節分

                 2019.2/02

「フリオー! ちょっと手伝ってくれ!」
 とある日の昼下がりのこと、秩序勢が拠点としている野営地の食材を保管している場所にて。
 数多くの食材とにらめっこしていたバッツは、たまたま通りがかったフリオニールを呼び止めた。
「あれ……! バッツ、よくそんなに材料を集めてきたな」
「エクスデスに頼んだんだよ。持つべきものは大樹だぜ」
 にしし……、バッツは満面の笑みを見せる。なかなか手に入らない貴重な食材まで手に入り、バッツは少し上機嫌になっていた。
 そんなバッツを見て、フリオニールもくすりと笑う。今から仕込めば夕食までにはどうにか間に合う。フリオニールはバッツの作ろうとするものを瞬時で見抜き、脳内で時間演算を始めた。
「だったら……オレはこれをしていいか?」
「フリオがこれしてくれるのか? 助かる……! オレはあっちをするよ」
さすがフリオ……! 何も言わずとも、何をすればいいのか理解してくれる。バッツの動きを読み、手際良く動いてくれるのは、この秩序勢の中ではフリオニールしかいない。加えてこの察しの良さ。バッツはフリオニールに全幅の信頼を寄せていた。
 二人は互いに頷き合い、握りこぶしをコツンと当てあった。
「「よし、じゃあやるか!」」

◆◆

「なんだ? これは……」
「見て分かるでしょ。キミいくつ?」
 野営地内にある秩序勢の年長組が使うテントのひとつで、クラウドはゲンナリした表情で洩らしていた。誰が見ても解るそれをあえて聞くのは、拒否の意味を込めている。
 それを理解したうえで、セシルも応酬する。この役目はクラウドが適任なのは、メンバー全員が口を揃えて言うだろう。
「違うっ! オレが言いたいのは」
「はいはい、クレームは一切聞かないよ」
 言葉のラリーを打ち切り、カポッ、セシルはクラウドの頭に飾りを付けた。それは秩序勢唯一の紅一点であるティナを怖がらせることのないようにと、可愛らしくデフォルメされている。
「……っ! 嫌がらせだろう、これは」
「可愛いよ。よく似合ってる」
 それが逆にクラウドの羞恥を煽り、嫌がることを知ってセシルは製作をした。たまには恥じるクラウドも良いものだ。セシルはにこやかに微笑んだ。

◆◆

「ねえ、これでいいのかな?」
「その程度で大丈夫だろう」
 野営地内の中心に作られ、皆の憩いの場として活用している火の側では、オニオンとスコールが何やら作業をしている。
 火を利用し、鍋で何やらガラガラと音を立てている。時折、ピシッやパシッと音が漏れ聞こえる。音を頼りにオニオンもスコールも手を動かしていた。
「これ、何するの?」
「さあな……、バッツのすることだ。良いことであると願いたい」
『スコール、オニオン。これ、煎っといてくれ』
 そう言って、バッツはスコールに袋を押し付けていった。やけに重量のあるそれを覗いてみれば、二人がかりでも骨を折りそうな量──。
「早くやってしまおう。まだあんなにあるよ……」
「そうだな……」
 まだまだ大量に残された袋の中身を見て、二人は盛大な溜息をついていた。

◆◆

「なあ、何匹釣りゃいいんだ?」
「最低人数分って言ってたっスよ。あと少しっスね」
 野営地から少しだけ離れた場所にある大きな湖は水場と呼ばれ、メンバーの大切な水分補給及び食糧補給を担っている。そこにジタンとティーダが来ていた。釣り竿片手に二人は笑い合っている。
「よし、オレにあとは任せろ!」
「何言ってるっスか! オレがやるっス」
 釣りとなれば何故か勝負を始めてしまう二人だが、今回は依頼を受けてここに来ている。
『二人とも、水場で魚を釣ってきて欲しい』
 珍しくフリオニールに声をかけられた。魚なら乾燥させたものが常時備蓄してある。そうではなく、フリオニールは新鮮な生魚の状態で欲しいと言う。それは即ち、何かしらある? 二人は同じことをそれぞれ考えた。
「おい、もういいんじゃねーか?」
「そうっスね。これだけあれば十分っしょ」
 人数分どころか、バケツ一杯分を二人で釣り、にこにこと満面の笑みを浮かべて二人は野営地へと急いだ。

