身勝手な想い

                2020.5/25

『お前は……っ、ガーランド』
『……このような場所で、また出逢うとはな』
 なにもわからない状態でこの地に着き、あてもなくさまよっていたころ、ウォーリアはひとりの人物と出逢った。
 それは、異界の地で幾度と闘争を繰り返してきた〝猛者〟と呼ばれる宿命の相手だった。宿敵──のほうが、言葉としては合っているのだろう。とにかく、ウォーリアはその男と出逢うことで、これからの運命は大きく変化を見せることになった──。

 まず、行くあてのなかったウォーリアを、猛者──ガーランドはコーネリアの街外れにある自宅に招いてくれた。放っておいてくれても良かったものを。ウォーリアは呆れたが、どうやらガーランドはそれなりに世話好きのようだった。このコーネリアの騎士団を統べる長であるらしく、かなりの多忙を極めている。それなのに、ウォーリアを同居人として扱ってくれた。
 日中は帰ってくることなどなく、夜も帰宅はかなり遅い。ウォーリアといえば、先に寝ることをせず、ガーランドを待っていた。この住まいの主であるガーランドより、先に眠るわけにもいかないと……頑なにガーランドの帰宅を、起きて待ち続けていた。
 これには、毎晩ガーランドも苦笑を浮かべていた。ウォーリアが起きていることは嬉しいが、そこまでしてもらうこともない。毎夜就寝前にガーランドはウォーリアに伝えていた。
「先に眠っておいて構わぬのだぞ……」
「……私は」
 そこまでだった。ウォーリアはそれ以上のことを言わせてもらえなかった。ガーランドの厚い胸に閉じ込められ、ウォーリアは身動きひとつできなくされる。それでも、ウォーリアは厚い胸に頬を擦り寄せ、ふふ、ほんの少しだけ小さく綻ばせた。
「あまり心配をかけさせるな……」
 それだけを囁くと、ガーランドは優しく、包み込むようにウォーリアを胸に抱きしめる。ふたりで温め合うようにして、この日も遅い眠りに就いた。

***

「……きすの日?」
「知らないのかい? お兄さん」
 食料の買い出しに、ウォーリアが街へ出たときだった。野菜の詰まった袋を受け取り、ウォーリアはきょとんとしていた。
 この世界へ来て、ガーランドと過ごすようになってから、日はかなり経過した。ウォーリアもこの国での生活に慣れてはきてはいるが、聞いたこともない言葉はまだ多くある。
 ガーランドが教えてくれることもあるが、騎士団の職務で不在のことが多い。そんなガーランドにあまり聞くこともできず、ウォーリアは独学で学んできてはいたのだが……。
「(中略)……というわけで、今日は〝キスの日〟と呼ばれてるんだよ」
「そうなのか……」
 ウォーリアは愕然としていた。所謂記念日と呼ばれるものは、ガーランドが率先して祝ってくれる。先日も出逢って半年が経過したからと、ご馳走を作って祝ってくれた。それなのに、今回は教えてくれていない。それどころか、話題にも出てこなかった。まるで、ウォーリアには知られたくないかのように。
 ウォーリアが光に満ち溢れた世界に到着してから、季節は大きく変化を見せだしていた。それは、ウォーリアも自覚している。暖かな日差しを浴びてガーランドと出逢ったというのに、今はガーランドの高い体温が心地よい。眠るときのことを考えていたウォーリアは、ふと、思い起こした。
「……」
……最後に口づけしたのはいつだっただろう?
 出逢って間もないころは、眠る前などにいつも口づけをしてくれていた。それが、今は──? 思い返し、ウォーリアは自分の唇を触りだした。少し唇を開き、人差し指でするりと撫でる。それは、まるで紅をさすような仕草だった。
 その仕草が色っぽすぎて、ウォーリアは周囲の注目を浴びている。だが、そのことにウォーリアは気付かない。袋を受け取って店主に挨拶をしてから、そのままふらりと歩きだした。
 購入するものは終えたので、このままガーランドの自宅に戻るだけだった。唇を指でなぞりながら歩み続けるウォーリアのこの仕草は、風に乗って瞬く間に広まった。当然、騎士団にも──。

