リーダーの在り方

                2018.5/19

当サイトにまつわる話で一貫してクラウドがリーダーをしているのは、つまりこういうことです。

 

「クラウド、いいのか?」
 この日は満天の星が煌めく静寂な夜だった。見張りを兼ねて秩序の年長三人が火を囲い、丸太に座って話し合う。パチパチと燃える火に木をくべながら、バッツは目を瞑って腕を組み、なにかを考えている様子のクラウドを見て心配げに尋ねた。
 バッツに問われ、目を開けたクラウドは眉根を寄せた。ちらりと視線を動かしてから、バッツのほうへと向きなおって問い返す。
「なにがだ?」
「リーダーだよ」
 バッツはクラウドを見ていても、どこか浮かない表情をしている。バッツの様子を一瞥したあと、クラウドは眉根を寄せたまま再び瞼を閉じた。
「ああ……。多分、オレが一番の適任だろう。お前やセシルは皆のフォローにまわってほしい。難しい役はオレが引き受ける」
「でもよ……」
 腕を組んだままでさらりと答えたクラウドに、バッツは思わず立ち上がった。両拳をブルブルと震わせている。
 悲痛な面持ちのバッツに、ふっ、とクラウドは笑みを浮かべた。閉じていた瞼を開けたクラウドは、バッツに「心配するな」と組んだ肩を竦めて答えた。
「歳上の言うことは聞くものだ。それに……ウォーリアがリーダーをできる状態になれば、それでオレはお役御免になる。それだけのことだ」
「……っ、」
「バッツ、熱くならないよ」
 セシルは人数分のカップに火にかけたポットからお湯を注ぎ入れ、即席の温かい茶を淹れていく。「はい」とクラウドとバッツに茶を差しだし、自身も飲みながらもう一度クラウドとバッツを見た。
「クラウド、無理はしないでね。僕たちにできることなら、なんでもするから」
「だったら、オレの補佐をしてくれないか。オレは言葉が足りないから、セシルのフォローがあれば助かる」
「それならお安い御用だよ」
「あ、それだったらおれもするよ。お前について、あいつらのフォローもしてやりたいしな」
 熱い茶を啜りながらクラウドは口元を緩めていた。躊躇うこともなく、快く二つ返事をしてくれた二人の気持ちが嬉しかった。
 本来ならクラウドがする必要のない、やりたくもないリーダーの役──。それが、セシルの助けとバッツが年少組のフォローまでもしてくれるなら、至らない自分でも上手く立ち回れるかもしれない……。クラウドの心がじんわりと温まっていくのは……熱い茶を飲んだからか、それとも、二人の心に触れたからか。
「……決まりだな。それでいいだろう? ウォーリア」
 クラウドはここから少しだけ離れた場所にある樹に凭れ、腰を下ろして休んでいるウォーリアに向けて伝えた。
 ウォーリアは年長三人が決めたことは、覆すことのできない決定事項だと理解している。そのために、ウォーリアが特に否定する必要もない。クラウドをちらりと見たあと、ウォーリアはすぐに視線を戻した。
「ああ。私にはまだここの仕組みがわからない。今まで私がリーダーだったというのなら、いずれは私がなろう。だが、今はまだ……頼む」

 
 浄化を受けたウォーリアがこの地に降り立ったのは、ほんのつい先ほどのことだった。到着して早々、一切の記憶がないために仲間たち名も顔もわからなかったウォーリアは、まずメンバーを知ることからはじめていった。
 そんなウォーリアを『今までリーダーだったから』──と、一度は仲間たちからリーダーに奉り上げられた。しかし、まだ右も左もわからない状態のウォーリアにリーダーは到底難しく、見かねたクラウドは助け舟を出した。
『もう少しウォーリアのレベルが上がり、リーダーとしての自覚が出るまでは──……オレが代行しておいてやる』
 その場にいた全員が驚いた。少なくとも、クラウドが言いだすなんて誰も思わない。それでも、記憶のないままのウォーリアより、よほど適任であると……年少組で反対をする者は誰もいなかった。
『それでいいな、ウォーリア』
 クラウドに確認で聞かれ、ウォーリアはなにもわからないまま首を縦に振った。クラウドとウォーリアの傍では、セシルとバッツが無言で見守っていた──。

 
 そうして年少組が寝静まった深夜に、秘密の会議がこうして年長組とウォーリアで行わていたのだった。
「オレは構わない。そう思うなら、さっさとレベルを上げてぼんやりさんを返上しろ」
「……そうだな」
 クラウドの素っ気ない物言いに、ウォーリアは少しだけ表情を緩めて答えていた。
 年少組は自身を最初から頼るような目を向けていたが、この三人だけは違った。自身を筆頭として見つつも、まるで保護者のように温かい目を向けて守ってくれる。常に傍にいて、わからないことを教えてくれた。そして、今もこうして──。
「クラウド。ぼんやりさん返上とは、具体的にどのようにすればいいのだ?」
 樹に凭れたまま、ウォーリアは星空を眺めていた。ウォーリアにとって、この世界はまだ知らないことが多い。それはウォーリアが忘れてしまっているからなのか、消されてしまっているからなのか──。ウォーリアは三人との会話の片隅で、そのことを考えていた。
「まずはレベルを上げることだな。それからこの世界の理を知り、知識を得ろ。生き抜くための技術や力を付けることも必要になる。安心しろ、おれらで教えてやるからよ」
 ウォーリアが問いたのはクラウドだが、答えてくれたのはバッツだった。屈託なく笑いながら答えてくれたバッツに、ウォーリアは三人に向き合って破顔した。珍しく表情を変えたウォーリアに、三人は呆然と見つめていた。
「……どうした? 私の顔になにか?」
「いや……。今までにはなかった表情だったからな」
「もしかしたら今回神竜いい仕事した?」
「……かもな。なんとなく、今までのウォーリアと違う感じがするしな」
 クラウド・セシル・バッツが続けて口にした内容を、ウォーリアが理解できるはずもない。今度はウォーリアがきょとんとして三人を見つめた。
「ウォル。そんなに離れた所にいないで、こっちにおいでよ。お茶を淹れるから」
「ああ」
 ゆらり。ウォーリアはゆっくりと立ちあがり、三人のいる火の側へと向かっていった。空いた場所に腰を下ろし、セシルからお茶を受け取る。熱くてすぐに飲むことはできなかったが、ウォーリアはしばらく茶の澄んだ緑色を眺めていた。

 こうして満天の星の下、四人の質疑応答は明け方まで繰り広げられた──。

Fin