◆◆

「ウォル、可愛い!」
「……」
 火の側にある大きな樹に凭れて休んでいたウォーリアを見つけ、ティナは近付いた。その手に持っていたのは、手鏡と櫛。ウォーリアは嫌な予感を感じ、逃げを試みた。しかし、結局ティナに捕まることとなる。
「ねぇ、ウォル。時々はこうしてもいい? すごく似合うのにもったいない」
「ティナ……私は兜を被る。せっかくしてもらっても無駄になるのだからやめ」
「兜被らなければいいじゃない」
「……」
「ねっ!」
 可愛らしい笑みの中に含まれる強い圧力を感じる。ウォーリアは何も言えなくなり、沈黙した。はぁ、諦めの溜息をつく。
 こういうときのティナに逆らえないのはメンバー全員周知なので、それに倣いウォーリアも好きにさせることにした。
『ティナ、これでウォルを飾ってくれないかなぁ』
 セシルに言われ、ティナは笑顔を見せた。元々可愛いもの好きな女子が可愛いものを差し出され、嫌な顔をするはずもない。ただ、それが自身用でなく、ウォーリア用だった。そこは残念だった。
 それでも、普段から仏頂面をしたウォーリアを可愛くしてあげれるなら……。しかも、こうして普段触れることも赦されなさそうなことまで出来るなら……。ティナはウキウキでウォーリアの髪に飾りを付けていった。

◆◆◆

「バッツ、出来たよ」
「おっ、さんきゅな。オニオンもスコールも……大変だっただろ」
「……構わない」
腕を振りすぎて筋肉痛になってしまった。なんて恥ずかしくて二人とも言えなかった。その代わり、オニオンが筋肉痛に効く薬をサクッと調合し、こっそり二人で飲んでいる。漢方成分が主原料のため、薬の効きは遅い。
 くすり、バッツは分からない程度に顔を緩めた。どんなに隠しても身体は不自然な動きをしている。しかも、二人共通で。原因が何かも分かっているし、オニオンが何を調合するかもだいたい解る。
 バッツは手持ちの袋の中からひとつの小瓶を取り出した。ポイっと投げてオニオンに渡した。
「オニオン、それ小さじ一杯ずつ飲んでな。お前のとは成分が違うから併用可能だ」
「……分かってたの?」
「あれだけの量だ。少なからずなるだろ」
「そうだね、あれはないよ」
「はは、厳しいな」
 苦笑を浮かべるバッツに、オニオンもそれ以上は言わなかった。バッツが何を計画しているのか。隣で作業するフリオニールを見て、オニオンは気付いた。フリオニールのあまりの手際の良さに、スコールは言葉をなくしてじっと見ていた。

「フリオ〜! 持ってきたっスよ!」
「大量だったぜ!」
「お前ら、声デカい!」
……バッツ(アンタ)の声が一番大きい。
 調和の女神の加護を受けた自然豊かな地に、野営地は設営された。しかし、周辺には加護の及ばない地もある。そんな場所はお世辞にも安心とはいえない。加護の及ばない地には獰猛な生き物も数多く生息している。
 近くにそんな危険な場があるのに、大声を張り上げた二人を、バッツは一喝した。したが、そのバッツの声が一番大きいことを、ここにいる皆が思った。
「……大量じゃないか。ありがとう」
 場の気まずい沈黙を打ち破り、フリオニールはジタンとティーダからバケツを受け取った。
「フリオ、何作ってんだ?」
「いい匂いっスね」
「こらこら、二人とも……」
「いいんじゃねーか、フリオ」
こっからはさ、みんなで作る方が早いぜ。にかっと笑うバッツに、ここにいる全員がきょとんとした。フリオニールはバッツの言いたいことを理解し、くす、少しだけ口許を緩めた。
「そうだな。じゃあオニオンとスコール、ジタンとティーダにも手伝ってもらおうか」
「オニオンとスコールはさっきの飲んでからな」
 フリオニールの号令にバッツは少しだけ訂正を加えた。筋肉痛を患ったままでは、これからのお楽しみが楽しめなくなる。
 オニオンとスコールは分からないなりにバッツの薬を飲み、何のことだかさっぱり分からないジタンとティーダは互いに顔を見合わせた。
「ほらほら、やることはいっぱいあるぜ。説明するから聞けよ──」