 ウォーリアがこの世界に来てからは、ガーランドとの生活がすべてになった。
 しかし、ガーランドは騎士団の任に就き、騎士団長として国を守るために剣を振るう。この国を守る者としてのガーランドは、とても頼もしく……思えた。ウォーリアと戦いの輪廻を繰り返してきた、歪んだ狂気に満ちた猛者とは、到底同一人物とは思えない。
 ウォーリアと一緒に過ごすなかで、ふたりきりになれるのは就寝のときだけだった。日中はガーランドが不在、もしくはガーランドと一緒にいたとしても、誰かが一緒だったすることが多い。それに、夜はガーランドも疲れて帰宅してくる。さすがにウォーリアも早くガーランドを休ませてあげたいと思い、ふたりで寝台に早く潜り込む。
 身体を繋げることも、これまでに何度かはあった。それは、ガーランドが翌日の任務が休みのときに限り、ウォーリアも許諾していた。身体を早く休ませなければならないのに、そのようなことしてる場合ではない。そのため、ガーランドとの触れ合い自体を、そんなにたくさんしてきたわけではなかった。
 本来ならば、すれ違いが生じてもおかしくはない。ガーランドは騎士団にも自室を持っており、そちらで寝泊まりも可能だと……ウォーリアは知っている。それなのに、ガーランドはどれほど遅くなろうとも、必ず帰宅する。
 大変だろうと思う反面、ウォーリアは嬉しくも感じていた。この世界にただひとり、投げ出されるかのように取り残された。見つけてくれて……行くあてもないウォーリアを自宅に招いてくれて、こうして生活できる場を与えてくれる。
 ウォーリアに異界での記憶は多少残されていたものの、輪廻中に何度もガーランドに凌辱されてきたことは、一切記憶に残していない。そのために、ガーランドに触れられても、毎回びくりと身を震わしては享受していた。今となっては、決して、嫌な行為ではなかったから──。

「……」
……口づけか。
 街中を歩くウォーリアは、唇を指でなぞっては思い返していた。人通りの少ない路地に入ると、そこでピタリと歩を止めてしまう。
 最後にガーランドと行った口づけが、噛みつかれるような激しいもので、大きな舌が口の中を蹂躙していくのを思いだした。人通りが少ないとはいえ、まだ街中なのにウォーリアの顔はかあぁっと真っ朱に染まっていく。
 珍しいことだった。ウォーリアは感情を表に出すことなど、滅多にない。ましてや、人の多い場所でなど……。それでも、野菜の詰まった袋を片手に持ち、空いた手は唇を触れている。朱く染まった頬はそのままに、ウォーリアはその場で佇んでいた。
……私は、なにを──。
 ウォーリアの脳内は、ガーランドに与えられる口づけでいっぱいになっていた。荒々しい口づけを受け、酸欠になっているのに気持ちが好い。唇を離されても止めてほしくなくて、ウォーリアはじっとガーランドを見つめていた。
『もっと……』
『はっ、随分積極的ではあるな』
 ウォーリア自らがおねだりをしてしまったことも思いだし、朱い頬をさらに真朱に染めていく。ふしだらなことを自ら願ってしまったことを恥じてしまい、ウォーリアは後悔していた。ガーランドは呆れてしまったのではないか、と……思ってしまった。
「なあ、あのお兄さん……」
「ああ。あれはヤバいよな……腰にクる」
 人通りが少なくても、街を歩く者は当然存在する。ウォーリアは街中で注目されていた。それなのに、顔を朱くして色めいた表情を、街の人たちに見せてることにも気付いていない。周囲の者たちからのひそひそ話も、耳に入ることはなかった。

 

