残されたもの同士で

                 2022.12/26

「ドーガ、ウネ……」
 悲嘆に暮れる少年のそばに、一羽の鳥がふわりと舞い降りる。それはウネが肩に乗せていたオウムだった。オウムは変わり果てたドーガとウネの姿を確認すると、クエ……ッと小さな声をあげた。
 千年もの長い間、片時も離れることなく、ずっと眠るウネのそばに寄り添うようにしていたオウムが、少年の見ている前で鳴き続けている。それはまるでオウムの慟哭のようで、少年の胸は締めつけられるほど軋んだ。
「……ごめん。ボクが、キミのご主人様を……手に、かけて……しまった、から」
 言葉を紡げば、少年の翡翠色の瞳からぽろぽろと涙が溢れてくる。どうして……? という気持ちで、少年の心もいっぱいだった。
 ドーガは『鍵を取ってくる』と言い残し、少年の前から姿を消した。そして、最後に告げた『ウネを起こすように』という、あの言葉……。その時点で少年は気づくべきだった。この未来を。ドーガが眠るウネを起こすように、そして、自分の命が長くないと少年に打ち明けていたときに。
 気づかなかったのは、少年がまだ人の気持ちを考えられないほど未熟だから──。とはいえ、今はそうも言っていられない。悲しんでいては、ドーガとウネに叱咤されてしまう。
 パシッ!
「いた……っ、」
 少年は両頬を自分で叩いた。両の手のひらと頬がジンジンと痛む。でも、これくらいでいい。ドーガとウネは本気で少年に向かい合ってくれた。その気持ちに応えないと。少年は手の甲で涙を拭った。
「キミは……どうするんだい?」
 鳴いているオウムに問いかけても、なにも返してはくれない。少年は少し考え、もう一度問いかけた。
「……ウネのほこらに、戻ろうか。送っていってあげるよ。……それとも、ボクと来る?」
 千年も生きてきたオウムと同じ時間軸を過ごせるのか。それとも主であるウネが喪われたのだから、このオウムは元の時間軸を取り戻すのか。ウネとともに、この世界からいずれは消えてしまうのか。それは少年にもわからない。
「ね。とりあえず、ボクと行こうよ」
 それでも、にこりと無理に笑ってオウムに言葉をかけた。悲哀を誤魔化した笑顔など、すぐに見透かされてしまうというのに。
 嘆きの声を出し続けていたオウムは、クエッと小さく鳴いて少年に向かって羽根を広げてきた。
「っ、⁉」
 少年が驚くと同時に、オウムはちょこんと赤い肩当てに爪を立てて乗ってくれた。……これは、どちらの意味だろうか。少年は首を傾げる。
「えっ、……と。ウネのほこらがいいのかい? それとも、ボクと?」
「クエッ」
「……ま、いいか。とりあえず、ほこらから行ってみようか。それからのことはキミと決めよう」
 こうして、少年と肩に乗ったオウムは、ドーガの館を離れてノーチラス号へ乗り込んだ。出発の際も、オウムはずっと少年の肩に乗って、なにかを紡いでいる。それはオウムの奏でる鎮魂歌だった。
「悲しいけど、素敵な響きだね。なにを歌っているの?」
「クエッ」
 しかし、ウネがいないことで、オウムの言葉もわからなくなってしまっている。そのことに少年が気づくのは、もう少し先のこと──。

                    Fin