◆◆◆

「どぉ? セシル? ウォル可愛いでしょ?」
「やあ、似合うね。クラウドといい勝負だ」
 秩序勢で女性と見紛うほどの美貌を持つセシルと、唯一の女性であるティナが互いに微笑み合う。これだけで癒されると思っているのは、おそらくメンバー全員。
 美しいと可愛いのダブル攻撃を喰らったクラウドは、あまりの眩さに目を細めていた。むしろこの二人がするべきではないのか?そんな疑問すら浮かんでくる。
「クラウド、君は何をしている?」
「今のお前に言われたくないな」
 たまたま火の側に他のメンバーが集結していた。ティナとウォーリアは誰にも見つかることなく、クラウド達の居るテントに入ることが出来た。この異様な様相に、二人して互いをジロジロ見合った。
「ふふ、二人とも可愛い」
 パン、胸の前で手を叩いてティナが喜んでいる。ティナの笑顔に甘いクラウドは諦めて肩を竦め、ウォーリアは表情を崩すことなく皆に背を向けた。
「ウォル照れてる……可愛い!」
「……違う」
 今はどんな態度をとろうと、変に解釈されてしまう。誤解を招きかねないことをティナに言われる前にと、ウォーリアは口を開いた。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「どこへ行く気だ?」
まさか、この姿で? まだ概要を何ひとつ聞かされていないクラウドは、セシルの言葉に青褪めた。こんな姿を皆の前で晒すことは避けたかった。
「クラウド、ウォル。キミ達が主役なんだから、頑張ってね」
「「何の話だ?」」
 クラウドもウォーリアも首を捻った。クラウド同様、ウォーリアも何も聞かされていない。二人は仲良くハモり、セシルに向き合った。
「何の話って……決まってるじゃない。キミ達は──」
「はあ? ふざけるな!」
「それで、私はこのような姿に……?」
 次の瞬間、クラウドの盛大な怒りとウォーリアの静かな怒りが爆発し、テントは見事に崩壊した。
 いち早くテントから脱出をしていたセシルとティナは、逃げるようにバッツの元へと急いだ。