「〜〜ッ⁉ あれはなにをしておるか……」
 息を切らしてその場に現れたガーランドは、ガックリと項垂れた。同時に、厳つい兜面に手をあて、大きく嘆息する。

『美しい青年が、街中で色気を振り撒いている』

 そのような怪しげな情報が騎士団に届けられたのは、つい先ほどのことだった。妙な胸騒ぎを感じたガーランドは取り急ぎ駆けつけ、呆れ半分怒り半分となっていた。
 しかし、ウォーリアのあの様子はかなりひどい。まるで世のものすべてを魅了させるかのごとく、周囲に色香を撒き散らかしている。すれ違う街人は老若男女問わず頬を染め、心を奪われたかのようにウォーリアを二度見三度見していた。
 様子を窺ううちに、ガーランドの怒りは頂点に達していった。ふつふつと湧き上がる怒りをどうにか抑え、身に着けている白銀の外套をウォーリアの頭から被せた。
「な……っ⁉」
「愚か者が……ッ」
 突然白い布を頭から被せられ、ウォーリアは驚愕に眼を丸くしていた。唇から指を離し、なんとか布を外そうとする。しかし、それはできなかった。
「ガーランド、か……? なにを──?」
「大人しくしておれ」
 急に横抱きにかかえられ、ウォーリアの身体はびくんと揺れる。野菜の詰まった袋を落とすまいと胸に抱え、大人しくする。布を頭から被せられていても、抱きかかえる人物がガーランドとわかり、ウォーリアは表情を少し緩めていた。瞼を伏せ、指で唇に触れる。
 どこかに移動しているようだが、ガーランドが連れて行ってくれるなら、ウォーリアは任せるのみだった。こてんと頭を重厚な胸当てにあてる。振動とともに、ガシャガシャと白銀の鎧の擦れるような金属音が聞こえてくる。
 聴き慣れた音を耳に入れ、ウォーリアはどうしてガーランドがこの場に現れたのかを考えていた。偶然にしては都合が良すぎる。考えられるのは、ウォーリア自身がなにかしてしまったか……。だけど、ウォーリアに覚えはない。ガーランドに運ばれるままに、胸を高鳴らせては緊張もしていた。

