小さな幸せ♀

                 2018.10/02

 コーネリアの街外れにある小さな小屋に、わたしとガーランドは住みついた──。

 わたしは街を出ようかとも考えた。だが、それをしてしまうとガーランドは騎士団長の地位を捨て、わたしを追うと言う。
ガーランドの騎士団長としての地位を、わたしのために捨てさせるわけにはいかない。わたしはそう思い、ガーランドとこの地に住むことに決めた。
小屋は使われていないものを二人で少しずつ修繕した。何とか住めるようになるまでには、結構な日数がかかった。
その間はコーネリア城にある、騎士団寮のガーランドの部屋で過ごしていた。ガーランドがしきりにわたしを心配し、常に傍においておこうとする。自然と周りにはわたしの存在が知れ渡り、何故か求愛してくる者もいた。
小屋が修繕出来るとガーランドはすぐに寮を出た。もちろんわたしも一緒に。ガーランドのいない寮に部外者のわたしが残るわけにはいかないし、ガーランドが当然それを赦しはしなかった。
小屋はとても小さく、キッチンとトイレ、風呂、二人で過ごすリビングと寝所しかなかった。それでもわたし達には充分だった。ようやく手に入れた二人だけで過ごせる居住空間に、わたし達はぎゅっと抱きあって喜んだ。

 その日の深夜、わたしは初めてガーランドに抱かれた。ハジメテをガーランドに奪われたわけだが、正直な話、痛みしか覚えていない。泣きじゃくるわたしをガーランドは何度も慰め、優しく抱いてくれた。そんな記憶しか残っていない。
その日からほぼ毎晩抱かれるようになり、わたしの身体はいつしかガーランドを覚えてしまった。中もガーランドを受け入れられるようになり、痛みより気持ち好さが勝るようになった。
それから幾月も経ち、わたしの身体はガーランドをしっかりとこの身で愛せるようになれたと思う。恥ずかしくてガーランドには言ったこともないが。

◆◇◆

「次はこれをどうすればよい?」
いけない! ガーランドに南瓜を切ってもらっていたのだった。キッチンで隣に立って共に作業することなど、これまでであまりない事だから、わたしはつい浮かれて過去のことを悠長に思い出してしまっていた。
「バターを入れた鍋で玉葱を炒めて欲しい」
力と手間のかかる作業はガーランドに任せ、わたしはチキンを手際よく焼いていく。チキンのあとは彩り用のサラダに取りかかった。
玉葱を炒め終えたガーランドは南瓜と水を投入して、テーブルにわたし達のカトラリーを置いてくれた。
コトコトと南瓜と玉葱の煮えるいい音と匂いが立ち込めてきた。火を弱めた鍋の中身を時々かき混ぜていると、テーブルセッティングの済んだガーランドが戻ってきた。
「ウォーリア……」
「ガーランド?」
わたしのうしろに立ったガーランドは、その大きな腕をわたしの背中から回してきた。
「ガーランド? どうした……?」
ガーランドはわたしを背中から胸の中に閉じ込め、下腹部に両手を添えた。
わたしはガーランドが何をしようとしているのか分からず、首を動かして背中越しにガーランドを仰ぎ見た。
見てハッと気付いたわたしは、慌てて前を向いた。
ガーランドの金の双眸は野獣のように妖しく光っていた。わたしの下腹部はガーランドの手が添えられているし、何よりうしろからぎゅっと抱きしめられている。身動きをとることは一切できない。
「ガーランド、今は……」
夕食前だ。この状況を何とかしないと。わたしはガーランドをもう一度仰ぎ見た。
ガーランドはわたしの頭頂部に唇を押し付けた。わたしは肩をビクッと震わせ、ぎゅっと自らの腕で自身を抱きしめた。
ガーランドはわたしの様子を背後から見下ろし、下腹部にあてた手に力を籠めた。わたしの身体はガーランドの力に負け、うしろに下がった。とすん、わたしの後頭部がガーランドの胸にあたり、わたし達はより密着した。
「案ずるな。今はこれ以上せぬ」
ガーランドはそれだけを言い、下を向いたわたしの髪をかき分け、うなじに唇を這わせた。
「あッ、……ぅんっ」
わたしは慌てて口を押さえたが、出てしまった甘い声はしっかりとガーランドにも聞かれていた。
「可愛い声を出すな。抑えが利かなくなるわ」
「っ! 誰のせいだと……!」
「儂だな。だからあとで責任を取ってやろう」
「なに……をするつもりだ」
「夕食後にすることなどひとつしかなかろう? 今宵も愉しませてもらうぞ」
お前のここにたくさん飲ませてやるからな。する……、ガーランドはわたしの下腹部を擦ってきた。
「~~~〜っ!」
わたしはガーランドの言った言葉の意味を正確に捉えた。声も出ないほど驚愕した。おそらく顔は朱く色づいたに違いない。火照っているのが自分でも解る。

コトコトコトコト……

 南瓜と玉葱のスープが出来上がりを主張してきた。美味しそうな匂いが部屋中を充満させる。
ガーランドはわたしの下腹部から手を離した。お玉を手に取ると、鍋の底からかき混ぜる。小皿に取って味見し、足りない塩やスパイスを適宜足してくれた。
この辺の采配はわたしよりガーランドの方が上手く、わたしはいつも最後の味付けをガーランドに任せている。
まだ愕然と固まったままのわたしに、ガーランドはくっ、嗤いながら言い放った。
「出来たようだな。食事もお前もどちらも遠慮なくいただくとしようか」
残さず全て喰らい尽くしてやる。ガーランドの言葉にわたしの身体が火を噴きかけられたように朱く染まった。

 Fin