◆◆◆◆

「そっちは用意出来てる? もうすぐ怖いのが来るから、各自早く準備して」
「なんだ? 怖いの?」
「ええ、とっておきの可愛いのが来るから」
「意味分かんねーよ、ティナちゃん」
 セシルの言葉にジタンは疑問を持った。それに応えてくれたティナの言葉がさらに分からなくて、頭に大量の疑問符を飛ばした。
「お前ら、どこまでしたんだよ……」
「ちょっと発破をかけたら、かけすぎちゃったみたいでね。向こうは本気だから、キミ達も本気出さないととんでもない目に合うよ」
「あの二人の本気とかマジで死者出るぜ。とりあえず、お前ら、これな」
 にこやかなセシルに嫌な予感を隠せない。バッツは溜息をついた。ただの行事が、下手すれば本気の戦いに発展する事態は避けておきたい。
 それでも、丸腰のメンバーに戦うためのものを……。バッツは竹を割って作った器に先ほど煎ってもらったものを山盛りに詰め込み、ここに居る全員に手早く渡していった。全員が竹の器を手にしたところで号令をかける。
「セシルの話だと怖い、ティナの話だと可愛いオニさんがやってくるらしい。お前ら、来たらそれをぶつけて殺れ。いいか、加減したらお前らが殺られるからな」
健闘を祈る。今回仕掛け人のバッツとセシルは傍観役に徹することに決めていた。というより、オニさんが暴走したら止める役を誰かがやらないと、年少組に死者が出る。味方内で死人を出すことは、絶対にあってはならない。
「なんっスか、それ……っ!」
「ちょっと、説明不足だよ。ちゃんと説明して」
「ティーダ、オニオン。落ち着いて。オニさんとやらが来たら、この煎った豆をぶつけたらいいんだよ」
 仕掛け人ではないが、バッツの傍で作業をしていたフリオニールは全貌を理解していた。混乱するティーダとオニオンに、簡潔に教えてあげる。
……そういうこと、か。
 何のために大量の豆を煎らされたのか、ここでようやく解った。スコールは呆れて言葉を出すこともせず、周りを冷静に見まわした。
 ここにいないリーダーと筆頭がオニさん役とやらをさせられているのは解る。しかし、スコールが気にしたのはセシルとティナの言葉。怖いと可愛いはどう頑張っても同義語にはならない。ジタン同様、スコールも頭に大量の疑問符を浮かべた。

「ここにいたか…」
「「クラウドっ⁉」」
なんともいえないオニが来た。火の側で作業していた全員が思った。バッツですらセシル作の衣装を見てはいなかった。代表してジタンとティーダが上擦った声を仲良くハモらせた。
「ね、可愛いでしょう」
「いや……ティナちゃん、それはどうかと」
 どう言っていいのか、ジタンですら言葉に迷った。赤い色のどっぷりしたポンチョを羽織り、頭に二本の角がちょこんと付いたカチューシャを付けたリーダーの姿に、誰も反応が出来なかった。皆、目が点になっている。
 ぶっちゃけ可愛くもなければ何でもない、カチューシャがなければ一見普通の恰好だった。
 それでも、上擦った声を上げてしまったのは、クラウドが手に持つ釘の付いた大きなバットを目にしたから。その釘バットをぶん回し、真顔で迫って来れば、怖いなんてものではなかった。
「クラウド、ここにいたか…」
「遅いぞ、ウォーリア」
 少し遅れてウォーリアが到着した。こちらも異様すぎて、クラウド同様、皆目が点になった。
……なんだ、あれ?
どこから突っ込んだらいいのか分からない。というか、突っ込んでいいのかすら分からない。フリオニールは正直に思った。
 ウォーリアの髪は頭上で纏められており、ティナとお揃いのリボンを付けた状態だった。それだけならいい。それに加えて横に長く伸びた黒い角のカチューシャをウォーリアは付けていた。
 まるでどこかの猛者の兜を模したような、そんなカチューシャを違和感なく付けている。普段から縦に伸びた角兜を被るから違和感がないのか。くらり、フリオニールは目眩を感じた。
「せっかくだからお揃いにしたんだよ」
 にこり、セシルは微笑んでいる。よく見たらウォーリアもどっぷりした青のポンチョを、青の鎧の上から羽織っている。同色を重ねているため、全く目立たず意味がない。
……クラウドとカラーチェンジした方が良かったのでは…?
 ここにいるティナ以外の年少組とバッツは心の中で一斉に突っ込んだ。