「着いたぞ……」
「ガーランド……、騎士団は?」
 着いた先はガーランドの自宅だった。ストンと地に下ろされ、ようやくウォーリアは白い布を外すことができた。これが騎士団の白銀の外套であることは、移動中に気付いている。陽光を浴びて、外套に刺繍されたコーネリアの百合が透けていた。それは、内側から見るウォーリアの眼にも映っていた。
 外套をガーランドに返し、ウォーリアは野菜の袋を持ちなおした。ぎゅうぎゅうに野菜の詰まった袋は、移動により歪な形に変わっている。ここで落とし、野菜を悪くするわけにはいかない。
「入れ」
「……」
 どうしてか、ガーランドは憤怒している。ガーランドのまとう鋭い覇気は闇の色を孕んでおり、それは周囲にも影響を及ぼしている。危険を察知したのか、鳥は一斉に飛び立ち、森の小動物たちはすっと逃げていった。
 ガーランドのまとう闇の覇気はウォーリアにも伝わり、浮かれていた気持ちも沈んでいく。突然現れたと思えば、なにをそこまで怒るのか。理由のわからないウォーリアは言われるまま、ガーランドについて家の中へと入っていった。
 バタン
 扉をガーランドによって後ろ手に閉められては、ウォーリアに逃げ場はない。あるとすれば奥の寝所だが、そこへ入ってしまえば、さらに逃げ場を失うことになる。
 ウォーリアは瞼を伏せ、ガーランドの叱咤を受けることにした。なにが原因かは理解できなくとも、なにかをしてしまったがために、ガーランドは任務中に自身の元へ現れた……それだけは察した。
「何故、あのような場で色香を振り撒く必要があった」
「……?」
 ウォーリアはきょとんと首を傾げていた。伏せていたはずの瞼を大きく見開かせ、ガーランドをじっと見つめる。言葉の意味が理解できない。なんとかもう一度教えてもらいたくて、ウォーリアは唇を震わせた。だけど、うまく言葉が出てこず、はくはくと唇だけが動く。
「騎士団に報告が来た。『色気を振り撒いている美しい青年がおる』と。何事かと思い、駆けつけてみれば……まさかお前とは」
「……」
 ウォーリアはますます困惑した。色香など、振り撒くはずがない。少なくともそのような行為など、したつもりも、ましてや見せたつもりもなかった。
「私は、そのようなことをしていない……」
 そのことをガーランドに説明していく。部屋の隅でガシャガシャと鎧を脱いでいたガーランドは、すべて脱ぎ終えるとウォーリアの傍へと寄ってきた。
 ガーランドはウォーリアの頬をさらりと掠めるように撫で、指の腹で唇をゆっくりとなぞっていく。
「悩ましげな表情を浮かべ、唇を指でなぞるその仕草が紅をさすようで……艶やかにも映ったのであろう。……儂も見せてもらったが、言葉が出てこなかった」
「……っ、」
 ドサリと音を立て、野菜の袋は床に落ちた。ガーランドの言葉に、ウォーリアは唖然としていた。床にころりと転がったじゃが芋や、袋の中で潰れたトマトのことなど気にすることもできず、ウォーリアはその場で硬直していた。
……見られて、いた?
 ガーランドに触れられた唇が、一気に熱を持ったようだった。唇が熱い。これでは、まるで口づけを受けたかのように思えてしまう。ウォーリアは気恥ずかしさに耐えきれず、ふいと視線をガーランドから逸らした。
 それでも、ガーランドに問い詰められていることに変わりはない。ウォーリアは意を決したかのように、ガーランドに説明していく。
「……お前との口づけを思いだしていた。それで……最後にしたのはいつだ?」
「……」
……そういうことか。
 ガーランドは小さく嘆息し、ウォーリアを見下ろしていた。出逢って間もないころは、ガーランドも頻繁にウォーリアと口づけを交わしていた。白いひたいや瞼など、行為の際は唇以外にも、全身にも行っていたというのに。
 それが、今は……。思い返し、ガーランドはウォーリアの頭を撫でた。わしゃわしゃと撫で、そっと抱き寄せる。ここ最近行っていないことに、不安を感じさせているのかもしれないと……ガーランドも思い至った。
「……いつであろうな。儂も記憶しておらぬ」
「そうか」
 頻繁に行っていた口づけも、それが特別なものだと認識してしまったガーランドは、迂闊に行うことができなくなっていた。大切に行いたいからこそ、簡単にはできなくなってしまっている。
 ウォーリアの身に触れることに、躊躇を抱いてしまうのも同じ理由からだった。この青年の将来を、ここで縛りつけていいものか……最近はガーランドも悩んでいた。
 だが、先のウォーリアを見てしまい、ガーランドの胸中にかつての歪んだ感情が芽生えていた。闘争の輪廻を繰り返していたあのころに行っていた、ウォーリアの記憶していない凌辱をもっての支配を、またしても──。
「ガーランド?」
「……っ、すまぬ」
