪魔をするでないわ」
 その美しい顔を歪ませて、セシルはガーランドをじろり、睨みつけた。くだらないことで安眠妨害するな、と如実に目だけで語るセシルを、ガーランドは怯むことなく反論した。
 三人の様子を見聞きしていたウォーリアは、ガーランドの胸の中で徐々にいたたまれなくなっていた。
「……」
 心なしウォーリアの頬が朱く染まっているのに、夜の闇が掻き消し、誰にも気付かれることはなかった。

 Fin