◆◆◆◆◆

「みんな、早く豆ぶつけないと殺られるよ」
いつの間にか『殺る殺られる』の話になってしまっている。それでも誰も突っ込みを入れないのは、このなんともいえないオニさん達が、圧倒的な強さを見せるからだった。
「それっ! 豆を受けるっス!」
「オレにぶつけようなんざ、万年早いわ!」
 豆を投げてもことごとく釘バットで打ち返される。複数人が同時に投げてもクラウドは怯むこともない。というのも──。
「来るがいい! 私が全て受け止めよう!」
「ちょ……ウォル、シールド張るの卑怯っス」
「なら盾で逝くか?」
「漢字が怖ぇよ、なんなんだよ……」
 ハッスルして豆を投げていたのは最初だけだった。圧倒的な強さを誇るオニさん達に、豆をぶつける側が防戦に入りかけている。
「何してんだか」
「放っておけ……」
 早々に戦線を離脱し、セシルやバッツと同様、オニオンとスコールは傍観を決め込んだ。ジタン・ティーダ・フリオニール・ティナはまだ頑張ってオニさん達とバトっていた。
「まず、ウォルのシールドを剥がさなきゃダメだ」
「どうやって剥がすんだよ……あんなのチートすぎるだろ」
「ねぇ、クラウドが何か構えてるわよ」
 ひそひそと円陣組んで作戦会議を立てている最中に、ティナはピリ……、空気の痺れるような波動を感じた。チラリと目をそちらに向けると、クラウドが釘バットをぶん回している。
「ちょっ……と、あれはマズくない?」
「子供相手に何やってんだよ」
本気出すなっつーの。マジで必殺技を打ち込もうとするブチ切れクラウドを止めるべく、セシルとバッツは動いた。
「ウォル、シールド剥がさせてもらうよ?」
「痛っ!」
「ちょーっと落ち着こうな?」
「……ちっ」
 セシルがウォーリアを、バッツがクラウドをそれぞれ止めた。攻防で無敵のように振舞っていたオニさん二人を一撃で止めたセシルとバッツを、他のメンバーは唖然として見ていた。
「はい。豆ぶつけはこれでおしまい! オニさん達には着替えに行ってもらうからね」
 にこやかに微笑むセシルが一番怖い。年少組メンバーは全員感じた。というのも、セシルはウォーリアのシールドを剥がしただけでなく、一発ゲンコツを入れていた。
『ウォル、それ以上するなら……分かってる?』
 黒いオーラを発して黒い笑みを見せたセシルに逆らえる者は誰もいない。こくり、ウォーリアは無言で頷いた。
「よっしゃ。オニさん達が着替えてる間に、オレらは準備だ」
 秩序メンバーで一番の怪力を誇るクラウドに勝てる可能性のあるのは、防御に徹したウォーリアかジョブマスターのバッツだけだった。バッツはそのチートな技を使い、クラウドのものまねをしていた。
『そろそろ止めねーと、こっちはホンモノのエモノ出すぜ……?』
 釘バットに本物の武器が敵うはずもない。クラウドは一瞬で戦況を読み取り、釘バットを下ろした。大きな舌打ちを付けて。

◆◆◆◆◆

「全く……被害者はオレ達だろ」
「……」
 壊れていない年長組テントにオニさん達は入り込んだ。クラウドはブツブツ愚痴りながら、ポンチョとカチューシャを外していく。
「どうした?」
「……」
 何もしないでぼんやり立つウォーリアが気になった。クラウドはオニの衣装を全て外し、ウォーリアの傍へ寄った。
「ウォ……リア?」
 口許に手をあて、眉を寄せてほんのり頬を紅潮させている。普段見ることのないウォーリアの感情変化に、クラウドは目を丸くして凝視した。
「もしかして……楽しかった、のか…?」
「……セシルに言われるまで、私は我を忘れたかのように暴れてしまった」
 こくり、頷いてポツリと洩らす。クラウド以上に寡黙なウォーリアがかなり珍しい。
「そうか。その衣装も気に入ってるなら、しばらくそのままでいろ」
 もう一度こくりと頷くウォーリアに、クラウドは苦笑するしかなかった。同色の分かりにくいポンチョは思いのほか暖かく、鎧で身体の冷えるウォーリアにはありがたいものだった。実際、クラウドも身に着けていたのだから、暖かさは身をもって分かっている。
 ただし、ウォーリアの髪を結わえるリボンは取り除いた。ふわり、ウォーリアの綺麗な髪がポンチョの上に広がった。
「髪が……」
「首が冷えるだろ。外しておけ」
……角は……ウォーリアの横に座る者の迷惑にならなければ、別にいいか。
 どこか他人事のように考え、クラウドはウォーリアを促してテントを出た。