 ガーランドが胸中にドス黒い感情を芽生えさせていることを知らないウォーリアは、伏せていた瞼を上げてじっと見つめていた。無垢なアイスブルーの虹彩は、それだけでガーランドの黒い心を浄化してくれるようだった。あまりの清廉な美しさに、ガーランドも息を呑む。
「ガーランド、私のことを気にかけてくれているのか……?」
「……」
 とろりと潤んだ瞳で、じっと上目遣いで見つめられては、ガーランドも本日が〝キスの日〟であるかを知るだけに、理性が崩壊するのも時間の問題に感じられた。せっかく我慢してきたものを、この青年はいとも容易く崩してくれる。ガーランドは心中でこっそり苦笑し、抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。それだけで、ウォーリアはびくりと小さく身を竦めさせ、おずおずと腰に手をまわしてくる。
 日中は騎士団で過ごすうちに、ガーランドの心にも変化は訪れていた。ウォーリアの幸せを願い、誰かの元へやるのか。もしくは、今までどおり、己の鎖に捉えてしまうのか。
 葛藤と自問を繰り返していたガーランドは、ウォーリアの顎に指をかけると、くいと上を向かせた。眼を丸くするウォーリアを無視して、その唇にするりと指の腹で撫でる。それだけで、ウォーリアの頬は朱で染まる。
 艶美な色に染めゆくウォーリアの表情を見つめ、ガーランドはゆっくりと唇を重ね合わせた。
「ん、んぅ……」
 最初は触れるだけの口づけだった。だが、徐々に噛みつくような荒々しい口づけに変化していく。ウォーリアの唇を覆うように唇で塞ぎ、大きな舌を口内に捩じ込む。びくりと震えるウォーリアの舌を捕え、絡ませていく。己から逃げることは赦さないとばかりに、何度も角度を変えては口内を蹂躙していった。
「ふぅ……、んッ」
 ガクガクとウォーリアの膝は揺れる。突然の荒々しい口づけに、ウォーリアの身体が保ちそうになかった。崩れそうになっても、ガーランドのまわされた手がそれを赦してはくれない。腰と後頭部を固定するように押さえられたガーランドの腕は力強く、それでいて独占欲の塊のようで……ウォーリアも腰にまわしていた腕に力を込めていた。
 この行為が決して嫌ではないこと、止めてほしくないことを、この身で伝えたかった。それでも、終了のときはやってくる。
「んぅ……」
 唇を離されてから、ウォーリアは酸欠になっていた。荒々しい口づけを受けてぼうっとしていても、頭はガーランドでいっぱいになっている。街中で思いだし、顔を真っ朱に染めたあの口づけをまたしてもらえた。うるさく拍動する心の臓とともに、ウォーリアの心は歓喜で満ちている。
「……」
 言葉を紡ぎたいのに、唇も力が入らない。崩れそうになる膝をどうにか堪え、しがみつくようにガーランドを抱きしめる。きゅっと黒のアンダーを掴み、ようやく与えられた口づけに、ガーランド自身も我慢してくれていたと知る。
「……お前も、我慢していたのか?」
「黙れ」
「んっ、」
 記憶しておらぬ……は嘘だった。ガーランドはしっかり覚えている。ウォーリアの幸せを願うならどちらか……、結果など、前者に決まっている。だが、ガーランドは後者を選んだ。ウォーリアが望んでいるのなら、わざわざ別離を願う必要もない。
 変なところで的を得た答えを出すウォーリアの唇を、口封じのためにまた塞ぐ。ガーランドも堪えていた期間があったために、我を忘れたかのように何度も舌を絡め合わせていく。
 口づけが本当に大切で……特別なものだと認識してからは、大事に愛おしむかのように行って、そうしているうちに、触れることも戸惑うようになってしまった。そのために、身体に触れることさえも。ガーランドの説明がないために、結果として、ウォーリアはあのような奇行をしでかした。ガーランドとしては頭が痛い。
「私は……望んでここにいる」
 口づけの合間に、ウォーリアははぁと隠微な吐息を零し、ガーランドに訴える。ガーランドの激しい口づけは酸欠になるし、苦しいことも多い。それでも、唇を塞がれることも、その結果として得られる多幸感がとても好きで、されるがままに応えてしまう。
「がーらんど……、だから。もっと……」
 ふしだらだと思っていたおねだりを、結局は繰り返してしまう。頭はぼうっとして、うまくまわらない。ウォーリアは蕩けた眼差しを向けて、呂律のまわらない舌を動かし、懸命に伝える。
「はっ、そのようなことを……知らぬぞ」
「私がのぞんだ……だから、」
 とろりと蕩けた艶を含んだ氷色の眼差しで、じっと見つめてくるウォーリアの瞼に口づけを落とし、ガーランドは横抱きに抱えあげた。扉は施錠しているので邪魔は入らない。この明るい時間からウォーリアを抱けることに、ガーランドも興奮を隠せずにいた。

 その場に残された野菜の袋は、行為が終わってからガーランドが潰れたものから順次調理していった。
 そのご馳走の量に、ウォーリアが驚くのはもう少し先のこと──。

 Fin