◆◆◆◆◆◆

「あれ? ウォル、着替えてないの?」
「気に入った……それを?」
 ポカンとウォーリアを見るセシルとバッツに、クラウドはくっ、嗤った。表情をいつもの無表情に戻したウォーリアは、こくり、やはり無言で頷いている。
「まぁいいんじゃねーか。ウォーリアがそう言うなら」
早く座れ。もう次の準備は整えている。今回の功労賞をあげてもいいオニさん役の二人を空いた席に座らせ、バッツはフリオニールと頷き合った。
「ほれ、どっさり食え!」
「今年は東北東だよ。ひとり一本、黙って食べる!」
 バッツとフリオニールに睨まれ、全員で黙々と恵方巻きを食べる。大変シュールな絵面に、監督するバッツとフリオニールは笑いを堪えるのが大変だった。
「みんな食ったな。まだ食える奴にはおかわりもあるぜ!」
「こっちは皆に手伝ってもらった分だ。形はまちまちだけど、味は同じだから」
 メンバーが一本ずつ完食したのを見て、バッツとフリオニールは次のものを用意していた。こちらは先ほどジタンやティーダに手伝ってもらった分で、フリオニールの言う通り形がかなり不揃いだった。
 それでも、エンゲル係数を爆上げするジタン・ティーダ・ティナがいる以上、いびつな太巻きはみるみるうちに減っていった。
「焼き魚だ、こっちも食えよ!」
「頭は柊に刺すから残しておいて」
 バッツが大皿に大量の焼き魚を載せて運んできた。美味しそうに焼けた魚にメンバーは目を輝かせた。だが、フリオニールの言葉に、全員魚を食べる手が止まった。
「どういうこと……?」
 さすがに気になったのか、オニオンはフリオニールを見上げた。くすり、いい笑顔を見せ、フリオニールは説明を始めた。
 かくかくしかじか…
「なるほど…どう見ても魔除けの呪いだけどね」
「そんなこと言わない。先人の知恵には倣わないと」
 正直に毒舌をはくオニオンに苦笑を洩らす。確かにフリオニールも教えてもらうまで、オニオンと同じことを考えていたのだから、人のことをグタグタ言えない。
「こうすればいいのか?」
 ブスッ! 勢い良く魚の頭を木の枝に刺したウォーリアが何故か怖く感じた。黒い角を生やした見た目が、余計怖く見せている。
「……? 違ったか?」
 誰も応えてくれないので、確認のために首を左右に振る。いつもは縦に伸びた角だから、さほど気にすることもない。しかし、今は横に角がある。つまり……。
「うおっ! あっぶねーだろ!」
「アンタのそれは武器か……?」
 被害はウォーリアの両隣にいたジタンとスコールに向けられた。ウォーリアが首を振ったので、ジタンもスコールも危うく横角が当たる被害に遭いかけた。二人は身体を反らしたり低くしたりして、どうにか直撃を避けていた。
「いや……ウォーリア、あってる…」
 笑いを堪え、バッツは自身の頭をこんこんと指でつついた。横角のことを暗に指しているのだが、ウォーリアが気付いたかは定かではない。
 ウォーリアを倣い、魚の頭を木の枝に刺していくメンバーを見守った。
「よっしゃ、こっからは無礼講だ!」
 大量の料理をバッツとフリオニールで分担して運んでいく。育ち盛りの多いこのメンバーで、こういったご馳走が並ぶのは貴重な機会だった。
「やったー!」
「たくさん食えよ!」
 満天の星が浮かぶ寒い冬空のなか、火の側で行う楽しい時間がこうして始まった。

Fin